科学研究費補助金基盤研究(S)
「西アジア死海地溝帯におけるネアンデルタールと現生人類交替劇の総合的解明」
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■研究経過(4)旧人ネアンデルタールと新人ホモ・サピエンス交替劇
[タイトル]
個体学習および社会学習の能力が進化する条件の理論的研究
[研究目的]
ネアンデルタールとクロマニヨンの交替劇の原因が後者を含む新人の優れた個体学習能力にあるとの立場から、個体学習能力およびこれに関連する社会学習能力が進化する条件を、環境の時間的変動・空間的異質性との関係において理論的に究明する。
[研究組織]
青木健一、若野友一郎、重定南奈子、川崎廣吉、Marcus Feldman、Elhanan Borenstein
[研究方法]
集団生物学のモデルを構築し、解析的および数値的に予測を求める。
[研究経過]
(1)時間的に変動する無限状態環境における混合学習戦略の進化のモデル
生得、個体学習、社会学習の3戦略をそれぞれ確率 1-K-L, L, K で選択する混合戦略を定義し、進化的に安定なL, K の組み合わせを求めた。環境が不安定なときに個体学習への依存度が大きい混合学習戦略( L が大きく K が 小さい,ただし K + L=1 )が進化し、環境が再び安定化すると社会学習への依存度が大きい混合学習戦略(L が小さく K が大きい、ただしK + L=1)が進化することを示した。若野友一郎・博士研究員との共同研究であり、Theoretical Population Biology 誌に発表した。
(2)時間的に変動する2状態環境における3因子モデル
研究(1)では個体学習と社会学習が同じ次元(因子)の両極であると仮定したが、両方の能力が独立に強化される可能性も考慮すべきである。他の面でもより現実的な仮定を取り入れた3因子モデルを、Marcus Feldman教授およびElhanan Borenstein博士研究員と共同研究中である。予備的な結果を雑誌遺伝に発表した。
(3)空間的に異質な環境への分布拡大に伴う個体学習の進化のモデル
アフリカで起源した新人は、約5万年前に急速な分布拡大を開始したといわれるが、行く先々の地域で大きく異なる環境に遭遇したであろうことが想像できる。個体学習と社会学習の2戦略の競争に焦点をあて、簡単なモデルを数値計算によって調べたところ、個体学習のコスト(試行錯誤の錯誤)が比較的小さく、移住率が大きい場合に、個体学習の戦略が全域を占めるようになることが判明した。よって、革新的な道具や芸術品を特徴とする後期旧石器時代のいわゆる現代的な行動は、出アフリカが原動力となって進化した可能性が示唆された。予備的な結果を雑誌遺伝に発表した。
(4)反応拡散方程式による記述
研究(3)を数学的により厳密な方法で進めるため、モデルを反応拡散方程式により記述し、重定南奈子教授、川崎廣吉教授、および若野友一郎博士研究員と共同研究中である。
[現時点の研究成果の自己評価]
出アフリカおよび現代的な行動を示す先史人類学的な遺物証拠による仮説検証は、今後の課題である。
[2007年度以降の研究計画・方法]
上記研究(2)および(4)を続行する。また、上記研究(3)が示唆している仮説から従来の出アフリカ仮説と対照的な予測を導き、人類進化博物資源データベースを担当している班員との連携により、検証する作業が今後極めて重要となる。
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