空気環境の改善に不可欠な「換気」から、省エネルギーと快適な室内環境の両立という課題に取り組む

田島 昌樹 TAJIMA Masaki

専門分野

建築環境工学、建築設備

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換気設備の省エネルギー性能をいかに向上させるか

 日本のエネルギー消費の約3割に関係する住宅・建築分野。建築物の高断熱化や機器効率の向上が進展しているにもかかわらず、エネルギー消費は増加の一途を辿っている。エネルギー消費量を削減すべきであるのはもちろんだが、多くの人は一日のほとんどの時間を室内で過ごすため、室内環境が居住者に与える影響は大きく、良好な室内環境を保つことも必要である。  
 田島先生は、2001年に国土交通省の総合技術開発プロジェクトとしてスタートした自立循環型住宅の開発研究に立ち上げから参画し、建築物の省エネルギーとよりよい室内環境の両立に向けて、実測や調査、シミュレーション技術を用いた評価・分析などを行ってきた。中でも、安全で快適な空気環境を維持するために重要な「換気」を専門とし、日本屈指の換気のスペシャリストとしても知られている。  

 換気の目的は、新鮮な空気を室内に取り込み、内部で発生した二酸化炭素、粉塵、におい、化学物質、細菌といった汚染物質を外に出すことで空気を浄化し、さらに水蒸気をコントロールして結露を防ぐことにある。建築物の気密性向上とともに、換気の制御は容易となってきたといわれるが、換気は今でも快適な室内環境や人々の健康を守るうえで不可欠な要素と言える。  

 建材や家具などに含まれるホルムアルデヒドをはじめとした化学物質が問題視されたことに端を発し、2003年に建築基準法が改正され、すべての新築住宅に24時間運転する機械換気設備を設置することが義務付けられた。空気の質が悪化すると健康を損ねるのはもちろん、室内に水蒸気が増えると結露やカビなどの問題にもつながる。しかし、「24時間換気の効果をまだ多くの人々が十分に理解しているとは言えない」と田島先生は指摘する。

「空気の清浄を保つためには、換気設備が正常に運転していることが重要です。つまり、風量を維持するということ。ところが、多くの住宅で給排気口のフィルターなどの汚れによって風量が大きく減少していることが明らかになっています。こまめにメンテナンスをしないと簡単に風量が落ちてしまう機種もあるのですが、多くの人がそこに気を配っていないのです」  

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 メンテナンス不備による風量の減少は、室内の空気汚染や結露を引き起こすだけでなく、エネルギーの損失にもつながる。近年、田島先生は住宅における換気設備の維持管理の問題に着目し、一般の人々が掃除しやすい換気設備の形態やその設計方法を追究してきた。

「掃除というと研究っぽく聞こえないのですが、掃除は換気設備の風量維持、ひいては室内環境とエネルギー消費に大きく関係する重要な要素です。住宅は部屋の気密性と換気設備の種類、外部風の状況や温度差によって入ってくる風量がまったく異なるうえ、部屋ごとに入ってくる風量も時々刻々と変わってしまうので、換気設備が性能を発揮しているかどうかを体感でつかむのは難しい。掃除の必要性を認識しづらいからこそ、日常的に無理なく掃除ができる換気の技術が必要なのです」

 掃除のしやすい換気設備を探る研究の一つとして、壁、天井裏、床下に換気設備が設置できるような実物大の住宅模型を作り、多様な様態で換気設備本体や部材を配置して設備の清掃にかかるエネルギー代謝量の試算と評価を行った。学生たちが実際に清掃を繰り返し行い、得られたエネルギー代謝率をもとに、さまざまな様態における換気設備の清掃にかかる年間エネルギー代謝量を計算。それを分析した結果、換気ユニットや端末部材を床置きや床下設置にすることの効果が示唆される結果が得られた。  
 こうした研究は、「日常的に換気設備の清掃を行うことで運用時のエネルギーが効率的に使用できる」ことも一つの立脚点としているという。

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室内における人間のCO₂呼出量をより正確に導く推定式を考案

 田島先生が数々の研究によって導き出した成果は、「省エネルギー基準」の中で使われている数字の根拠になるなど、国レベルで活用されている。中でも特に先進的と言えるのが、換気性能の新たな評価方法を導き出したことだろう。  
 建築物の換気性能の評価として、室内における人間のCO₂呼出量を用いる方法がある。人間のCO₂呼出量の推定値や推定式はいくつかあるが、実際に測定した室内のCO₂量とは差異が生じることが指摘されてきた。そこで田島先生は、より精度の高いCO₂呼出量の推定式を作成し、簡便に建築物の換気性能を評価できるようにしようと考えた。  
 作成に向け行った被験者実験では、いくつかの運動の条件と時間を決めて被験者の呼気を集め、CO₂呼出量を測定。年齢、身長、体重など、どの属性がCO₂呼出量に関係するかを検討した結果、CO₂呼出量を推定できる手法を編み出した。  
 次にこの推定式が実際の部屋で適用できるかを検証するため、人が使用している部屋のCO₂呼出量を測定するとともに、在室者の人数と各人の体重、身長、性別などを把握して室内のCO₂の推定値を求め、比較検討を行った結果、実測値と推定値の差はほとんどないことが確認された。  

 さらにこの推定式から導かれたCO₂呼出量は、JIS(日本産業規格)やASTM(米国試験材料協会)規格などに示されている従来のCO₂呼出量の推定値と比較しても、より実測値に近い値で推定できるという。

「今回の実験から、これまで規準に使用されてきた人間のCO₂呼出量は実測値よりも小さな値だったことがわかりました。現状の換気装置は従来の規準でCO₂呼出量を算出しているので、実際に必要な風量よりも小さく設計されています。そこに新たな推定式を利用すれば、本当に必要な風量を見出すことが可能です。空気調和・衛生工学会の最新の規準には、新たなCO₂呼出量の推定式、それによって必要な換気量を算出する式が掲載され、すでに研究者の間ではこの推定式が引用され始めています。今後設備メーカーなどにも周知され、利用が広がれば、換気設計は改良されていくはずです」  

 新たなCO₂呼出量の推定式は室内環境の評価はもちろん、より実態に即した高性能な換気設備の設計にも生かされていきそうだ。

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(室内における人間のCO₂呼出量をより正確に導く推定式に関するポスター)

今までデータのなかった四国の住宅の省エネルギー性能を明らかに

 田島先生は換気に特化した研究以外にも、地域に根ざした調査・研究として、四国を中心に実際の住宅で実測・アンケート調査を行い、さまざまな視点からデータの分析も行っている。具体的には、2013年度から2015年度までの3年間にわたり、四国を対象とした住宅のエネルギー性能に関する調査を実施。約300件の住宅について設計図書と現地調査から、住宅性能や導入されている設備などを把握し、年間の一次エネルギー消費量やエネルギー標準値に対する削減率を算定して、省エネルギー性能の分析を行った。  

 この研究から具体的な技術レベルの把握ができ、四国の住宅においても省エネルギー技術の採用が年々進んでいることや、断熱や日射遮蔽の技術は省エネルギー基準に達している住宅は多数あるが、日射熱や通風などの自然エネルギーの利用は改善の余地があることを明らかにした。

「これまで四国を対象とした住宅の省エネルギーに関する研究はほとんどなかったんですが、初めて調査を行ったことで、四国の住宅では自然エネルギーが意外と利用されていないことがわかりました。高知県は日射量が全国トップクラスで日射熱が豊富に利用できる地域なのに、住宅に利用されていないのはもったいない。この調査から、県内の設計事業者が地域の現状を知り、省エネルギーについて理解を深め、自然エネルギーを積極的に利用した住宅設計につなげてほしいと思っています」

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一般の人々が、よりよい室内環境を省エネルギーで実現するために

 田島先生が専門とする建築環境工学の使命は、「よりよい室内環境を少ないエネルギーで達成する」こと。田島先生のすべての研究は、この使命に基づいている。

「建築環境工学とは、建築物を利用する『人のため』にある分野です。建築物は工業製品と違ってすべてが一品生産で、建っている場所が数十メートル違うだけで風や日の当たり方も変わってきます。地道に事例を積み重ねていくしかないという中で、そこにある人々の営みに思いを巡らせながら、快適な室内環境を実現するための必要条件を整えることにやりがいを感じています」

「人に直接関わるところがこの研究の醍醐味」という田島先生。専門家でない一般の人々が、自らの手で快適な室内環境を省エネルギーで実現できるようになるためにーー。これからも研究を通して、人と建築物、そして室内環境のよりよい関係性をつくっていく。

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掲載日:2020年2月14日

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