まとめと展望:量子ゲームiFAQ集
最後に量子ゲームとは何であり何ではないか、iFAQ、すなわち infrequently asked question(あまり無い質問)形式で書いておこう。
Q: ゲーム理論とは生態学、経済学、政治学の領域だった筈。なぜ量子力学がでてくるのか?
A:
量子ゲームに関する誤解であろう。量子ゲームは一面では量子粒子の個体操作の理論である。しかし量子ゲームにはもう一つの側面があり、ゲーム理論に必要な確率ヴェクトルをヒルベルト空間に拡張し定式化したのが量子ゲームである。量子的な原子や素粒子と直接の関係が無い場合も適応範囲に含まれてよい。筆者はむしろ「ヒルベルト空間上のゲーム理論」という呼称を好んでいる。これによって「通常のゲーム戦略」とプレイヤー間の相関を考慮した「拡張されたゲーム戦略」を同時に扱う事ができるようになったのである。
Q: 古典ゲーム理論にとどまっていると何か不都合な事があるのだろうか?
A: 三つ考えられる。美学的不都合:古典ゲーム理論は数学として醜い上にかなりな部分がトリビアルである。生物学的不都合:人間を含む霊長類は勿論、集団を形成する高等生物の行動を「自己の利益の最大化」で説明するのは観測事実に反する。未来技術的不都合:量子粒子を用いたゲームは10年あるいは100年かかるとしても、いずれ必ず現実化する。
Q: 量子ゲーム理論は古典的に解釈すると、利他行動を含んだゲームが導けるという立場と理解したが、利他行動が量子的起源を持つという主張なのだろうか?
A: まず前半であるが、すこしニュアンスが異なる。ここで示されたのは、量子戦略に基づいて計算した利得函数と、利他行動を含んで修正した古典ゲーム理論(Bester-Gueth-Cheonの理論)の利得函数が、ある条件の下で全く同じ形式をしているという事実である。これは「主張」や「立場」ではなく、式の上の同値性である事に注意されたい。それをどう解釈するかは、それぞれの立場があるだろうが、ここで主張されているのは、「量子ゲーム戦略」のほうが数学的に美しく包括的故に、それを出発点に古典ゲームを論じてもいいだろうと言うことである。利他行動の起源は進化生物学では諸説があるようだが、量子的であるという話は寡聞にして耳にした事が無い。ここでは起源は論じずに、社会的生物の行動に利他性を仮定する必要があるという生物学的知見を出発点に、それを記述する数学的手法として「量子戦略」を持ち出す事が提案されている訳である。
Q: 量子ゲーム理論は量子脳説、つまり脳の思考は量子論的なものだとの主張に対するサポートを与えるものだろうか?
A: 筆者の知る限りまったく無関係である。
Q: 電子や原子または分子を用いた量子的微粒子を操作しての「量子的」量子ゲームは技術的に困難で、当面は実現しないのであろか?
A: すでに実験室ではここ5年来行われている。この問題は最前線に立っている阪大のImoto研Ozdemir博士に直接コンタクトされるのがよいだろう。
|