電子講義:交通流の離散モデル

全卓樹

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    交通流の離散モデル(0-1)

はじめに

本解説は、現在高知工科大の数理工学研究室(全研)で修士課程および学部卒業研究の課題として行われている「セル状オートマトンを用いた交通流モデル」について解説したものである。

この解説は元々は研究室の共通の知識と了解を共有するための入門セミナーの素材として準備されたノートが発展したものである。ウェブにのった経緯は、学部3年生の諸君の研究室選びにあたっての参考資料を提供するための内部公開のためであった。

この解説を一般に公開するのは、「交通流」「セル状オートマトン」(セル・オートマトン、セルオートマトン)「交通基本図」「ナーゲル・シュレッケンベルク模型」といった言葉をどこかで小耳に挟んでこの分野に興味を持った、学内外のすべての好学の士のためである。

そのため、ここでは実際のシミュレーションの技術的な細部よりも、研究の背景となる物理的さらには工学的なものの見方、とくに「モデル化」というものが果たす役割について、枚数を割いて詳しく書いていくつもりである。つまり特定のモデルの性質の詳細も大事であるが、それよりもっと大切なのは、一見複雑な系の「よいモデル化」が、現実の複雑さの中から「本質」部分をうまく切り分けて単純な規則に結晶化させることで、今度は現実の複雑さを驚く程よく再現していく様子、これをしっかりみて、体験してもらうことである。

このテーマは大きく言うとこの20年ほどの間に、物理学の新たな分野として登場した「複雑系」といわれるもの研究の一部である。「複雑系科学」というものが20世紀末の物理に果たした功罪については、後に節を立てて改めて論じたいと思う。そのなかで「交通流の離散モデル」というのは複雑系のアプローチが文句なく成功した例といえるだろう。それは対象がはっきり存在し、現実の交通流解析の手段として活用されているモデルのしっかりした基礎となったからである。それゆえ「交通流モデル」は複雑系科学の健全な入門としても格好の素材である。

本解説で論じられている事項のうち、教科書的な入門部分以外は、すべて筆者の研究室での独自の研究成果に基づいている。ここの文章、ここに記された筆者のグループ独自の理論、手法、素材についての学術的および教育的転用は出典を明示された上で自由に行っていただきたい。それ以外の商業的、政治的等の目的での転用は一切ご遠慮いただきたく思う。

この解説は、このテーマを研究室にそもそも持ち込んでくれた畏友ペトル・シェバ博士、そしてまた修士の学生として高知とフラデッツを幾度か往復しながら、現場で研究の実際に携わってくれた阿部哲也君と西村隆君の決定的な貢献があって初めて存在するものであり、この場を借りて彼らに感謝の意を表したい。

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