電子講義:交通流の離散モデル

全卓樹

[電子講義集] [全HP]
[Index][ch0][ch1][ch2][ch3][ch4][ch5][ch6][ch7][ch8][ch9]
前へ 次へ

交通流の離散モデル(5-1)

標準模型の拡張と修正1

パラメタの場所依存性にみる静的拡張と動的拡張

ナーゲル・シュレッケンベルクの標準模型は非常に簡単な形をしていながら、実際の一車線道路における交通流の多くの特徴を驚くほどよく捉えている。しかし勿論現実の交通にあっては道路は一本ではなく、多くの道路が交差点で交わり、また一本の部分でも一車線とは限らない。また道路上には多くの隘路、信号などがあって、単純な標準模型がそのまま適用できる状況は考えにくい。現実の道路交通に少しでも近づけるため標準模型を拡張するというのは自然な考えであろう。

このような拡張を考えるに際しては、状況を2つにわけて「静的な拡張」と「動的な拡張」を区別する事が重要である。

ここで静的拡張といったのは、隘路やカーブ、坂道、工事現場のように道路の特性パラメタ Vx と R を系全体で一定の値ではなく領域ごと、あるいはセルごとに異なった数と考えて取り入れられるものの事である。信号と言ったような時間的に変化する条件でも、周期的で予想可能な変化なので、やはりある特定のセルでの Vx を外部的に周期的時間変化させればよく、こういった物まで静的拡張のカテゴリー少し「拡張して」それに分類する事も可能であろう。

これに対して「動的拡張」というのは、交差点があって違った道路との間で流入流出があり、この流入流出自体が車の動きに依る、というような状況を考える場合に必要になる。つまり系のある領域ないしはセルでのパラメタの値自体がその領域での車の配置に依存するような場合である。二車線以上の交通もやはりこの分類に入る。

標準モデルの修正

上述のような、与えられた状況に応じた複雑化としての拡張以外にも、ナーゲル・シュレッケンベルク模型には、時間空間の離散化に伴って現れる不定性がある。一つの時間ステップは現実には短いながらある有限の長さの時間感覚に対応しているので、その間に複数の事象が起こりうる。この複数の事象をどういう順序で取り扱うかに関していくつか不定性がある。

例えば標準モデルで「前の車をみて減速する」と言ったときに、この前の車は今の位置に止まっていると考えるのか、もう先に進んだ後と考えるべきか。

我々はこの不定性をむしろ逆手にとって、モデルに色々な変種があって、それぞれ違った物理的状況を表現している、という風に考えることにする。

行先: 研究のページ
copyright 2005
全卓樹ホーム 教育のページ
t.cheon & associates