登録コンテンツ600件目インタビュー

  2012年1月に、高知工科大学学術情報リポジトリに登録されたコンテンツが600件となりました。リポジトリに論文等をご提供いただいた皆様、運営にご協力いただいた皆様に心よりお礼申し上げます。

  600件目のコンテンツは、山本真行先生(システム工学群 准教授)の「Detection of Acoustic/Infrasonic/Seismic Waves Generated by Hypersonic Re-Entry of the HAYABUSA Capsule and Fragmented Parts of the Spacecraft」でした。
 これを記念しまして、山本先生にインタビューを行いました。

この論文の内容について教えてください

 昨年、はやぶさが地球に帰ってきて、地球の大気をドンと叩いた時の「音」「低周波音」「地震波」を測定したものです。
 地震波がなぜ起こるかというと、ドンと衝撃波が来てその大気が揺れますよね。その揺れた大気が地面を揺らすのです。地面の揺れは体感できないのですが、ボンという体感できるような重低音が聞こえました。地震波は隕石でも起きます。隕石が大気を叩いて衝撃波を生んで、いろんなところで一般の人が音を聞くということがありますね。それが地震計を揺らしている証拠もあって、そういうことを調べるために、はやぶさを使ったというのがこの論文です。
 おもしろいのは、地震計とかその微気圧計のデータですけど、最初ドーンと聞こえたのは衝撃波の音なんですね。その後、トントントンと後追いみたいに聞こえました(音源ファイル:参照=ヘッドホンで聞いて下さい)。これが何ものかということを調べるために、動画と波形を解析したら[p.974 Fig.3, Fig.4]、ここにa,b,c,d,e,fと点々があって[p.976 Fig.6]、図の左側の大きい光点ははやぶさのカプセルで1秒ずつ進んで行っているんですね。後ろの図の(右)につづく6個の光点は段々燃えていくので小さくなっていって、最後にカプセルだけが戻ってきたわけです。他は燃えてバラバラな物体になっている。この物体もやっぱり後追いで落ちてきますので、この6個の物体がそれぞれ衝撃波の音を出してる。そうことが解析でわかりました。
 [Fig.6]では、時間系列に並んでますけど、真っ直ぐ同じ速度で進んでいたら、きれいに斜めに行くでしょう?カーブしているということは、ここで減速されてるということなんです。これで、だいたいあの大きさの物が大気に突っ込んできたときに、どのくらいで減速されるのかというデータになります。こういうデータをたくさんとっていくと、将来的に例えば、何十年後かわからないけど人が乗って火星から帰ってきますよっていう時に使われるわけです。

 この論文は、日本天文学会の学会誌でオープン誌のPASJ(Publications of the Astronomical Society of Japan)に掲載されたものです。日本の研究者がずいぶん出していて、最近サイクルがよくなっていて、引用件数が増え、PASJも名前が通ってきたと言われています。日本の結果を日本の雑誌に出して応援したい。この論文は、英語だけど一般の人が読みたいと思う場合も多いだろうから、E-open※にしました。
※E-open…約2年間のアクセス制限を解除し電子版フルテキストを公開する有料のオプションサービス。

将来はどのようなことをやりたいですか

 何事も10年しっかりやれば一つの専門家になれると考えています。そうするとあと2回あるわけで、そこでリタイアでしょう。私がリタイアして次やる人がいなかったら、この技術はなくなるんですね。そういう世界なので、技術継承はしないといけないと思っています。
 やり始めたばかりの宇宙花火の実験(ロケットから光る雲を作って宇宙の風を測る実験)は10年くらい続くと思うし、低周波音の分野もたぶん今から伸びていくので、これが一番おもしろいかな。津波による低周波音は是非キャッチして減災につなげたい。海の方で津波が来たときに音が鳴ります。津波の速度より速く音が伝わりますので、それでアラートができます。
 僕は元々理学部の地球物理出身で、いわゆる物理学科っていうところから地球物理学に進んで、たまたまロケットやることになって、ロケットなんかをやりながら、それはものを作ることだし、データを解析するソフトを作ることだしってことで、議論するためのステップとして先ずものを作らないと進まないですね。だから、理学なんだけど工学をやらざるを得ない。そういうところで育ってきて、工科大に来たら、工学は、今これがあるからこれを何に使うか?ってことを必死に探している先生がたくさんいる。理学は、これがやりたいから手段を作らざるを得ない。その両方が回らないと上手くいかないのですが、どうしても工学部と理学部が分かれてて、あんまりリンクがないですね。工学は理学の人が何を求めているかを知ってそれを作る。逆に「理学の人はこれがやりたいんだけど何か手法はないか?」というのを工学の先生に聞いてみるというのがないといけないのでしょうけど、そういう人をつなぐ役割を担うべきかな、ということはちょっと思っていますね。

どのように論文を探していますか

  NASAADSというデータベースを使っています。物理学、天文学、地球物理学とか主に理学関係のデータベースです。
 我々の業界は日本語の論文自体がほとんどない。研究者が少ないので日本語だけだとサーキュレーションが悪いのです。ごくごく身近な人用に抄録みたいなものは作りますけど。我々よく年輩の人に、せっかく日本人が書いているのだから、英語の論文を書いたときに日本語も残しなさいと言われています。こういった日本語の抄録をリポジトリなんかに置いておくと良いかもしれないですね。
 逆にすごい話もあって、本学では研究室の修士論文、卒研のPDFをネットで公開しているのですが、まだ論文になっていないその内容を僕が海外の学会で発表したんですよ。そうしたら外国の方がその日本語の卒研の印刷を持ってきて、ここのこの図は何でしょう?って現地で聞かれました。日本語は全く分からないけど、図面を見たらだいたい分かると。オランダ人からいきなり印刷した日本語の文献を見せられてすごくびっくりしました。
 だから、本当に読みたいと思う人はそういうところまで探して読んできますし、検索してひっかかるし、翻訳サイトもあるので、意外と卒研とか修論を全部公開するという本学の方針はすごく意味があることではないかと思っています。
※本学では、卒業研究・論文(一部)・修士論文を図書館ホームページで、博士論文をリポジトリで公開しています。

学生へのメッセージ

 ちょっと気になっているのは、いろんなものが進みすぎてて、生まれたときからゲームマシンやインターネット、携帯電話があるのが当たり前じゃないですか。だから、なんでこれがこう動くのか、ということに興味を持つ人が少なくなっているんですよね。昔は分解するとある程度わかった。でも今は、パカッと開けてもチップが1個あるだけで、うん?、となってそれ以上進まない。こういうブラックボックスが増えた状態。それで、わからないものが増えてある程度で壁を設けてそれ以上中身を知りたいという人が減っている。
 いま新興国がまさにそうだと思うのですが、日本が昔、アメリカからものを持ってきて分解して、ああこうなっているのかと自分で作った。ところが今はそうはいかなくて、真似しにくいのかもしれません。真似できるところは真似する。コピーはできるんです。でも、根幹の部分はなかなか真似できないですね。日本は、その根幹の部分をやっていかないと負けるのでそこですよね。自分で壁を作ったり、難しそうなことにそれ以上踏みこまない人はハングリー精神のある新興国の人たちに負ける。だから、常に考えたり、やりたいことがあったら、それに向かって何か切り拓いて作っていく。そういうスピリットや行動力が必要だと思います。

(インタビュー : 2012年1月19日)

山本先生にご提供いただいた論文等一覧

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