■研究課題
- タイトル
- 「西アジア死海地溝帯におけるネアンデルタールと現生人類交替劇の総合的解明」
- Comprehensive Clarification of the Transition from Neanderthals to Modern Humans in the Dead Sea Rift Valley of West Asia
- 課題番号:17102002
- 研究期間:2005-2009
■研究目的
人類史700万年とは、猿人の登場から現代の新人ホモ・サピエンスの登場に到るまで、消えていく「旧人」と新時代を切り拓く「新人」の交替劇の繰り返しだったという見方ができる。とすれば、われわれ現代の地球人は次なる交替劇に向かって、その渦中に身をおいていることになる。そのわれわれの行く末を考える上で、4万年前以降、世界各地で人類史上最後の交替劇を演じた旧人ネアンデルタールと新人ホモ・サピエンスの間でいったい何があったのか、なぜホモ・サピエンスに軍配が上がったのかを知ることは有益である。その真相のなかにわれわれの行く末を考えるためのヒントが見つかるかもしれないからである。
交替劇の最大の舞台のひとつが、西アジアの西端を地中海に沿って南北に走る全長約1000キロメートルの帯状の盆地、死海地溝帯である。現在のヨルダン、イスラエル、レバノン、シリアといった国々の国境線沿いに走るこの一帯は、今日の世界情勢のもとでしばしば「危機的な状況」だとまでいわれる国際舞台であるが、かつては、アジアとヨーロッパの間の懸け橋となり、人類史を彩るさまざまな事件の舞台となりながら長大な歴史と洗練された古代文明を発展させてきた。そして、それに先立つ遙か以前、遡ればヒトの誕生以来数百万年間、人類揺籃の地アフリカ大陸とユーラシア大陸との懸け橋として、アフリカ出身のさまざまな初期人類がユーラシア大陸に移り住む際に最初に足を踏み入れた場所、言ってみれば最古の移住回廊の役回りを演じた場所でもあった。
そして死海地溝は、人類史上最後の交替劇、言い替えれば現代人の起源論争の最大の舞台のひとつである。その地でかつて交替劇を演じた旧人ネアンデルタール(20万年前-)、新人の祖先プロト・ホモ・サピエンス(10万年前-)、新人ホモ・サピエンス(4万年前-)の足跡の宝庫である。彼らのなかのあるものは消えていき、あるものは生き残り現代の地球人の祖先となったわけだが、なぜ新人ホモ・サピエンスに軍配が上がったのか。旧人ネアンデルタールから新人ホモ・サピエンスが直接生まれた、言い替えれば両者の系譜を血縁のある親子関係のようなものだったとみる連続進化説が否定された今日だからこそ、両者の間でいったい何があったのかが話題となる。
さて、最近の研究から、両者は一時期、世界の各地で共存共栄していたこと、その間、交流することはあっても、暴力的に一方が他方を駆逐するとか、一方が他方を吸収するといった状況による交替劇は想定できないことになった。そして残るのは両者の能力差による説明モデルである。旧人ネアンデルタールは行動や認知のある部分において新人ホモ・サピエンスに能力的に劣り、両者の生存戦略上にも優劣が生じ、結果として旧人ネアンデルタールの社会は崩壊し、かれらは消滅してしまったというシナリオだ。分かりやすいが実証化するのは至難である。だが、人文学の危機が叫ばれる昨今、その役割と責任のとり方を身をもって実践するとすれば願ってもないフィールドである。「越境する人文学」、それがキャッチコピーである。
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