電子講義:入門量子情報

全卓樹

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猫でもわかる量子情報(4)

量子論最小限その1:状態と観測

 観測結果が観測者の恣意に書くとまるで狂人のたわごとのようですが、じつは極論するとそれこそが量子論の本質なのです。もうすこし詳しく見ていきましょう。量子論では「ものの状態」と「観測の結果」というのを区別します。なぜなら状態なら全て観測できるわけではなく、神ならぬボブ君には、「ある決まった状態のセットのうちのどれか」しか観測できないのです。「スピン1/2」に関して具体的にはいえば、たとえば「上向き」と「下向き」のどちらかしか見つかりません。「例えば」といったのは、別な可能性もあって、「右向き」と「左向き」のどちらかしか見つからない、というのもありです。「というのもあり」って何のことでしょう?これは実はボブ君が測定装置の設置方法で「どの方向に関して測定しようか」を決められるということなのです。

定量的な計算は後でやるとして、大凡の感じを言うとこんな風です。いま仮にアリスが矢印を「真上向きの状態」に置いたとします。ボブがきて測定装置を「縦(上下)方向ではかる」配置にすると、矢印が上向きで見つかる確率が100%で、下向きで見つかる確率は0%です。あたりまえでしょ?ところが、この同じ状態をボブが「横(左右)方向ではかる」と言う設定で測定したとします。するとなんと、矢印は右向きに見つかったり左向きに見つかったりします。そうです。同じ状態でも測定方向の置き方によって測定結果がかわるのです。それはつまり「測定」と言う行為によって「状態」が変化すると言うことでもあります。この場合は測定の結果が左右どちらの向きに出るかはちょうど半々の可能性で、確実には予測できません。つまり「測定」の結果は確率的で運次第ということでもあります。

なんで結果が観測者によるんだろうか、という疑問を抱くのは常識人として当然ですが、前にも述べたように、こういう根本的な疑問でとどまって前に進まないのも考えものなので、ここではこれを所与の事実として受け入れてしまうことにする意外ありません。

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