科学研究費補助金基盤研究(S)
「西アジア死海地溝帯におけるネアンデルタールと現生人類交替劇の総合的解明」
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■研究計画(4)
旧人ネアンデルタールと新人ホモ・サピエンス交替劇
[研究目的]
交替劇は両者の学習能力の優劣によって起こったという作業仮説を立て、それを知と脳の共進化の証拠によって検証する。知の進化の証拠については、上記4種類の「データベース」と「シリア・デデリエ洞窟発掘」で再現される知的情報処理の所産物によって導かれる特質を取りあげ、脳の進化の証拠については、上記「旧人ネアンデルタールと新人ホモ・サピエンスの頭蓋・脳」で得られる頭蓋モデルおよび脳鋳型モデルの比較形態学的解析によって導かれる脳の特質によって論じ、学習能力の優劣の本質を探る。そして交替劇が脳のはたらきの違いによる学習能力の優劣によって起こったという業仮説の妥当性を検討する。本研究によって知と脳の共進化の実態を明らかにし、頭蓋・脳の左右差と知的情報処理の所産物との有機的関係を検証し、言語能力獲得の歴史的背景についての新知見の創出を目指す。考古学・化石人骨研究は分断的・個別的であり続けている。本研究は各分野で蓄積されてきた学術データ、学術情報を集大成するとともに、新データを追加し、これまでの研究の質的転換をはかる。
[2005-2006年度計画]
1)人類進化博物資源データベースに基づく検討
旧人ネアンデルタール・新人ホモ・サピエンスの間で学習能力の優劣の存在を考古学的証拠で検討する。遺跡遺物は各時代の先人の知の産物、知的情報処理の所産物であるから、その種類内容を比較して学習能力の違いを探り、違いがあるとすればどのような違いであったか、その本質を検討する。関連する資料情報はすでに膨大に蓄積されており、学習能力の進化、最後の交替劇前後のヒトの学習能力に優劣が存在したかどうかを実証化する。
2)シリア・デデリエ洞窟発掘に基づく検討
ヤブルディアン(30万年前―)、初期ムステリアン(20万年前―)、後期ムステリアン(7万年前―)、ナトウーフィアン(1万4000年前―)等各時代の堆積物が重層する遺跡特徴に鑑み、同遺跡データと関連遺跡の既存データとの比較研究を実施し、旧人ネアンデルタール・新人ホモ・サピエンスの系統関係について、デデリエ洞窟に基づくモデルと西アジア死海地溝帯における既設モデルとの摺り合わせを行う。
3)旧人ネアンデルタール・新人ホモ・サピエンスの頭蓋・脳に基づく検討
交替劇が両者の学習能力の差異によって起こったという作業仮説を検証するには両者の脳機能に差があったと仮定し、そのような脳機能差を両者の脳の形態上の差異によって説明することが必要となる。具体的なアプローチとしては、学習能力を司る機能部位を特定し、その部位の形態差を見つけることである。今回は、コミュニケーション能力に関わる機能部位、例えばブローカ野、ウエルニケ野の発達の程度、それによって起こる大脳半球の左右非対称性の証拠を旧人ネアンデルタールと新人ホモ・サピエンスの脳で比較検討する。現代人なみに拡大した脳を持つことになった旧人ネアンデルタールだが、行動面(知)において劇的な変化・進化はみられない。では、その大きくなった脳はどのような働きに関与したのか。そして、旧人ネアンデルタールの時代における技術的知能・博物的知能・社会的知能・言語的知能を研究目的にあげたデータベースとの関連に基づいて実証化する。
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