科目名 |
都市問題 |
担当教員 |
荒木 英昭 |
対象学年 |
1年 |
クラス |
学部:人社002 |
講義室 |
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開講学期 |
2学期 |
曜日・時限 |
時間外 |
単位区分 |
選択 |
授業形態 |
一般講義 |
単位数 |
1 |
準備事項 |
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備考 |
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授業の詳細1 |
講義目標及び講義概要 国際化・情報化の時代を迎え、都市や地域社会を取り巻く情勢は激しく動きつつある。企業や行政の場で、大小の経営的判断をなすような業務に就く場合はもちろん、科学者・技術者としていかなる分野に進もうとも、すべて社会人たる者は、経済・社会の現状と動向に大きく眼を開き、都市や地域の将来を洞察する問題意識を常に持たなければならない。本講義では、例えば講義当日に新聞等で取り上げられた問題なども臨機応変に取り上げるなどホットな話題や、深い関心を抱くべき問題を取り上げ、ともに議論を闘わせ、活き活きとした問題意識を培うことに努める。この講義を受講したことを契機として、学生たちが経済・社会の動向、都市問題に大いに興味を持つようになることこそが、当講義の目指すところである。 |
授業の詳細2 |
1.我が国の経済・社会に関する基礎的知識の整理 (1)経済学と経済学的考え方 経済学に耳を塞いで都市や社会の現状や動向に関して判断や予測をすることは不遜である。犠牲にする他の選択肢との比較をしないで、何らかの政策や、選択を強調し固執することは非科学的であり、マクロ、ミクロ両経済学の基礎的用語や経済学的思考方法の基礎的・初歩的知識は身に付けたい。 (2)日本経済の現状認識 バブル崩壊後続いた日本経済の極度の低迷は、1993年を底に近年著しく改善したが、業種、地域により回復の度合いは著しく異なる。また、いわゆるサブプライムローン問題に端を発したアメリカ経済の失速などにより、2007年7月に18,000余円を付けていた東証一部平均株価が、一時13,000円を割るほど大暴落をするなど日本経済は、いま、先行き極めて不透明な状況にある。世界の潮流である経済のグローバル化の大勢のもと、日本経済と高知県等各地域の地域経済の現状と実力をまず厳しく見つめてみたい。 (3)少子化・高齢化-直面している避けがたい難題 日本の出生率は2005年の1.26から2006年には1.32年まで回復したけど、劇的な回復がなければ日本の総人口は100年後には半減すると予測されており、少子化・高齢化は今後の我が国の経済・社会の在り方を根本的に左右する難題であり、国内市場の縮小や、年金制度の崩壊等波及するところは多い。
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授業の詳細3 |
2.わが国の都市、経済・社会が直面しているいくつかの大きな課題 最近大きな話題になっている問題や、一部の識者が鋭く指摘している難題のうちのいくつかを取り上げる。(1)不安定化する家庭、地域、社会 1)家庭の崩壊、希薄化する地域コミュニティ 離婚の増大等温かな家庭そのものが激減しつつある。人生観、生活様式等が著しく変わりつつあるが、これからの市民は何に依存し何を求めて行くのか、 2)格差社会 フリーターやNEET(Not in Education, Employment or Training)がじわじわと増加するなど、アメリカ型の実力主義の経済運営を志向した結果、わが国は少数の勝者と多数の弱者・落伍者に分裂していく傾向が見られるようになり、社会は不安定化し、治安も悪化の一途である。抜きん出た能力はないまでも中の上程度の極めて勤勉であった一般的な日本の労働者、サラリーマンの大部分が中産階級にも入れない時代になりつつあることを厳しく認識して対応策を講じる必要がある。 将来に何の希望も持ち得ない多くの若者の存在を放置していては美しかった日本の社会が崩壊する。 3)地域格差 好景気に沸く多くの大企業や、東京都、愛知県等の勝ち組的地域とはかけ離れて、高知県や青森県、秋田県等の地理的・地形的に恵まれない悪条件の地方部は、依然有効求人倍率は低く、人口減に悩まされつつある。政府も戦後一貫して東京を抑制し「国土の均衡ある発展」を最大の地域政策の課題としてきたが、東京の繁栄に対し、衰退する地方の恨みは爆発寸前にまで至っている。 |
授業の詳細4 |
(2)深刻な地方財政と三位一体の改革 過去に地方振興・景気対策としてなされた公共投資等により、我が国は、国・地方合わせて770兆円(2006 年度)もの膨大な財政赤字を抱えるに至り、国、地方自治体ともにいままでの行政の在り方を抜本的に改革しないと、増加が不可避の老人福祉対策等に対処しえなくなる破綻が目前に迫っている。国は地方交付税交付金を大幅に減額したり、全国的に市町村を合併させる一方、いわゆる三位一体の改革を唱えている。 (3)地方都市の商店街の衰退と新しい商業の動き マイカーの普及等により、地方都市の中心商店街は潰滅的な客離れの危機に遭遇している。その深刻な実態を知るとともに、コンパクトシティという都市政策の新しい潮流やまちづくり三法等の中心市街地活性化策を検証する。他方、ICカード、インターネット等による電子商取引等新しい商業の動向を展望する。 (4)治安対策等安全な町づくり 犯罪、災害、交通事故等安全な市民生活を脅かす要因は、都市地域に少なくない。「安全」こそは都市存立の最重要課題である。大震災に対する災害対策、建築物の安全等のほか、特に、近年のわが国諸都市の治安問題の深刻さ複雑さは重大であり、教育、民生、都市設計等総力を挙げて対策を講じる必要が有る。 |
授業の詳細5 |
(5)福祉と健康 1)市民の福祉を支えるソフトとハード 高齢化社会になり、福祉は都市や地域社会が存立する最重要なキーワードとなりつつある。市民の福祉は、介護保険等の介護サービス、介護老人保健施設等の制度面、施設面のハード、ソフト双方あい携えて支えていかなければならない。 2)健康で快適な居住空間 人びとの日常の暮らしと幸せは、健康で快適な居住空間を構築することで産み出し護っていくことも重要である。先進国で日本ほど都市政策で住宅を軽視して来た国はない。日本人がとかく見落としがちの住宅などの身近な施設、身近な空間を充実させることの重要さを認識したい。 3)医療問題 国民の健康を護ってきた我が国の医療システムはいま崩壊の危機に直面している。我が国の医療保険制度は、巨額な赤字から大幅に個人負担を上げているが、それでも、小児科医や産科医不足は深刻であり、地方では医師不足と赤字から病院の閉鎖が続き出産も大都市に行かないとできない状況。 (6)地球温暖化対策、廃棄物対策等の環境問題 大気汚染問題、家庭のごみ処理、産業廃棄物対策等について、その深刻な状況と対策について考える。 2008年7月の主要国首脳会議(洞爺湖サミット)は地球温暖化対策が主の議題と予定されている。これからの世界は、地球温暖化対策を組み込んだ経済運営をなさざるを得ず、日本政府も1997年京都議定書で日本が約束した6%減の公約に真剣に取り組まざるを得なくなっている。 |
授業の詳細6 |
(7)国際化と情報化 地球規模で変革をもたらしつつあるIT革命により、都市の在り方も根底から変革しつつある。交通・情報通信の著しい発達により島国日本も第二の開国ともいうべき国際化の波が襲いつつある。国際化・情報化といううねりが日本の国土構造・都市構造、企業活動、市民生活を大きく変えるであろうことを展望する。 (8)交通問題 1)都市を支える交通 都市は人と物資が集約的に集まって活動がなされている場であるから、交通の円滑な処理は都市の生命線である。中国、韓国は国を挙げてハブ空港や拠点港湾の整備に躍起だが、新幹線、空港、高速道路、港湾等の基幹的交通施設の整備は、都市の立地条件、支配関係を劇的に改変する。 また、市民が通勤・通学、買物、医療等の日常活動を行ううえで、バス、自転車、駐車場、駐輪場等身近な交通手段、交通施設は欠かせない。駅前広場やバス停留所等交通結節点や端末での地域交通の現状は、都市間交通の目覚しい発展に取り残されており、ユニバーサルデザイン等新しい設計思想も取り入れられつつあるが、いま最も技術面・経営面で画期的なアイデアによる改善が期待されている分野である。 2)交通を支える技術開発 自動車交通においては、インテリジェント化に各国,関連する多くの分野の企業が総力を挙げて取り組んでいるが、先進安全自動車(ASV)という意欲的な安全対策も進められている。他方、ディーゼル車の騒音、排気ガス対策も進められている。鉄軌道系でも、リニア方式の地下鉄や新交通システムや近代的な路面電車LRTが普及しつつあるが、画期的な発想による技術開発が渇望されている。 |
授業の詳細7 |
(9)緑とうるおいと文化の町づくり 都市は、すべてうっとりするほど美しく魅力的なものでなければならない。日本では、大名や富豪が個人としては庭園などの美を追求・評価しながら、美しい都市環境を造ることに関しては、長い間ヨーロッパ等の諸都市に比べてあまりにも無関心であった。近年やっと各都市が美しい景観の維持・創造に真剣に取り組みだしたがこの程度でかなり良くなったと思ってはいけないことを強調したい。子どもを育てる環境、多くの人びとが集まる都市はすべて美しくなければ品格ある国家と言えない。経済的繁栄のみを求めて、歴史と文化のかおりある美しい都市の魅力づけを怠ると、国際的にも、日本国内の都市間競争においてもいかなる都市も落伍していくであろう。 (総括) 過年度の当講義時の答案を見て、驚くのは、生じている問題を直視してその現況、由来・原因等を学ぶことをしないで、一方的かつ独断的に形成した自己の予断を叫ぶのみの新風連のごとき極めて非科学的論述方法の若者が少なからず居ることである。このような記述式回答においても、謙虚な実証主義的な科学者の論理構成の心構えは不可欠である。最終回の講義では、取り上げてきた諸問題を総括的に振り返り、質疑に応え、議論を交わし、問題意識を一段と高め、都市問題、経済・社会問題を今後も興味ある課題として各自がそれぞれ各局面において合理的に考え対処する心構えを植えつけることを再度試みたい。 |
授業の詳細8 |
3.試験 ノート、参考書等持込不可。都市問題は広義に考え、経済・社会の基礎的知識も出題範囲とする。記述式の回答を求める設問にかなりのウエイトを置く。就職試験で最も嫌われる乱雑な答案は厳しく減点する。 ◆テキスト: 特になし。講義時に要点を整理したレジュメを配布し、ホームページに講義メモを所載。 ◆参 考 書: 『国土交通白書2008ぎょうせい』を始めとする政府の各白書、文芸春秋編『日本の論点』、弘兼憲史『知識ゼロからの経済学入門、幻冬舎』等のほかに、林信吾『忍び寄るネオ階級社会、ちくま新書』、梅田望夫『ウェブ進化論、ちくま新書』等々の新書なら780円程度で読みやすく書いてくれているので、興味を持ったテーマのものをこの機会に何冊かは読んでみること。同様に『週刊ダイヤモンド』『週刊東洋経済』『エコノミスト』等の週刊経済誌もその時その時最も関心の深い年金問題、日本に関連深い中国経済の動向等の経済・社会事案について特集を組んでくれるので要注意。今後常に新聞各紙、もしくはインターネット等で経済、都市問題に関する記事、特に解説をよく読むこと。 ◆成績評価: 講義で特に強調した重要な都市問題の概略が理解できていればC。幾つもの都市問題に十分な関心を持ち、事実を踏まえてその因果関係を考察した上で、適切に自分の意見を記述できればAA。 ◆備 考: 同時に履修するのが望ましい科目=「検証:日本の都市」「都市計画」「21世紀の社会学」。 |
授業の詳細9 |
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授業の詳細10 |
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