永島 正康 教授 永島 正康 教授

NAGASHIMA Masayasu

永島 正康 教授

専門分野/経営学

教員詳細

戦略と事業プロセスの一体化で
戦略の実践を成功に導く
新しいビジネスモデル

流通との適切なコラボレーションを通じて
顧客満足を最大化するプロセスを構築

 マーケティングとは顧客の立場に立って満足をもたらす価値を提供すること、すなわち顧客価値の創造であり、企業の経営の根幹を成す部分と言えよう。しかし、マーケティング戦略に関する理論研究は数多く存在するものの、それをどう実践するのかについての研究は非常に少ないのが実状だ。実際に企業の現場でも、戦略を的確に実践し、期待する成果を得ることは極めて難しい。パナソニックで30年間デジタル家電の国際マーケティングに携わってきた永島教授は、“戦略実践の鍵は、戦略とそれを実践に移すプロセスの一体化にある”と考え、サプライチェーンの観点から戦略を実践するためのプロセスについて研究を行っている。
 商品企画から製造、販売までの一連のプロセスをつなげるサプライチェーンの中には、製造と販売など、利害の異なる組織が複数存在している。この組織間の利害の相違によって、サプライチェーンの連鎖が遮断され、最終消費者に商品が本来持つ価値を正しく認識してもらえないというミスマッチが数多く発生している。
 「製造側はなるべく早く長期のオーダーを確定してほしい。一方、流通側は日々刻々と変化する市場に柔軟に対応したい。こうした異なる行動規範で動いている組織を束ねて、顧客価値を創造するのは実に大変なことなのです」。いくら製造部門が良い製品をつくっても、販売先の流通の選択やそこでの売り方がその製品の特性に合っていなければ、消費者がその価値を把握できないという事態に陥ってしまうのだ。

流通との適切なコラボレーションを通じて顧客満足を最大化するプロセスを構築 国際的に著名な論文誌に掲載され、高く評価された学術論文の数々。

「例えば、新たな技術を備えたハイテク家電商品を売り出す場合、本来は、専門店での対面販売を通じてその価値を丁寧に伝える必要があります。しかしながら、販売の量を求めて、いきなり量販店で販売してしまうと、その製品特性の説明も十分ではないため、高い性能を持った製品価値が顧客にうまく伝わらず、販売が伸び悩み、結果的に価格を下げて在庫処分をせざるを得なくなる。こうした悪循環が世界中で頻繁に発生しています」
 永島教授はこうしたミスマッチによる弊害をなくすため、「製品の特性」「製品のライフサイクル」「流通パートナーの選択」「協働のレベル」といった4要素の整合性を確保する「Adaptive Collaboration Strategy(適切なコラボレーション戦略)」の実践を通じて戦略とプロセスを一体化できるのではないかという仮説を定義した。そしてパナソニック在職中に、「先行事例がないなら自らやってみよう」と、フランスの大手流通とデジタルカメラにおける協働の取り組みを実践。製品特性や製品のライフサイクルに合わせて、組むべき流通パートナーや協働のレベルを変えることで、適切なコラボレーションが実現でき、戦略とプロセスの一体化を実証した。このモデルに関連する複数の研究成果は、国際的に著名な論文誌に数多く掲載され、高い評価を得ている。

エレクトロニクス産業の
未開の領域に光をあてる

 そして現在、永島教授は自ら構築したビジネスモデルの完成度をさらに高めようと研究を進めている。「これまでのモデル設計はあくまでハード面が中心でしたが、現在はそれを実際に動かしている人と人の関係性にも注目しています。つまり、これまでの4要素の“目に見える活動の設計”に加え、関連する主体者同士が、「信頼」「報酬」「相互依存」といった3要素の“目に見えない関係性の構築”を同時に実践することで、コラボレーションがさらに円滑に進むようなモデルの構築をめざしています」。
 研究の中で、永島教授は、国内だけでなく、米国、欧州、アジアの家電製造・販売企業を訪問。グローバルなサプライチェーンの枠組みの中で、どのような連携を行うことが全体のパフォーマンスに威力を発揮するのかについて検証を行っている。「サプライチェーンを語る時、よくフォーカスが当てられるのは製造と販売の連携についてです。しかしながら、これまでの研究の結果、実は商品企画と販売の密な連携が全体のパフォーマンスに大きな影響を与えることも分かってきました」。
 世界的に量販店が台頭している家電業界においては、メーカーが最終消費者に繫がる連鎖が量販店の所で切れており、この製造と販売の分断が業界最大の課題となっている。その中で、グローバルに商品企画から製造、販売に至る全体のプロセスを捉え、いかに顧客価値を創造するかについて実証的な研究を行っている研究者は世界的にも限られている。「未開の領域だからこそ、そこに光をあて少しでも産業界に貢献していきたい」と永島教授は力を込める。

エレクトロニクス産業から
地域に至るまで
幅広く貢献する協働プロセス

 永島教授はこのビジネスモデルの展開可能性を、高知県黒潮町の道の駅と連携した地域活性化プロジェクトを通じて検証している。家電産業と地域活性化。まったくジャンルは異なるが、一体どのようにビジネスモデルを展開していくのだろうか。
 まずは永島研究室の学生たちが、今年5月に開催されたNPO砂浜美術館主催の「Tシャツアート展」をボランテイアとして全面サポート。この汗をかく活動を通じて、地元住民との「信頼」「報酬」「相互依存」という3要素の“目に見えない関係性の構築”が実現できた。そして、地元住民にとっては当たり前の自然や食といった地域資源の中から、県外の顧客に高い評価を得られそうな黒潮町の価値を発掘し、4要素の“目に見える活動の設計”を通じて県外からの顧客の購買や満足につながる実践的な作戦提案を行う計画だ。
「学生たちは、地域の中に入り込み、まずは地元の人たちの役に立つというところから始めました。そうするとだんだん本音の話が聞けるようになり、地元の人の目線に立った町の課題を肌で感じることができるようになりました。その肌感覚を持ち続けることで、地元の人に受け入れられる実践的な提案が可能になると考えています。とはいえ、頭の中は常にクールに、ターゲットとするお客様を冷静に見ながら分析を行い、いかに顧客価値を創造していくかを考えるマーケティングとプロセスの発想を地域の活性化に最大限生かしていきたいと思います」
 エレクトロニクス産業だけでなく、地域活性化の分野でも、戦略とプロセスが一体化できれば、顧客から喜ばれる価値を創造し、競争優位性の獲得が可能になる。エレクトロニクス産業において構築された新たなビジネスモデルは、今や地域活性化の分野でも新境地を切り拓こうとしている。