人材育成プロジェクト

高知工科大学地域連携機構を核に大学教員と地域人材が共に育つシステムモデルの試行

平成22年度 経済産業省 産業技術人材育成支援事業
産学人材育成パートナーシップ「経営・管理人材分科会」

経済産業省委託事業の概要
[産学連携人材育成事業全体イメージ]

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平成22年度経済産業省産業技術人材育成支援事業の一環として高知工科大学が委託を受け、平成22年10月1日から平成23年3月末までの間に表題に掲げた地域の経営・管理にかかわる人材育成事業を実施しました。
具体的には、地域連携機構の各研究室がそれぞれ県内で展開している地域活性化に係るプロジェクトをケースとして教材化するとともに、黒潮町と梼原町にて「地域におけるICT活用」「植物資源の有効活用」をそれぞれテーマとする地域主体参加型のワークショップを数回実施し、大学教員は地域の知恵に学び、地域は大学の知恵を自らの力とするという「共育」モデルの試行と検証を行いました。

地域活性化の主体として、第一に大学教員自身が「戦略的地域貢献」というこれからの時代の大学のミッションを担えるように成長すること、第二に地域の自治体職員を中心とする地域人材がより広い視野に立って地元の諸課題に取り組めるように成長することを目指し、この目標を達成しました。

黒潮町ワークショップ「地域におけるICT活用」

地域連携機構・地域情報化サイクル研究室、および地域情報化に関わる専門家の指導のもと、地域住民や関連団体が参画するワークショップを実施し、黒潮町の豊富な海岸環境を活用した安全安心なライフスタイルやマリンレジャー環境を構築するための地域情報化(活性化)手段の可能性を探ります。
また、黒潮町の持続的な発展に必要な今後の地域情報化戦略について検討します。

黒潮町ワークショップ:第1回

日 時:2010年10月15日(金) 13:40~17:30
場 所:黒潮町役場佐賀支所3階会議室

プログラム

13:40  開会あいさつとメンバー紹介
13:50  講演:地域活性化のためのロジックモデルによるICT施策の設計
高知工科大学地域連携機構・地域情報化サイクル研究室長・菊池豊教授
14:30  講演:地域活性化のための地域映像制作、地域映像企画の発表
メディアラグ株式会社・藤井雅俊社長
15:30  参加者討議:地域映像企画の検討


地域の活性化のためには、地域情報を自ら発信できる主体の形成がひとつの鍵となります。そのためには、自治体職員や地域住民が映像やホームページを通じて情報を表現できるスキルを身につけることが当面の課題となりますが、より根本的には、地域の抱える課題の構造を深く考え、何が価値のある情報であるかを見極める力を持った人材の育成が必要です。黒潮町ワークショップでは「地域におけるICT活用」をテーマに、映像コンテンツなどの実際の制作を通して地域の課題を考えることとしました。

第一回の参加者は、黒潮町副町長以下行政関係4名、地元NPO砂浜美術館の住民ディレクター等4名、NTT、セコム等企業関係者、工科大関係者など、総計18名でした。

最初に、高知工科大で地域の情報化に長年携わってきた菊池教授から、iPADなどの登場によって情報通信の道具が急速に進化しつつあることが紹介されました。

かつて1968年にダイナブックの構想を提案したアラン・ケイの夢がいまや現実となったのです。地域情報の表現の仕方も当然大きく変わっていかなければなりません。

さらに菊池教授は、地域の課題を解くためのロジックモデルの手法について、トンネル内歩行者の安全対策の実施例をもとに解説しました。歩行者やドライバーがトンネルに対して感じる不安や不快などの様々な意見の連鎖関係を網の目のように図に描いて、多くの矢印が集中する項目をつまみあげると課題の因果連鎖のツリー構造が見えてきます。この手法は、地域の課題の構造を可視化して、問題意識を共有する上で、誰でもが取り組めるとても有効な方法といえます。

地域映像の制作をめぐっては、映像プロデューサーとして著名な藤井雅俊氏を招き、まず、ここ5年のうちに大きく変わるであろう映像コンテンツの近未来図について講演をいただきました。すなわち、テレビ放送、オンデマンド・ビデオ配信、WEBブラウザーの境界が全くなくなり、それに応じてコンテンツの作り方も出口に対応した多面性が要求されるようになるということです。地域が自らオリジナルなコンテンツを生み出し、発信することの意味もますます大きくなっていくといえます。ワークショップでは藤井氏がモデレータとなって、TVカメラとモニターを使いながら、映像表現に取り組みました。

藤井氏が出したお題は、机の上に置いた缶コーヒーを哀しく表現せよというもの。参加者はそれぞれにアングル、配置などの意図を語りながら撮影を試み、その意味づけを藤井氏が白板に書き込みながら展開し、最後にはストーリーを踏まえた15秒コマーシャルにまで肉付けが行われました。ここで藤井氏が強調したのは、なにげなく映っているという映像ではなく、いかなる意図で映したかという「コンテクスト」ということ。ごく短時間で、映像文法論のエッセンスを教授いただいたといってもいいでしょう。
藤井氏からは、黒潮町を描くには、黒潮町に何があるかを知らねばならない、それをみんなで見つけ出すことが次回までの宿題、ということでワークショップは終了しました。

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    高知工科大学地域連携機構・菊池豊教授の講演

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    藤井社長による実践ワークショップ

黒潮町ワークショップ:第2回

日 時:2010年11月11日(木) 13:40~17:20
場 所:黒潮町役場大方庁舎第2会議室

プログラム

13:40  開会あいさつとメンバー紹介
13:50  講演:地域ファンドによる地域ビジネス
NPO法人高知企業支援センター・吉井法宏氏
14:50  講演:ウェブ戦略の立案と事例
株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモ四国支社高知支店・山本和明氏
16:10  参加者討議:ウェブ戦略の検討

今回のワークショップでは、地域からの情報発信能力を高める前提として、そもそも何をもとめて誰のために情報発信をしたいのかという根本命題に立ち戻って、講演と参加者による討論が行われました。参加者は、前回同様、黒潮町行政関係3名、砂浜美術館の住民ディレクター等4名、NTT、セコム等企業関係者、工科大関係者など、総計15名でした。

最初の吉井氏の講演では、自身のNPOとしての活動体験を踏まえての、地域ビジネスに関する提案が行われました。ここでいう地域ビジネスとは、当然ながら地域固有の資源を活かした商品開発や観光などのビジネスを意味しますが、とかく地元にあっては何がその地域の魅力であるのかが見えなくなりがちです。そこで、外部の一流の目利きによって地域の価値を評価してもらうこと、あるいは、国内はもとより海外の優れた事例から体験的に学ぶことの重要性が指摘されました。
さらにNPO的なアプローチで地域事業を立ち上げる場合、ファンド・レイズが重要となりますが、不況の時代にあっては資金の調達だけにこだわるのではなく、企業などからの設備・機材あるいは商品などの供与や、さらには役務提供なども幅広く「ファンド」ととらえ、調達を図ることが必要とのことでした。

続くドコモの山本氏の講演では、これからのモバイル事業のトレンドと、自治体などのウェブ製作でありがちな失敗などを具体的に解説していただきました。トレンドについては、ドコモが製作した近未来モバイル通信のイメージDVDが紹介されましたが、世界中の人と3D、バーチャルリアリティやクラウドコンピューティングを介した同時通訳などで結ばれ、あたかも隣にいて対話しているような構図は、たしかにさほど遠い未来の話ではないように思われます。

後半では、ウェブ製作を請け負ってきた体験から、マーケティング理論でいう「ペルソナ」、すなわち仮想顧客の設定からしっかり取り組まねばならないとの指摘がありました。とかく自治体のホームページなどでは、あれもこれもと欲張った結果、誰に向けて何を伝えたいのか分からなくなっているものが多々あります。的を絞らずに成功した例は過去にひとつもないとのことでした。
モバイル環境もどんどん変化していく中で、どのような顧客のいかなる購買行動に影響を与えるかというWEB戦略は、ますます重要になるといえそうです。

最後に、高知工科大の岡村助教の進行で、WEB戦略をめぐるロジックモデルを参加者みんなで検討しました。例えばホームページで観光をアピールするということひとつ取り上げても、誰を呼びたいのか、何を見てもらいたいのか、どう楽しんでもらいたいのか、それすら定まらないということがすぐに明らかになります。そもそも観光で人が集まれば地域は活性化するという図式自体が、もうかるのは誰かという突っ込みを入れていくと、ゆらいできます。今回は、WEB戦略の検討は一筋縄ではいかないことを確認して、次回に課題を残すこととなりました。

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    砂浜を美術館に見立てた
    Tシャツアート展

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    WEB戦略について
    説明する山本氏

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    地域ビジネスの可能性を語る
    吉井氏

黒潮町ワークショップ:第3回

日 時:2010年11月29日(月) 14:00~17:00
場 所:黒潮町役場会議室

プログラム

14:00  あいさつ
14:10  話題提供 高知工科大学・岡村健志助教
14:30  地域映像テーマの検討(メディアラグ株式会社・藤井雅俊社長)

第一回目の藤井社長を再び講師に招き、映像コンテンツ制作の前段として、誰に何を伝えるかという論理構築の仕方を学習しました。今回は、いつものメンバーに加えて黒潮町の大西勝也町長と、地域連携機構・地域連携センター長の中田愼介教授も参加し、総計16名でした。

最初に、地域連携機構の岡村助教から話題提供として、オーストリアのギュッシングという小さな市のエネルギー革命の事例が紹介されました。ここは20年前には貧しい地域でしたが、太陽光・熱や、バイオマスなどによる自然エネルギー化を推進したことにより、、地域内の電力、熱、ガスなどのエネルギーは全て自給可能となり、モデル地域として多くの企業や研究所が集積し、雇用も生まれ豊かな村へと変貌しました。要するに、地域の発展に一番大事なことはビジョンを描くということなのです。

藤井氏の講演では、まず前回の要約として、映像コンテンツの目指すところは、見る側の五感に訴え、なんらかの行動-たとえば何かを買うとか、観光地に出かけるとか-を起こさせることにあるということが確認されました。今はインターネットのおかげでユーザーはいくらでも他との比較ができるため、よほど惹かれる何かがなければ行動を起こすには至らない。つまり、単にきれいな映像というのは見るだけで終わってしまうということです。ところが多くのサイトはきれいに見せるところに止まっていて、行動を起こさせるという論理が組み込まれていないのです。

逆に、その地域の財産が何かということを明確に理解し、それをプロデュースできる人材が発注する側にいれば映像コンテンツは際立ったものになります。その際には、地域財産をストーリーとしてとらえることが重要となってきます。

kuro3-3.jpgそこで、あらためて地域財産と思われるものを白板に書き出し、その内容を皆で検討してみました。ここで藤井氏が指摘したのは、「塩」ひとつとりあげても、それが他とどう異なるのか言葉にすることだということです。それがナレーションに繋がります。たとえばもし「黒潮町の塩は海がきれいだから味も違う」と語れるとすれば、商品としての塩のイメージの描き方は大きく膨らますことができます。そこからさらに、言葉にできるものは「地域商標」として登録すれば、海外輸出も見据えて先行者利益をとれるという、極めて具体的な戦術も示唆されました。

藤井氏の後半の講演では、情報化の急速な進展に対応したビジネスモデル構築の必要性と、それに合わせた映像コンテンツ制作の論理について解説いただきました。

デジタルコンテンツにGPS位置情報が連動するようになったことで、店の評判がそのまま地図に固定されるという状況が生まれつつあります。また、電気自動車の拡大によって、充電のできる行楽地というコンセプトが登場しました。情報端末はもはやITというより家電のような日常的なものとなり、中学1年生がターゲット年齢となりました。画像検索という新しい情報探索のアプローチが有効になってきました。

このような変化を先取りするためにも、地域財産というものをあらためて洗い出して言語化し、それらの連関構造を論理として把握するという基礎作業を急ぐ必要があります。それには、行政も農・商・工・観光が連携し、さらに住民や大学も一体となって取り組まねばならないということです。

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    ギュッシングモデルを
    説明する岡村助教

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    映像論理を語る藤井氏

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    藤井氏の話に耳を傾ける
    大西町長

黒潮町ワークショップ:第4回

日 時:2010年12月17日(金) 13:40~16:40
場 所:黒潮町役場会議室

プログラム

13:40  WEB戦略の検討2
株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモ高知支店 山本和明氏

今回は株式会社NTTドコモ高知支店の山本さんを再び講師に招き、ウェブの発注管理に必要なノウハウを学びました。前回の講義では、「ペルソナ」を使ったウェブ戦略の立案方法について学びましが、今回は、黒潮町の役場職員と住民ディレクターの6人が、2人づつ3チームに分かれて、ペルソナを実践しました。

まず、各チームは2人でこれから作成しようとするウェブのテーマについて話し合いました。テーマ一つを決めるのもなかなか議論が白熱します。その結果、A班は「カツオと俳句を楽しむ」、B班は「カツオのワラ焼き体験」、C班は「シーカヤック」についてウェブ戦略を作成することとなりました。
その後一人づつ、テーマに対して「誰に発信するか」「発信相手はどんな生活をおくっているか」「どんな欲求を持っているか」など考えた後、再びチーム内で議論を行いました。その結果、ウェブを発信する相手の絞り込みやその具体的な属性、ニーズなどが明らかになりました。さらに、その結果を踏まえて、ウェブに必要となる機能や、比較のためにベンチマークとしたいウェブについて検討しました。

さて、これより各チームからの結果発表です。各チームからは数時間にわたり考えられたウェブ戦略が発表されます。発表内容はターゲットの生活様式、日々の欲求、ウェブの機能など、実に具体的なものばかりでした。中にはバイクでツーリングする人たちは情緒的であるとか、バイクで観光に来た場合は、盗難防止のために宿泊施設の駐輪場の場所や配置を気にするだろうなど、日常生活ではあまり発想しないことまで話し合われていました。
山本講師は、ここで「なぜそのテーマなのか」「なぜそのセグメントなのか」「なぜその機能なのか」など常に各チームにその理由を問い続けます。ただのアイディアだったのか、それとも何かの理由に基づいて考えられたウェブなのか?ときに、山本講師の問いかけに対して、苦笑いで答えが返されます。軸がぶれてはユーザに伝わりません。ウェブの発注においても企画者の意図が読めなければコンテンツの制作はできないのです。各チームは常になぜ?を考え続ける時間でした。
次回のウェブ戦略講義では、実際のウェブ発注を通じて立案したウェブ戦略の緻密さを振り返ります。

ふと、15年ほど前に研究室で教授にしつこく理由を考え続けろと言われたことを思い出しました。自分の仕事を振り返ると、日常の仕事では、理由について深く考えることをずいぶんと置き去りにしてきたのかもしれません。理由より答えを書く方が簡単でした。

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    テーマのひとつ、
    カツオのワラ焼き体験

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    ペルソナについて
    検討するメンバー

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    ウェブの発注管理について
    説明する山本氏

黒潮町ワークショップ:第5回

日 時:2010年12月22日(水) 15:00~17:00
場 所:黒潮町役場会議室/大手町NICT (TV会議)

プログラム

15:00  地域映像テーマの検討2
メディアラグ株式会社代表取締役社長 藤井雅俊氏

第三回目でテーマとなった地域の財産に関する言語化について黒潮町メンバーから提出された宿題の答えを元に、藤井講師からの指導でそこからさらに一歩進めたコンセプト図化と絵コンテ作成までのプロセスを学びました。黒潮町メンバーは役場の会議室に集まり、講師の藤井氏は東京・大手町の会議室を借りてのTV会議システムによる遠隔講習です。

最初に、藤井氏はメンバーがまとめたA4判4ページにわたるメモの中から、象徴的な単語や文章にアンダーラインを引き、その背景や理由について次々とツッコミを入れました。例えば、「砂浜はフカフカと軟らかくとても優しい感覚を受ける」、「産卵場として絶滅危惧種のアカウミガメが安心してやってくる」という記述に対し、そのフカフカと言える根拠は何か、もし単なる主観以上に他との比較を意図するのであれば根拠を調べなければならない。また、優しい感覚を受けるのは誰か、それを映像として描くにはどのようなカットが望ましいか。ウミガメの安心はいったいどのように表現するのか。あるいは「車の乗り入れを制限し、浜辺を自然の状態に守る」という記述に対しては、制限を行っているのは県か町か。具体的な条例などあるのか。守ることに取り組んでいる主体は誰か、いつからか、どういう背景があってか、などなどです。

ここで指摘されたのは、第一に、表現することに責任を持つためにはありとあらゆる裏付けを調べ尽くさなければならないということです。わずか数行の記述の中から、調べるべきことが次々と出てきて、メンバーも裏付け調査の大変さを実感しはじめたようです。第二の指摘は、「フカフカの砂」というような言語表現をどのような映像に置き換えるかを考えるねばならない、それが絵コンテ作成の意味だということです。メンバーのこれまでの作品づくりでは絵コンテまでは考えられていなかったようです。

さらに藤井氏は、最終的な作品の遡及対象を国内とするのか、海外までもターゲットにするのかを問いました。メンバーの意気込みは海外に向けても発信を、ということです。
そこで、討論の中から出てきたひとつのアイディアが、黒潮を"Kuroshio Current"ととらえ、これに絡めてKuroshio Townの認知度を上げていこうということです。"Tsunami"は国際用語として既に広く認知されていますが、同様にKuroshio Current も英語としても十分通用します。来年、ハワイで予定されているTシャツアート展も、"Kuroshio T-shirts Art Gallary"という名でアピールしてはどうかということになりました。
メンバーが作成した宿題メモの中に、「マリンスポーツを目的とした観光客に人気が高く、将来的にプラグイン電気自動車が一般化された際に、高知西南地域の充電の拠点として位置づける」という記述がありました。これは前回の藤井氏の講演に触発されたものです。藤井氏はこれを一歩進めて、高知西南地域をスマートグリッドタウンに変えて行こうというメッセージを込めて、"Smart Town Kuroshio"を提案し、一同、これで行こうという合意に達しました。

今回は、絵コンテの作成までの時間はなかったので、次回までの宿題となりました。藤井氏からのアドバイスは、海外へのアピールを想定して、絵コンテはナレーションなしでも絵のつながりだけでストーリーが分かるよう考えてみて下さいということです。かなり、作業のハードルは高くなってきましたが、徐々に作品に近づきつつあるようです。

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    らっきょうの花畑と
    潮風のキルト展

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    国の名勝指定を受けた松原

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    大手町の会議室から
    講義を行う藤井氏

黒潮町ワークショップ:第6回

日 時:2011年1月20日(木) 13:40~17:00
場 所:黒潮町ビオスおおがた情報館内 砂浜美術館会議室

プログラム

13:40  地域の植物資源について
高知工科大学地域連携機構 渡邊高志准教授
14:50  地域映像制作
メディアラグ株式会社代表取締役社長 藤井雅俊氏

前回までの会合で、黒潮町の海岸に面したらっきょうの花畑と大粒の特産品らっきょうについてしばしば話題になっていました。曰く、もし他の地域のらっきょうと異なる性質などが明確にできればブランド戦略に組み込むことも可能になるのではないかということです。
そこで、昨年末に工科大の補完薬用資源学研究室の渡邊先生に花の部分の成分分析をお願いしていましたが、その結果報告も兼ねて植物資源活用の話を最初にしていただきました。

渡邊先生は牧野植物園から工科大に出向し、県内の有用資源植物の活用について取り組んでいます。(梼原町ワークショップも参照ください)
今回の分析では、黒潮町のメンバーが12月のはじめに1Kgも集めてきた花を乾燥させ、エタノールによって抽出した溶液を液体クロマトグラフィーにかけて、主成分を特定しました。その結果、抗酸化作用をもつアリインや、色素成分であるフラボノイドなどが検出されましたが、特段すぐれた値ではなかったとのことです。毒性をもつアルカロイドは検出されませんでした。ただし、黒潮町のらっきょうはアマミラッキョウと呼ばれるもので、分布域も限定され、4倍体(染色体が通常の2倍)であるため、粒も大きくなるという特徴があるので、地域の特産として大事にしていくのが良いとのアドバイスでした。
このほかに渡邊先生からは植物の様々な機能性や、それを活かした薬品や化粧品などがいかに身の回りに多いか、そして高知県は植物資源の宝庫であることなどが紹介されました。

続いて、前回宿題となった黒潮町プロモーション作品の絵コンテがチーム全員の共同作業の成果として披露されました。40シーンにわたり手描きのイメージと、解説が加えられたなかなかの大作です。藤井講師からは、まず全体の構成については合格点をいただきました。そこで一同気を良くしたところで、ひとつひとつのシーンについて、ここはいつどうやって撮影するのかなどの詳細な検討が行われました。例えば、車が走るシーンではその場でインターネットから外国のコマーシャル動画などを参照して、こんな感じかと議論したり、犬を連れて散歩している人のシーンでは、若い女性で犬種はレトリバーに限るだろう、などと次々にコンテに具体案が書き込まれて行きました。

藤井講師によれば、一度、全体を通しての骨格がしっかりできれば、次にそこから枝葉をつけてバリエーションを増やしていくことは容易になるとのことです。また、四季を通じて撮りたいイメージを常に思い描いていることで、より明確な目的意識をもって映像のストックも行われていくことになります。

絵コンテができたら次はいよいよシーンの撮影で、今度は撮り方をめぐって現場では侃々諤々の議論になるそうで、そこまで行けばプロの領域への入り口だそうです。また、風景の撮り方のうまい人、動物が得意な人など、それぞれの撮り手の個性なども自ずと出てくるそうです。次回の作品づくりに向けて楽しみな段階になってきました。

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    会場となったビオス
    おおがた情報館(左)、右は物産館

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    植物資源について説明する
    渡邊先生(左)

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    黒潮町プロモーション作品の
    絵コンテ

黒潮町ワークショップ:第7回

日 時:2011年2月8日(火) 13:40~16:00
場 所:黒潮町役場会議室

プログラム

13:40  WEB戦略の検討3
株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモ高知支店 山本和明氏

WEB戦略の検討の第三回目となります。前回以降、宿題も含めて、「こういう人にこのサイトを見てほしい」というテーマとペルソナの設定が2案にまとまりました。A案は、「気楽なアラフォー」と名付けた、40代サラリーマン家庭で幼稚園から中学までの3人の子持ち、年収は夫婦で550万円という想定。このペルソナには、黒潮町のシーカヤック体験メニューをアピールしようというものです。B案は、「退職後の俳句大好きな夫婦」と名付けた、60代前後の退職夫婦で、西日本の都市部に住み、俳句の趣味を共有しているという設定です。この夫婦には、俳句とカツオで季節を楽しむという体験企画をアピールします。

今回の事前準備として、山本講師からプロのWEBデザイナーに、テーマ企画とペルソナとをセットにした仕様書を提示し、トップページデザインの作成を依頼し、それぞれ2通りのデザイン・サンプルを用意してもらいました(写真参照)。

ワークショップの最初の課題は、これらのサンプルが果たしてこれまで議論してきた自分たちのイメージと合致しているかどうかの検討です。もし、イメージと異なるとすれば、ペルソナの設定がデザイナーにうまく伝わっていないということになります。さいわい、皆で討議した結果、基本デザインには大きなズレはなかったようです。デザイナーが作成したキャッチコピーも、自分たちの思いをうまく表現してくれているとの評価もありました。

次の課題は、トップページから第二階層までのメニュー体系を想定した、サイトマップの作成です。普通のサイトでは第三階層くらいまでとなりますが、今回は時間の制約もあるので第二階層までとしました。「シーカヤック」チームと「俳句とカツオ」チームそれぞれサンプル1(写真)をベースデザインとして取り上げることにし、第二階層への入り口のボタンをどう配置するかも検討しました。

山本講師によると、これまで進めてきたテーマとペルソナをセットにした企画が「仕様書」という形で示されることが、WEB制作発注の基本とのことです。ところが、自治体などからの発注で、しばしばテーマ設定から丸投げというケースがあって、これには苦労させられるとのこと。つまり、もともと発注側に明確なイメージがまとまっていないため、サンプルデザインから先に進んだところで、上司のひとことで全くのやり直しとなることが多いというのです。

これまで一連のワークショップでは、グループ討論を通じてイメージの共有を図ってきましたから、発注側には大きなブレはありません。さらに今回、それが発注先のデザイナーに伝わっていることも確認されました。
あとは第二階層以下の詳細デザインとなりますが、ここで山本講師から、次のステージでは発注先のデザイナーとメールや電話などを通じて直接交渉を行うようにとの課題が提示されました。
いよいよ、WEB制作も最後の詰めの段階に入ってきましたが、山本講師によるトレーニングコースはこれで一段落となりました。

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    シーカヤック体験
    PRページのサンプル1

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    シーカヤック体験
    PRページのサンプル2

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    俳句とカツオ体験
    PRページのサンプル1

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    俳句とカツオ体験
    PRページのサンプル2

黒潮町ワークショップ:第8回

日 時:  2011年2月25日(金) 13:40~16:20
場 所:  黒潮町ビオスおおがた情報館内 砂浜美術館会議室

プログラム

13:50  話題提供-土佐西南大規模公園について
高知県土木部公園下水道課 北川尚課長
15:00  地域映像の発表/講評
メディアラグ株式会社代表取締役社長 藤井雅俊氏

地域映像制作の最終回となりますが、作品の発表に先立ち、高知県土木部の北川課長をゲストに招き、土佐西南大規模公園に関する行政としての管理指針などについて話題提供をしていただきました。
そのねらいは、これまでワークショップの中で浮上してきた黒潮町スマートグリッドタウン構想をより精緻に描くために、公園管理についての行政の基本計画や法制度上の縛りなどを学習しておこうということです。
土佐西南大規模公園が都市計画決定されたのは1972年のことで、当初の構想は海洋レクリエーション基地という、いかにも経済成長期の夢を反映したものでした。それが1982年のオイルショックにより見直しが図られ、1995年にはバブル崩壊後に見合った開発抑制型の現在の計画となってきました。いわば、レジャーランド化に乗り遅れたことで自然が保全され、それがこれからの時代の観光にふさわしい財産となったといえます。

公園の管理には都市公園法などで運用指針が定められていますが、新しい施設を公園内に設置する場合でも、それが公園の基本コンセプトに合致しているかどうかが行政的にはもっとも重要な判断基準になるとのことです。つまり、公園をスマートグリッドタウンのショールームとして位置づけていくことも十分に可能性があることが分かりました。

後半では、いよいよ黒潮町チームによる映像作品の試写会が行われました。最初に、住民ディレクターの上田さん、中平さん、埜下さんからそれぞれ制作、監督、編集に携わった際の意図などが語られ、次いで5分ほどの作品を皆で鑑賞しました。前回の絵コンテに忠実に、都会の生活に疲れた若者が黒潮町までドライブし、豊かな自然や人との出会いで癒されるというストーリー仕立てのプロモーションビデオとなっていました。

参加者全員からそれぞれに感想が語られましたが、ストーリーは分かった:けれど、説明的なカットが長いという意見もありました。これに対して、藤井講師からは、製作者はどうしても人に説明しすぎてしまう、それをあえてカットするクリエーターとしての勇気が必要というアドバイスがありました。また、撮影は主人公目線を意識したとの説明でしたが、それならばパンショットを用いるべきで、今回の絵では第三者目線になっているとの技術的なアドバイスもいただきました。シナリオ的には、主人公がドライブを思い立ったシーンから、いきなりキャンプファイアーで癒されるシーンに飛んで、その後に時間プロセスをたどるという倒叙法も視聴者の意識を「裏切る」手法としてインパクトがあるという説明もありました。
藤井講師の総括評として、素材としては黒潮の住人ならではの良いシーンをきちんとクリップしている。あとは編集技術なので、もう一度当初目標の3分に向けて作り直しをしてはどうかという提案をいただき、さらに挑戦を続けることになりました。

なお、今回のワークショップには、高知県土木部、黒潮町役場、砂浜美術館、工科大研究者など合計20名が参加しました。

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    地元プロモーションの核となる
    Tシャツアート展

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    市民参加のイベント、
    シーサイドはだしマラソン

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    グーグル・アースからも
    顕著な黒潮町の海岸線と松原

黒潮町ワークショップ:第9回

日 時: 2011年3月22日(火) 10:00~16:00
場 所: 黒潮町あかつき館会議室

[プログラム]

10:00  講演 問題解決のためのICT機能の設計
高知工科大学地域連携機構 岡村健志助教

13:00  WEB戦略立案4
株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモ四国支社高知支店・山本和明氏

黒潮町ワークショップの最終回となります。午前と午後の二部にわたって、黒潮町のあかつき館と工科大とをTV会議システムで結んで、講演と、WEB制作に関する仕上げの議論が行われました。参加者はコアメンバーを中心に、延べ11名でした。

午前の部では、工科大の岡村助教より、「問題解決のためのICT機能の設計」というテーマで、これまでとは少し視点を変えて、黒潮町の高齢者の見守り問題を例に、ロジックモデルの使い方とその有効性について解説しました。

実際に岡村助教が10名以上の健康・福祉関係者へのヒアリングを通して得られた意見やその背景となる状況から、重要と思われるキーワード、キーフレーズを抽出し、それらの因果関係などを考察して、問題構造の体系的な図式化から、施策の提案とその評価までのプロセスを描いたものです。健康・福祉の担当課からもその有効性は評価されています。

住民が困っていると話す「事象」とその背景にある「原因」とは必ずしも直結しているとは限りません。このような手法で課題の構造が見えてくることはあらたな気づきにつながり、施策を立てる上での指針となり、さらには施策を行った後の評価の視点ともなるということなのです。参加者からは、課題が整理できただけでも担当レベルでは役に立っているというコメントもありました。

午後の部では、山本講師の指導のもと、前回の仕様書にもとづくWEBデザイナーへの発注以降の、メールのやり取りによるデザイン修正などの経過を振り返って、当初の意図がどのように形に結び付いたのかを検証しました。
発注側の意図が必ずしもうまく伝わらなかったケースもあり、山本講師からは、修正を要求する場合にはこういう目的なのでこうしてほしいと、目的をはっきり示すことが重要だとのアドバイスがありました。

山本講師の全体まとめでは、あらためてホームページ作成以前の戦略の重要性が強調されました。
すなわち、観光戦略や地域の活性化戦略があってこそ、ホームページの役割や機能が導かれるのですが、今回はそのような戦略がない中で仮説的に目標を設定してきたところに限界がありました。これからは戦略そのものから考えを積み重ねていくことが大事ということです。

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    あかつき館会議室にて

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    WEB戦略の締めくくりの
    講義を行う山本氏

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    課題構造を図示する
    ロジックモデルの例 (部分)

梼原町ワークショップ「植物資源の有効活用」

地域連携機構・補完薬用資源学研究室、および牧野植物園などの植物学専門家の指導のもと、地域住民が参加する植物観察会およびワークショップを実施し、身近な植物の伝統的活用法を掘り起こすとともに、植物資源としてのあらたな産業活用の可能性を探ります。
また、森林の用材利用と燃料利用とを複合した新しい森林活用戦略について考えます。

梼原町ワークショップ:第1回

日 時:2010年10月23日(土)9:00~12:00(第1部)14:00~17:10(第2部)
場 所:維新の森(第1部) 梼原町役場会議室(第2部)

プログラム

<第1部>植物観察会

9:00~  梼原の植物について、高知工科大学地域連携機構・補完薬用資源学研究室室長・渡邊高志准教授が解説
12:00

<第2部>ワークショップ

14:00  講演:高知の有用資源植物について 高知工科大学地域連携機構・補完薬用資源学研究室室長・渡邊高志准教授
15:00  対談:ロギール・アウテンボーガルト氏(梼原在住の和紙作家)×渡邊准教授
16:00  参加者討論

高知県で地域の活性化を考える場合、豊富な植物資源を活かしたサプリメント、化粧品などの製品開発や、森林バイオマスの有効活用、あるいは多様な植生そのものを観光と結びつけるような総合的な植物資源戦略が有効と考えられます。そのためには、自治体職員や地域住民が、植物学や地域経営の専門家の協力を得て、日頃は見過ごしている様々な植物の生態やその有用性について正しく認識し、保全や活用法について自ら考え出す力を養うことが重要です。

梼原町ワークショップでは「植物資源の有効活用」をテーマに、野外観察会や植物を原料とする軟膏の製作などの体験を通して植物資源の価値を地元が再認識することをねらいとしました。
第一回の参加者は、梼原町行政関係2名、地元植物愛好家などの住民4名、遠く種子島から参加した植物研究者、工科大関係者など、総計17名でした。

午前の第一部では、梼原町龍馬の森と呼ばれる植物生態系を保全した地区を全員で散策し、道端の様々な植物について、渡邊准教授と、医薬基盤研究所・薬用植物資源研究センター(種子島)の杉村康司先生から、名前や見分け方、さらには食用・薬用などの利用法について詳しく解説をしていただきました。3時間足らずの散策で、優に30種類近くの有用植物が見出されること自体が、かなり植物には詳しい地元の参加者にとっても驚きでした。

午後の第二部は梼原町役場の会議室に場所を移し、まず渡邊先生から、午前の観察を踏まえて、そもそも薬用植物とは何かということ、そして健康食品、化粧品、薬品などとして実際に製品化されている様々な事例を紹介いただきました。さらには香北町での小規模なハーブティーの商品化の試みなども紹介され、高知県は多くの有用植物が未利用のまま眠っている潜在資源の宝庫であることが強調されました。

次に、梼原の山の中で、紙漉き工房と民宿を営むオランダ人のロギール・アウテンボーガルトさんから、ご自身が30年前にたった一枚の和紙の魅力に惹かれて日本に住み着いたいきさつや、こうぞやみつまたなどの和紙原料を自ら栽培し、さらに様々な植物による紙づくりに取り組んでいることについて語っていただきました。

ロギールさんの話を受けて、渡邊先生の司会で、参加者も加わって梼原におけるさらに様々な植物の利用法などについての議論が行われました。渡邊先生のヒマラヤでの経験からすると、 環境の厳しい場所に生育している植物、例えば、乾燥した砂漠、太陽の光が強く冷水などが湧き出る山地などの植物はストレスにさらされている分、 高い生理活性を有するものが多く、梼原のカルスト山地の中でもそのような有用植物が見出される可能性が高いとのこと。また、植物の活性を評価する上では、古くからの食経験が文書として伝わっていることが決定的に重要であり、地元の古文書の掘り起こしも大事であるとの指摘がありました。

おりしもCOP10では、遺伝資源の保全と平等な利益配分をめぐって先進国と途上国との間で議論が繰り広げられましたが、梼原の多様な植物資源のワイズ・ユースを考えることは、実はわが国でも最先端のテーマとなっているのです。

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    龍馬の森の植物観察会で
    地元住民に解説する渡邊先生(左)

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    梼原町役場の会議室にて
    講演を行う渡邊先生

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    和紙の材料を示しながら語る
    ロギールさん

梼原町ワークショップ:第2回

日 時:2010年11月18日(木)17:00~20:00
場 所:梼原地域活力センター「ゆすはら夢未来館」調理室

プログラム

「染料植物を使った軟膏作り-実習と解説」
熊本大学薬学部薬用資源エコフロンティアセンター 矢原正治センター長

今回のワークショップは熊本大学薬学部の矢原正治准教授を講師にお招きし、染料にも使われる薬用植物を使った軟膏づくりを参加者全員で体験するとともに、漢方医薬についての解説を聞かせていただきました。 会場はゆすはら夢未来館の調理室を借り、参加者は地元行政・住民など7名、工科大関係者など含め総計17名でした。

実習で製作したのは、やけど、しもやけ、切り傷などに用いられる「紫雲膏」と、ニキビや湿疹などによるかゆみ止めに良いと云われている「中黄膏」の二種類です。 紫雲膏では本来ムラサキという染料植物とトウキが使われますが、ムラサキは希少植物でもあるため今回はこれに近い薬効をもつ軟紫根を用いました。また、中黄膏にはオウバクとウコンの粉末が植物由来の薬用素材として使われました。

いずれも基剤となるのは食用のゴマ油を加熱し蜜蝋を加えたもので、土鍋でゴマ油を140℃に保って1時間ほど加熱すると部屋中天ぷら屋の匂いに包まれます。1時間も熱するのは水分を抜くためとのこと。
中黄膏の場合は、蜜蝋を溶かした後に100℃まで下げてからオウバク末とウコン末を加えてよく混ぜます。冷めてペースト状になったところでへらを使って容器に取り分ければ出来上がり。
紫雲膏の場合は、さらした蜜蝋を溶かしさらにラードを加え、140℃を維持したままトウキを加えて20分間トウキの成分を抽出します。トウキのカスを除いてから次に軟紫根を同様に15分間抽出し、カスを除いて100℃に冷ましてから容器に流し込みます。容器の中で冷めて固化して出来上がり。

加熱や抽出に時間はかかったものの手順としては意外に単純で、また、軟膏の基剤が実はゴマ油と蜜蝋というのにもいささか拍子抜けしましたが、自然の素材を組み合わせる中から実際に効く薬をつくり上げてきた古来漢方の知恵の奥深さもあらためて感じることができました。ただ、残念ながら今回製作した軟膏は薬事法の規制によって、自家用以外の配布・販売はできないそうです。

矢原先生によると、植物でもショウガやワサビのように刺激のあるものには、強い抗菌性を持つものが多く、だから薬としても使われるとのこと。カレーの黄色はウコンによるものですが、ほかにも薬効性のスパイスがいっぱい入ったカレーなぞは、まさに薬そのものというのが矢原先生の弁。ちなみに、ウコンには忘年会シーズンはとくに世話になる機会も増えますが、ウコンの飲みすぎはあまり良くないそうです。

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    土鍋でゴマ油を熱し蜜蝋を
    溶かして軟膏の基材とします。
    左から2人目が矢原先生

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    軟紫根の乾燥したものを加えると
    紫雲膏らしい色に染まります

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    溶けた紫雲膏を容器に流し込み、
    固まれば完成

梼原町ワークショップ:第3回

日 時:2010年11月20日(土)14:00~17:00
場 所:梼原町役場会議室(工科大地域連携機構とTV会議)

プログラム

14:00  講演「農と環境と健康」北里大学副学長・陽捷行教授
16:00  参加者討論

前回から中一日おいての三回目では、北里大学副学長で土壌の専門家である陽捷行(みなみかつゆき)教授をお招きし、「農と環境と健康」と題して講演をいただき、現代文明によって損なわれてきた農と環境と健康を取り戻すため、梼原ではどのような取り組みが可能かを参加者が討論しました。

陽先生は、東北大学大学院農学研究科博士課程を修了後、農林省に入り、2005年に(独)農業環境技術研究所理事長を退任し北里大学に移るまで、わが国の農林行政をリードしてこられました。環境保全型農業という考え方を早い時期から提唱し、また最近では農医連携という概念を提起し、国内外で実践しています。

長年の経験からまず指摘されたのは、現代の科学技術文明が様々な局面において「分離の病」を患っているということ。本来、ヒトと外界との間、人と社会の間、あるいは土壌と大気の間など様々な境界のあり方を考えることは重要であるにも関わらず、科学技術は知の細分化を進め、知と知が分離し、さらには知と情、知と行(行動)においても乖離を深めているというのです。

そこで、「農」に代表される農・林・漁業などの人の営みと、健康というものを、環境というプラットフォームの上で、あらためて統合的にとらえ直すために農医連携という考え方が重要となってきます。陽先生は、古代ギリシャの医師ヒポクラテスの「食べ物について知らない人が、どうして人の病気について理解できようか。」という言葉を引用し、これを自身の主張として「食べ物は、水と土壌と大気成分からなる。水と土壌と大気を知らない人がどうして病気について理解できようか。」とおきかえ、食と環境と健康との密接な関係を指摘しました。

とかく、土壌については環境としての重要さが見落とされがちですが、土の健康と人の健康とは、例えば過剰肥料は過剰栄養に相当するなど比喩的によく似たところがあります。地球の窒素循環では、元来、大気中の窒素は根粒菌やソテツなどの一部の植物によって土壌に固定されるものでしたが、100年ほど前に工業的に窒素を固定し窒素肥料とする方法が発明され、循環のサイクルが大きく変化しました。いわば食料増産という恩恵と引き換えに、土壌には過剰栄養によるメタボ化という慢性的な不健康を強いるようになってきたとも言えます。さらに、地球温暖化の主因は石油をエネルギー源とする工業由来のCO2の急増とされることが多いのですが、実は、農業に由来するCH4やN2Oもこの100年でCO2と同様の急増を示し、温暖化に加担しているものと考えられます。

このような地球規模の環境問題を乗り越えるためには、経済発展至上の考え方を捨て、土壌に対しても倫理規範をもって接するなどの、新しい精神性の地平を切り拓いていくことが求められます。

最後に、農医連携の具体例として、患者自身が農作業にも参加し、育てた食べ物を病院食として提供するというタイ国での実例などが紹介されました。

梼原では既に森林セラピーなどの環境と健康を結びつけた取り組みが、医療関係者、行政、住民などによって進められています。参加者からは、陽先生が提起する新しい時代の価値観にもとづく農医連携は、梼原でも独自のモデルを開拓していくことが十分に可能であるとの感想が語られました。

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    四国カルストを訪れた
    講演者の陽先生

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    陽先生の講演を聞く
    地元参加者のみなさん

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    TV会議システムで
    工科大とも接続

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    陽先生(左)と
    司会の渡邊先生

梼原町ワークショップ:第4回

日 時:2011年1月19日(水)13:30~16:00
場 所:梼原町役場会議室-工科大会議室(TV会議)

プログラム

13:30  講演「オーストリアのギュッシングに学ぶバイオエネルギーの地域づくり」
高知工科大学社会マネジメント研究所・永野正朗助手
15:00  参加者討論

2日前に降った雪の残る梼原の会場と工科大地域連携機構をTV会議システムで結んでワークショップを行いました。講師には工科大社会マネジメント研究所の永野正朗助手をお招きし、一昨年のオーストリア・ギュッシングの視察調査にもとづくバイオエネルギー活用の事例を詳しく紹介いただきました。さわりの部分は黒潮町ワークショップでも岡村助教が紹介していますが、今回はとくに梼原が進めている木質ペレットの生産ということも踏まえて、ギュッシング・モデルから梼原が具体的に何を学べるかということを話していただきました。
参加者は、梼原側では町の環境推進課や森林組合などから6名、工科大から永野助手、松村教授、渡邊准教授など6名。TV会議の工科大側は菊池教授、永野教授、岡村助教が参加しました。

ギュッシングは人口4千人で、これは梼原とほぼ同じです。ここは、1990年までは産業基盤もなく出稼ぎに依存するオーストリアでも最も貧しい地域でした。1980年代末頃から、地元の議員や若者を中心にこの状況を変えようという試みが始まります。着目したのは、地域の45%を占める森林資源が未利用であること。その一方、エネルギー費用においては市の年間財政規模が900万ユーロという中で、実に620万ユーロもの電力と熱とを域外から購入しているという点でした。1992年に、ピーター・バダシュ氏が市長に就任し、脱化石燃料を旗印に、域内の再生可能エネルギーを総動員して地元で分散的に生産・利用する活動が本格化しました。

地域暖房供給プラントを小規模から始めて徐々に拡大しつつ、2001年にはウィーン工科大学のヘルマン・ホフバウア教授との共同で、バイオマスガス化の新技術を使った電力と熱の供給プラントを建設します。その後、次々と最新技術を導入してプラントを建設し、2009年現在では、域外からのエネルギー購入費用をゼロにしたばかりか余剰電力を売電し、年間470万ユーロもの純利益を上げるにいたっています。その他にも、先端企業がこぞってこの地に進出し、あらたな雇用も創出されるなど、地域経済は劇的に改善されました。

今では、バイオマスや太陽エネルギーなどの30以上のプラントや企業の研究施設などが集積し、ヨーロッパの再生可能エネルギーの一大センターとして世界各地からの視察もあいついでいます。永野先生には、そのようなプラントの実例も多くのスライドによって紹介いただきました。

事例紹介につづいての参加者討論では、まず、梼原の行政担当者から、ギュッシングの成功事例は自分たちにとって大きな励みになるとの感想が語られました。さらに討論を進める中で、木質燃料の灰が、欧州諸国では肥料として畑や森林に散布できるのに対し、わが国では産業廃棄物扱いにしかならないという、制度の違いが浮き彫りとなりました。
しかし、そもそも廃棄物処理法律が制定された1970年には、木質燃料によるエネルギー生産などということは全く想定されていなかったはずですし、2000年の循環型社会形成推進基本法以降も未だそのような想定は無いように思われます。
それゆえ、新しい技術にもとづく地域再生のような課題については、地方から積極的に発信して制度を変えていくことも必要ではないかという意見も交わされました。

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    梼原の雪景色

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    スライドで説明する
    永野先生(左)と梼原町関係者

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    ギュッシングの木質
    バイオマスガス化プラント

梼原町ワークショップ:まとめ

日 時:2011年1月23日(水)13:30~16:10
場 所:梼原町役場会議室

プログラム

13:30  梼原町ワークショップの総括および今後のアクションプランについて

昨年10月から4回にわたって行ってきた梼原町ワークショップの経緯について、工科大からあらためて梼原町長に総括報告を行うとともに、これまでの実践からあらたに構想された植物資源活用のアクションプランについて提案し、その可能性などを議論しました。

町側の出席者は、矢野富夫町長、吉田尚人副町長、中越修総務課長、大崎光雄環境推進課長、久岡俊彦総務課員の5名で、工科大からはプロジェクト代表である中田愼介地域連携センター長以下、渡邊高志准教授、岡村健志助教など5名が出席しました。

最初に、工科大よりあらためて人材育成プロジェクトのねらいと、梼原における過去4回のワークショップの経緯ならびに黒潮町でのワークショップ経緯を報告し、次いで渡邊准教授から、梼原の植物資源活用に向けた市民参加型講座の構想について提案が行われました。この講座は、薬用資源植物を栽培したり、健康食品や和漢ハーブなどの商品として加工するといった体験ができるとともに、地域固有の植物資源を観光や商品開発などのビジネスにつなげていくための考え方も学ぶことができるというものです。

矢野町長からは、平成23年度から始まる梼原町の第6次総合振興10カ年計画の構想が示されました。その中でも強調されたのは、新しい時代変化に柔軟に取り組めるよう、ものの考え方からあらためていかねばならないこと、そしてそれを担うべき人材の育成に力を入れていかねばならないということです。人が資本であるという梼原町が掲げるビジョンは、地域連携機構が今回のワークショップでも追及してきた地域活性化の方向性ともよく合致しています。

中田教授からは、このビジョンを今後どのような事業に落とし込んでいくのかということを具体的に検討すべきとコメントがあり、大学と地域との協働を持続することが提案されました。

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    地元木材資源を活かした
    梼原町役場の外観

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    町役場エントランスホール

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    右側梼原町長以下幹部と
    左側工科大メンバー

成果の概要

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今回のプロジェクト成果をひとことでいえば、当初想定した、大学教員と地域主体とが共に育つシステムは可能かつ有効であることが、高知県内二つの自治体とのワークショップを通して実証されたということです。
大学教員は、地域に対する理解をより深めることができ、地域主体は知識・技術を習得することでより明確な問題意識と解決への意欲を得ることができました。

また、地域連携機構が梼原町、黒潮町を研究・事業実践フィールドとして位置づけることができたため、大学としても今後様々な地域モデルを考える上での経験蓄積がはかれたことも成果です。

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成果報告書PDF(1.9MB).pdf