科学研究費補助金基盤研究(S)
「西アジア死海地溝帯におけるネアンデルタールと現生人類交替劇の総合的解明」
Page05



■従来の研究経過

1)人類進化博物資源ポータルサイト

1997年以来、人類史700万年を具体的に裏付ける知的産物の時代的・地理的変異を網羅的に自動検索できる情報環境を創出することを目指して、日本隊調査に由来する一次資料群に加えて、関連遺跡群の発掘報告書に発表される学術データ群および内外の研究機関・博物館に分散分蔵される関連一次資料群について、遺跡書誌情報、遺跡の写真・測量図・堆積物等、遺物の写真・実測図・計測値等、現地の自然・地形・風俗・民俗・民族・遺跡の現状等各種データの集積並びにデジタル化を実施してきた。

2)シリア・デデリエ洞窟調査

[1987-2002年度調査]
1989年度調査で同洞窟が旧人ネアンデルタールの居住遺跡であることが確定し、1990年度からの組織的発掘により多量の学術資料を発見。1993年以降相次いでネアンデルタール人骨発見、なかでも1993年発見の第1号1997年発見の 第2号埋葬人骨は保存状態きわめて良質で世界的な発見として脚光を浴びた。同ネアンデルタールの生存年代はタンデム加速器年代測定により約5万年前であることが確定した。以上の調査・研究成果について、国際舞台で評価を仰ぎ、併せて、目指すべき研究の方向性を見届けるために報告書、T. Akazawa, and S. Muhesen (eds.) 2002/2003 Neanderthal Burials: Excavations of the Dederiyeh Cave, Afrin, Syriaを刊行した。同報告書の刊行をもってデデリエ洞窟は世界でトップクラスの第一級の旧石器人類遺跡の仲間入りをはたした。海外研究者から多くの讃辞とともに書評が発表されている。

[2003年度以降]
2003年度以降の発掘によって、ネアンデルタール人骨の発見された地層(5万年前-)の下から初期ムステリアン(20万年前-)、さらにその下からヤブルディアン(30万年前-)の地層が現れた。当洞窟が数十万年にわたる長大な人類史が封印されているきわめて稀な遺跡であることが判明した。また、洞窟堆積物の最上層から、当一帯における農耕牧畜の起源を探る上で欠かせないナトウーフィアン(1万4000年前-)時代の堆積物が発見された。

3)デデリエ・ネアンデルタール人骨の復活研究

1995年度以降、デデリエ洞窟で取りあげたネアンデルタール人骨実物資料をX線CTで測定し、三次元データをすべてコンピュータ内に取り込んで、仮想空間上で頭蓋並びに全身骨格を復元する方法技術を開発した。仮想空間であれば実物資料を損なう危険はなく、破片の接合、欠損部分の補完、歪みの補正等を自在に行いながら、頭蓋の原型・理想型をリアルタイムで追求できる。そしてまた、仮想的に復元された頭蓋の中にかつて納まっていた脳の形態を、現代人や霊長類の脳内部の微細構造所見を参考にしながら推測・復元することも可能である。

[デデリエ・ネアンデルタール第1号埋葬人骨の三次元復元]
シリア・デデリエ洞窟で発見した良質のネアンデルタール人骨(第1号埋葬人骨)を素材として、コンピュータサイエンス等先端諸学との共同研究によって、当人骨の生前の姿かたちを総合的に復元する方法理論や技術を検討した。そして、三次元形状計測法によって、ネアンデルタールの三次元画像・立体モデルの生成、生成した立体形状データから光造形法に基づいて骨格の実体モデルを製作、また、当ネアンデルタールの歩行等の運動機能及び成長の過程を復元する方法理論を開発した。

[デデリエ・ネアンデルタール第2号埋葬人骨のCT測定・脳復元]
同洞窟で新たに発見したネアンデルタール人骨(第2号埋葬人骨)を素材として、スイス、チューリッヒ大学のマルチメディア研究室との共同研究によって、CT測定による化石頭骨の三次元画像復元、ラピッド・プロトタイピング技術による実体モデル創成及び関連する方法理論、技術開発に取り組み、最後に化石脳の復元を試みた。


Page05

高知工科大学・総合研究所 博物資源工学センター / 〒782-8502 高知県香美市土佐山田町宮ノ口185
Tel:0887-57-2760    Fax:0887-57-2777
© Mission PaleoX