電子講義:量子ゲーム理論

全卓樹

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    量子ゲーム理論(0-1)

注記(H22, Aug.):
より新しい量子ゲームの解説が「Researchmap」のサイトに在ります。[こちら]からどうぞ

はじめに

本解説は、現在高知工科大の数理工学研究室(理論物理研)が高エネルギー加速器研究機構素粒子原子核研究所の筒井研究室と共同で行っている研究である「ヒルベルト空間上のゲーム理論」について解説したものである。

「量子ゲームという話を最近時々耳にするが、調べても辻褄のあった解説がネット上にない」とする学内外の好事家の声を直接間接に聴かされる事が多い。この解説は、それに対する筆者なりの答えである。ここ2年ほどこの題材に興味を持ち、剰え「量子ゲーム」に関する論文を数編公開してしまったことから、一種の義務が発生したような気がしたからである。この解説は直接には筆者がここ数年に高エネルギー加速器研究機構、チェコ工科大学、トゥルーズ大学、東京都立大学、東京大学、インド工科大学カンプール校で行った講演の素材を敷衍し大幅に拡重して纏めたものである。

量子ゲームは、強いて分類すれば「量子情報」に属する比較的新しい分野で、人に依ってはまだあまり物理と認めていない場合もある。

そのため、技術的な側面に先立って、いったいどんな興味から、何を知りたくて量子ゲームの研究が始まったのか、そして今のところ何が分かっていて、何が今後分かりそうなのか、というような、通常物理では触れずに済ます事柄の説明にも、割と枚数を割いたつもりである。

世には「量子」という名前を一種の客引き看板のように用いる例も少なくなく、実際「量子ゲーム」がなにか直ぐに例えばハイファイナンスの分野で役に立つとの説さえ唱えられていると聞く。それはおそらくここで論じられる量子ゲームとはほとんど無関係なものであろう。

量子力学的対象を直接に操作してのゲーム理論的実験というものは、今の段階では実験室内に限られている。量子粒子を操作してのゲームといったものが現実味を帯びるのは、量子暗号や量子テレポートの実用化の時点より後であろう。さらにそもそもゲーム理論は「人に勝つ」技の伝授を目標とするというよりは、互いに勝とうとする者が集まった集団がどのように発展するかを調べるための学問であって、仮に量子ゲーム理論が十分成熟したとして、それは哲学者、経世家、政策立案者の役には立っても、政治的経済的ゲームプレーヤーとしての個人には余りご利益はないのではないかと思われるからである。

始まったばかりの、余まだ定説も確立されてない分野だとすると、必然的に筆者の個人的趣向と個人的見解が大きく表に出ることになる。後に仮にこの分野が大樹となり定説が確立された暁には、ここには大幅に修正されなければならない点が多いであろう。それでもこの段階での現状を、私なりの視点から纏めその記録を残しておく事は、決して無駄ではないと思う。あるいは本当は全く無駄かもしれないが。無駄なものの残骸の上にしか有用なものが育たないというのも、やはり科学の進歩につきまとう冷厳な真実であろう。

そのようなわけで、ここに書かれている事はほとんどすべて筆者および共同研究者の現在進行形の独自の研究成果に基づいている。ここの文章、ここに記された量子論の理解、展開されている理論、手法、素材の転載や二次的利用については、その取り扱いに特に注意を喚起したい。学術的および教育的転用は出典を明示された上で自由に行っていただきたい。それ以外の商業的、政治的等の目的での転用は一切ご遠慮いただきたく思う。いずれ纏めて出版物とする予定なので、印刷しての大量配布、ウェブサイトへの転載もお断り願いたいと思う。

この解説は、共同研究者である筒井泉博士と市川翼氏の寄与がなければ存在しないものである。この場を借りて感謝の言葉を記しておきたい。しかしここに散見されるであろう誤りはすべて筆者個人に帰すべきなのは無論である。

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