電子講義:交通流の離散モデル

全卓樹

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交通流の離散モデル(1-1)

交通流を定量的に記述するには1

交通流の研究とはなにか

自動車は現代生活にあって効率的な移動の欠かせない手段である。自動車は高価なので、最初はとりあえず自動車を広く行き渡らせることが社会全体の効率向上の課題と見なされる。ところが自動車はそのままでは使い物にならない。人々に広く行き渡った自動車を役に立てるにのに、不足しがちな道路を増やすことが次に社会の課題になる。道路の整備が一通り終わって、めでたしと思いきや、実はここから「交通渋滞」という本当に困難な問題が始まるのである。

あらゆる国の大都市では交通渋滞が慢性化しているのが常である。街の中ではどこでも道路が縦横に行き交い、市内で車両用道路の占める面積はかなりのものであるのに、至る所で渋滞が発生しているのが見られる。都市の全面積を道路にするという極端で非現実的な施策以外に、なにか渋滞を無くす、あるいは少なくとも緩和する知恵はないのだろうか。その疑問に答える前提条件として、まず道路の上をどのように車の交通が流れているのかを定量的に理解することが必要になる。交通の流れをコントロールする要因をみつけて渋滞の緩和を図る:これが交通流の研究のめざすところである。

ところが交通の流れを研究するのに、街区全体、あるいは高速道を一日貸し切っての実験を行うというのは明らかにコストがかかりすぎる。第一そんなこと実行に移すのは、独裁国家のカウディーリョでもない限り無理で,現代の民主国家では実際上不可能である。そうすると必然的に、交通流の研究はシミュレーション、具体的にはコンピューター上での数値実験として行牛かないだろう。かくして交通流の研究の実際は、コンピューター上で交通流の本質的特徴をよく再現するモデル(模型)を作り上げて、その性質を調べる、ということになる訳である。

一次元的円環上の交通流

交差点の無い一本の片道通行の道路を考えてみる。その上での車の動きは一方向への流れである。通常は道路はどこかで始まりどこかで終わるので、この一次元的な流れには始点、終点があって、それぞれで車の流入、流出がある。平均的には流入量と流出量はバランスしている筈である。さも無ければ道路から車が消えてしまうかまたは道路から車が溢れ出してしまうだろうから。道路交通の本質的特徴は流入、流出の詳細によらないだろうから、簡単のため終点から流出する車はすぐに始点からまた流入するという扱いをしても交通流の特徴を捉えられると考えられる。つまりこれは線分の上の交通流の代わりに円環状の道路の上の交通を考えた事になる。このような両端点の扱いを物理では周期的境界条件という。

閉じられた円環の上での一次元的交通、というのが交通流のモデルの出発点となる基本モデルで、この解説で扱うのも専らこの基本モデルである。現実の交通で反対車線があったり交差点があったりするのはこの基本モデルを組み合わせた複雑化である。

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