研究分野の概説


全 卓樹

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ナノスケールの細い導線(量子線)を接続した「量子グラフ」と言うものを考えます。これは実際に「量子計算」のためのデバイスとしても考えられてきました。
 具体的な応用は後で考える事にしても、量子細線や量子グラフにどのような数理的構造が現れているか、というのはそれ自体興味深い問題です。量子グラフには通常の量子力学ではでてこないで「場の量子論」にのみ出てくるような不思議な現象がいろいろ隠されています。その原因を調べていくとパラメーター空間に存外に深遠な多様体構造があることが判るのです。数学と物理のバックグラウンド少しでもある人には商業雑誌に寄稿した日本語の解説が3つ(、3)あります。またこれらをもとに「電子講義」形式の解説も書いてみました。講演のスライド記録も参照ください。
 一番簡単な設定で考えると、2つの直線が一点で接しているとき何が起こりうるか、という問題になります。一直線上で一点だけ欠損があったら何が起こるか、と言い換えてもいいです。答えは決して自明ではなく、U(2)群を構成する4つパラメタ分だけ無限に異なる事が起こりうる、というものです。古典的に(つまり「普通に」)考えると欠損点では通り抜けるか反射するかの二通りなので、ここに量子論の豊富さが現れてる訳です。この豊富さを何か実際の役に立てられないか、と考えていたところ(本当はそんな殊勝な事考えてた訳でもないのですが)、うまい具合このU(2)が、量子計算に使う基礎要素である「キュビット」の実現にそのまま使える事が見つかりました。名付けて「量子そろばん」です。

大学院のセミナーの素材にとも思い、趣味で始めたのが簡単に面白そうな結果がでるので、3つほど論文まで書いてすっかり凝っています。ゲーム理論で「リプリケーターダイナミクス(まねっこ力学)」を仮定するとロトカ・ヴォルテラ方程式と言うのが出てきます。生態系(シマウマとライオンとか)の時間発展はこの方程式に従うと考えられるのですが、一番簡単な連立非線形常微分方程式でもあります。ここにさらに各種族の「ゲーム理論的な進化」を考えます。ロトカ・ヴォルテラ系のパラメーターが戦略をあらわし、種の人口がゲームの利得と考えるわけです。この進化の時間スケールはゆっくりしたものと考えると、ロトカ・ヴォルテラ方程式の時間発展のスケール(エコロジカルな時間すけーる)とこの進化的時間スケールを分離して、比較的初等的な扱いで、生態系の形態の一般的な特徴、安定性といったものを考えることができるのです。最小限の数学と物理のバックグラウンドあれば判る日本語のウェブ上の解説を公開しました。また院生向けスライドもあります。

量子論を専門にしていて、ゲーム理論に興味があるとなると、やはり「量子ゲーム理論」というのが気になってきます。最初は「変な話」と思って手を出さずにいたのですが、あるきっかけから調べ始めたら、量子論の数学である「ヒルベルト空間」というのが存外自然にゲーム理論に適用できると気づき、さらには量子情報的操作に於ける中心概念の一つ、「量子的エンタングルメント」の直感的意味を考える上でも、ゲーム理論が役に立つという認識に至りました。これも解説書の準備段階として書き始めたものが、ある程度まとまったので解説のページに公開しました。

物理学で言うホロノミとは、ある系の環境変数(パラメタ)をある値から連続的に変化させてまた元に戻したときに、系の状態が最初のものと必ずしも等しくないという現象の事をいいます。蒸気機関でピストンを前後させて元に戻した時、車輪が一回転している、なんて言うのがホロノミの典型です。ホロノミが系のコントロールにきわめて有用なことは、子の例で判りますよね。さて「量子ホロノミ」とは、量子系にパラメタの断熱的変化がある時、ある固有状態が、パラメタが周回してもとの値に戻った後も元に戻らない現象の事です。この代表例に有名な「ベリー位相」があり、よく知られる通り、そこではパラメタの周回の後に余分な位相が現れます。そしてこの余分な位相は、パラメタ空間上の「ミード=ベリー接続ゲージ場」の経路積分で与えられます。量子状態の不思議さの一つは、波動関数に古典的に理解するのがきわめて困難な「位相」というものがある事です。この位相をコントロールできる量子ホロノミはきわめて重要です。またこれはゲージ場というものが「どこからとも無く」発生するという点でも重要です。ベリー位相は縮退系に於いて、パラメタの断熱的周回の後、縮退レベル中のある状態が別な状態に移行する「ウィルチェク=ジー」ホロノミへと拡張されました。私は最近、量子ホロノミ現象に、これまで余り知られていなかった「螺旋状ホロノミ」という第3の種類があり、そこでは断熱的パラメタ周回とともに、ある固有状態がエネルギーの異なる全く別のものに変化する場合がある事を見つけました。現在この螺旋状ホロノミを含めた「量子ホロノミの統一理論」をミード=ベリーの接続場に基づいて作っている途上です。それを使ってミード=ベリーの接続場のどのような特徴が量子ホロノミの起源となっているかについての深い理解にいたろう試みています。

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