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酸化亜鉛物語

1.私たちの暮らしと酸化亜鉛

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Zn(亜鉛)は、原子番号30番のありふれた金属元素です。

亜鉛めっき鋼板はトタン板の名称で知られていますし、乾電池は亜鉛の筒を陰極として用いています。体にとって必須の微量ミネラルでもあり、亜鉛サプリメントは普通に見かけるものです。

とはいえ、亜鉛の年間産出量が1000万tに近く、鉛の数倍であり、たとえば銅とそれほど違わないというのはかなり意外な感じがするかもしれません。

じつは、亜鉛は酸素との化合物、ZnO(酸化亜鉛)のかたちで、広範な応用を持っているのです。

酸化亜鉛基本特性
化学式 ZnO
化学式量(g・mol-1) 81.39
融点(℃) 1975(加圧下)
真密度(g・cm-3) 5.5~5.7
硬度(モース) 4~5
屈折率 1.9~2.0
溶解度(g/100g・H2O) 3~5×10-(4 25℃)
熱容量(J/K・mol) 40.3(0℃)
熱伝導度(W/m・K) 25.2(93℃)
結晶構造 六方晶ウルツ型構造
酸化亜鉛の用途 出展:ハクスイテック株式会社情報誌 インフォ 13号(2005年)

特に大量に使われているのはゴムへの添加剤としてであることが分かります。ゴムは加硫とよばれる過程で弾性を与えられ、用途に応じて改質されるのですが、酸化亜鉛は耐久性や熱放散性などで本質的な役割を果たします。一例をあげると、繊細なカラー印刷に使われるコート紙の製造には「カレンダーがけ」とよばれるローラーによる圧縮過程が不可欠ですが、そこに用いられるゴムローラーの成分の過半は酸化亜鉛だということです。ここまでいくとゴムに酸化亜鉛を加えたというよりは、酸化亜鉛にゴムを加えた製品というべきかもしれません。


帯電防止塗料

陶器・便座

陶器・皿

使用量の比率としては大きくないのですが、医薬品や化粧品への応用も興味深いものがあります。アメリカ合衆国の薬局方(第22版)によると、「酸化亜鉛はけいれん止め、舞踏病、てんかん、百日咳、…に用いられてきた。酸化亜鉛はまた、下痢の収れん剤および鎮静剤として用いられることもある。その最も重要な利用は、擦り傷やさまざまな皮膚疾患、たとえば湿疹、タムシ、とびひなどである」とされています。まさに万能薬といった趣きです。


化粧品・日焼け止め

化粧品

とりわけ皮膚の再生を促進する作用は重要で、亜鉛華軟膏や傷スプレーとして馴染み深いところです。化粧品としては、フェイスパウダー、カラミン(カーマイン)ローション、かゆみ止め、フケ防止シャンプー、UV(紫外線)カットにも使われています。日焼け止めに有効ということなのですが、これは産業への応用でもきわめて重要な役割を果たします。

というわけで、酸化亜鉛は現在でも私たちの身の回りで目立たず十分役に立っていることがよくわかります。

しかし、今、改めて酸化亜鉛が注目されているというのはどういうことなのでしょうか。

最大の理由は、酸化亜鉛が化合物半導体としてユニークな特性を持っているというところにあります。

市販品の高純度酸化亜鉛は白い粉末状であり、良導体ではありません。透明導電膜としての酸化亜鉛の応用とは矛盾しているようですが、そこには以下のような事情があるのです。


酸化亜鉛粉末

酸化亜鉛タブレット

酸化亜鉛の結晶はもともと可視光に対しては透明である(光子を吸収しない)けれども紫外光は吸収するという性質を持っています。白く見えるのは、「水晶の大きな結晶は透明だが細かく砕くと白く見える」ということと共通した現象であると理解できます。つまり、薄膜のような適当な形状であれば、本来の可視光に対する透明性を実現できます。加えて、原子の添加や加熱などの適当な処理によって、電子ドープが可能であり、透明なままで電気を通すことができるというわけです。

インジウムの日本の需要推定(t)
  2002年 2003年 2004年 2005年
(予想)
前年比%
供給
国内生産量 60 70 70 70 100
輸入量 140 264 421 350 83
小計 200 334 491 420 86
スクラップ再生量 158 160 230 300 130
供給計 358 494 721 720 100
需要
透明電極 300 360 470 590 126
ボンディング 21 25 35 44 126
化合物半導体 7 7 7 7 100
蛍光体 8 8 8 8 100
低融点合金 6 6 8 12 150
ベアリング 1 1 1 1 100
電池材料 5 5 5 5 100
歯科用合金 3 3 3 3 100
その他 4 4 4 4 100
需要計 355 419 541 674 125
出展:レアメタルニュース アルム出版社 No.2207 2005年3月1日

目前に期待されている重要な応用は、液晶パネルなどに用いられる透明電極です。
今までは希少金属であるIn(インジウム)を用いたスズ添加酸化インジウム(ITO)がもっぱら利用されてきました。これは優れた特性を持っていますが、インジウムの供給の安定性には疑問があり、需要の増大もあって、現在のままでは枯渇の危機すらあるといわれているのです。理論的には同等以上の特性をもちうる酸化亜鉛透明導電膜は、代替物としてきわめて有望です。当面枯渇のおそれはなく原料が安価であること、新しい製膜技術によれば低温処理が可能なこともあって製造コストを半減できるかもしれない、などの有利な点はすでに明らかとなっています。

さらに見のがせない大きな進歩がありました。元来酸化亜鉛は「都合のよい」物質であり、半導体という存在の内容が理論的に解明されていないころから、簡単な処理で半導体となることが知られており、むしろケイ素などよりは古くから使われていたほどです。これは酸素が電気陰性度の大きな原子であることと密接な関係があり、電子ドープ型半導体(n型半導体)を作ることはきわめて容易であったということからきています。しかし、ほぼ同様の理由からホールドープ型(p型半導体)を作ることは困難であり、その点でケイ素に代表される14族半導体などには遅れをとっていました。これに一定の解決を与えたのが高知工科大学の山本哲也教授らによる同時ドーピング法の開発だったのです。


太陽電池

液晶パネル

ホール(正孔と訳すこともある、正電荷のキャリアと理解してよい)ドープのためにはアクセプター原子を加える必要があります。しかしこれを十分量結晶中の必要な位置において機能させることが、いままではなかなかできませんでした。山本教授らは、アクセプターとドナー(アクセプターの逆)の各原子を2:1の比で同時にドーピングすることで、安定的に機能する低抵抗のp型半導体を製造しました。n型半導体とp型半導体のセットが可能になったことで、発光素子や太陽電池をはじめとする広範な応用への展望がひらけたということです。

ここで威力を発揮したのが、第一原理計算とよばれるマテリアルデザインの思想でした。ひとことで言うなら、経験的なデータや試行錯誤によるのではなく、原子の波動関数から計算によって材料の物性を予測するという方法です。計算物理学の発達によってはじめて可能になったこのやり方が、今後酸化亜鉛のみならず材料設計にさらに生かされていくことが期待されています。