(2)-3. 1号人骨の生体復元

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二歳女児の前頭断スライス・プラスティネーション
子供の骨格を組み上げるにあたって、最大の難関は、発見された骨をいかにつなぎ合わせるかであった。生前、骨と骨の間を埋めていた軟骨はもはや残っていない。また幼児であるため、成人では一つの骨になる寛骨が腸骨、恥骨、坐骨と言う三つの部分に分離した状態で見つかる。このような場合、現代幼児の解剖学的な研究データやレントゲン写真が参考になるが、今回はプラスティネーション標本が威力を発揮することになった。それは、さらに、交連骨格(つながった全身骨格のこと)に筋肉、脂肪など皮下軟部組織を付け、幼児の生前の立体像を復元するという復活作業においても同様であった。
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二歳女児の前頭断スライス・プラスティネーション
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二歳男児の矢状断スライス・プラスティネーション
医学・解剖学の世界で近年注目されているプラスティネーション標本は、人間の組織から水分を取り除いた後にシリコン樹脂をしみ込ませて作られる。各組織の形状などを表現するために血管を通して別系統の樹脂を浸透させるなどの方法がとられる。本標本は薄く切断されたあと透明な樹脂に包埋されたスライス・プラスティネーションと呼ばれるものである。無臭、無害で誰でも直接手に触れることが可能なプラスティネーション標本は、医学・解剖学の領域にとどまらず、様々な分野の研究教育素材として活かされる可能性を秘めており、今回の研究においてはデデリエ幼児を復活させるに欠かせない基礎資料の役を果たした。
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二歳男児の矢状断スライス・プラスティネーション
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筋肉が付加されていく1号デデリエ幼児
完成した全身骨格の模型の表面に、およそ400種類もある筋肉を付加していく。それぞれの筋肉の位置、厚みなどを現代人の子供のプラスティネーション標本などを参考に推定し、丁寧に付加していく (Compiled from Miyanaga and Takahashi, 2003: Plate XVI)。
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1号デデリエ幼児の復元像
完成した三種類のデデリエ・ネアンデルタール復元像。左から、筋肉復元像・粘土像・着色像。粘土原型から型取りされたポリエステル製の生体原型が着色され、そして甦ったデデリエ幼児の生体立像。皮膚や頭髪の色調、目の色、一重瞼か二重瞼か、唇のかたちは化石人骨資料からは完全に消滅している。これらについては、米国ニュー・メキシコ大学マイケル・アンダーソン、エリック・トリンカウス及び同大学マクスウェル人類学博物館によるネアンデルタール復元像を参考としている。年齢はおよそ二歳、身長はほぼ80センチ、この年齢では性別を判定することは困難である。男の子として甦ったのはプロジェクトリーダーの希望である。全体のプロポーションで目立つのは頭の大きさである。二歳で80センチの身長は現代幼児の平均値のなかに入るが、頭の幅からみる頭の大きさは日本人の六歳児程度に匹敵している。その他の特徴としては、腕が長く、二歳幼児としては著しく鼻が高く大きい。一方で下顎のオトガイは現代人のように突き出ず、後退気味である。全体の姿かたちはふくよかである。あるいは痩せこけていたかも知れない。これは子供らしさをもって甦らせたいという制作者の優しさのゆえである (from Miyanaga and Takahashi, 2003: Plate XVI-4)。

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