科学研究費補助金基盤研究(S)
「西アジア死海地溝帯におけるネアンデルタールと現生人類交替劇の総合的解明」
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■研究の種類内容

西アジアの死海地溝帯で演じられた旧人ネアンデルタールと新人ホモ・サピエンスの交替劇の真相をつぎの四つの研究によって探る。

1)人類進化博物資源データベース
旧人ネアンデルタールと新人ホモ・サピエンスの間にどのような能力差が存在したか。その差が交替劇の時代状況・社会状況に対してどのようにはたらいたかを検討するためにヒトの移住拡散状況並びに各地各時代の生存戦略の諸相に関する考古学的証拠を集成する。固有の目的をもって個別分断的に蓄積されてきた考古学的データを、各地各時代のヒトが交替劇の時代状況・社会状況に対処した知的情報処理の所産物と見直し、解析することを目的としている。具体的につぎの四つのデータベースを構築する。
「人類進化博物資源データベース」
「化石人骨データベース」
「西アジア旧石器時代遺跡データベース」
「遺跡年代データベース」

2)シリア・デデリエ洞窟発掘
すでに10個体のネアンデルタール人骨が発見され、今や死海地溝帯を代表する旧石器遺跡であるデデリエ洞窟の発掘を進める。デデリエ洞窟の文化層序を解析した結果、当洞窟はネアンデルタール人以前の前期旧石器時代(30万年前から)からネアンデルタール人期である中期旧石器時代(20万年前から)、さらには現生人類の時代である晩期旧石器時代(1万4000年前から)にまで居住が連続していることが判明した。過去30万年の洞窟史の復元記載とともに、5万年前以降、洞窟一帯でも起こった旧人ネアンデルタールと新人ホモ・サピエンス の交替劇の時代状況・社会状況を復元記載し、両者の能力差を一次資料をもって検討する。

3)化石人類の頭蓋・脳の復元
目的は化石人類の頭蓋の形態特徴に基づいて、その中にかつてぞんざいしていた脳を推測復元し、その形態特徴を評価することである。そのために具体的につぎの2つの研究を行う。

(1)旧人ネアンデルタールと新人ホモ・サピエンスの頭蓋・脳
死海地溝帯で交替劇を演じた旧人ネアンデルタール、新人の祖先プロト・ホモ・サピエンス、新人ホモ・サピエンスの化石人骨資料を用いて彼らの頭蓋・脳の仮想復元の方法技術を開発し、頭蓋モデルおよび脳鋳型モデル(エンドキャスト)の形態特徴の定量化と形態差を検証する。そして、化石人類の脳の左右非対称性を検証し、脳のはたらきの諸相の進化を明らかにする。人類学の分野で恣意的に論じられてきた脳の左右非対称性の進化モデルを、客観的基準に基づく定量的データでもって評価する方法理論が化石人類学の分野に与えるインパクトは極めて大きく、かつ、その結果は、化石頭蓋骨を脳機能の進化という視点から検討し、評価する道筋を拓くことに通じ、脳科学、生物学、進化学などの諸分野への貢献度は圧倒的である。

(2)現代人の頭蓋・脳
化石頭蓋に収まっていた脳を仮想復元する方法理論を確立するために、現代人の頭蓋と脳の関係を定量化し、現代人の頭蓋内腔三次元的形状から脳髄の構造・位置を推定する研究を実施する。研究の目標は頭蓋内構造物の推測復元にあり、現代人の頭部MRI三次元データの画像処理、統計処理によって頭蓋骨(内板)形態、脳形態それぞれを標準化し、頭蓋・脳間の関数算出を試みる。また、現代人の頭部画像データを利用して,ネアンデルタール頭蓋内に脳を再現する研究現代人の頭部MRI三次元データを変換し、その脳実質を化石頭蓋内腔に当て嵌め、頭蓋内キャストの輪郭の形態差を頭蓋内キャストの中心からの縮尺比によって定量化することによって、現代人と化石人類の頭蓋内キャストの輪郭の形態差を定量的に評価する方法を検討する。

4)旧人ネアンデルタールと新人ホモ・サピエンスの交替劇
博物資源データベースおよびデデリエ洞窟発掘データから復元される交替劇の時代状況・社会状況の諸相と、頭蓋モデルおよび脳鋳型モデルの比較形態学的解析から復元される脳のはたらきの諸相の進化との相関モデルに基づいてヒトが行動を獲得するために用いる個体学習(ひらめき、試行錯誤など自力で学ぶこと)と社会学習(模倣、刺激増強など他者から学ぶこと)という二つの戦略の進化の実態を検討し、交替劇はヒトの学習能力の優劣によって起こったという作業仮説を検証する。


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