VOL. 02 / 04

知的好奇心を持てば、
世界はもっと美しく、楽しく見える

帰国して半年間は、セラミックスに関する文献をむさぼるように読んだ。セラミックスは焼物をはじめ、古くから私たちの生活とともにあるが、焼結(陶土などを焼き固めること)までにさまざまな助剤を加えることなどから、なぜそのように形づくられるかというメカニズムは謎に包まれていた。経験則や勘による成果が連綿と受け継がれてきた「ノウハウの塊」で、サイエンスという切り口では「基本的にはなにもわかっていない」という状態だったという。

「企業から試料を提供してもらえばいい」という教授もいた。しかし佐久間先生は、それが価値ある発見に結びつくとは思えなかった。途方に暮れながらも最初の研究テーマに選んだのが、「高強度・高靭性ジルコニアの組織制御」だった。セラミックスの一種であるジルコニアは微粉末原料を焼結してつくるが、組織制御の本質を調べるためには大変な高温が必要になり、実験室で取り扱うのは困難を極める。そんな問題が横たわるなか、いつものように論文を読んでいると、試料を溶解法で作成したという報告を見つけた。焼き固めるのではなく、セラミックスを溶かすというアプローチに、佐久間先生は「これならやれるかもしれない」と希望を見出した。かくして最初の研究は実を結び、「ジルコニアの相転移」の理解に、まったく新しい展望をもたらした。

「セラミックス研究の最初にジルコニアと出合い、また溶かしてつくる方法を知ったことは、幸運でしたね」

慣れないセラミックスの分野で早期に成果を上げられた背景には、金属学の知見もあった。金属材料の学問体系で蓄えた知識や実験手法をセラミックスに用いることが、研究当初は強力な武器になったのだ。

佐久間先生が次の研究テーマに掲げた「セラミックスの超塑性」も、そのルーツは金属材料にある。超塑性とは固体が数百%以上に伸びる現象を指し、金属材料の分野では1960年代から研究されていた。適当な条件下においては伸びが数千%に達する金属材料もあるという。当初は金属材料に特有な現象と考えられていたが、セラミックスをはじめ、本来は脆いとされていた材料にも超塑性が確認されるようになっていた。

セラミックスの超塑性

「このテーマでもジルコニアを使って研究しましたが、文字通り飴のように伸びるセラミックスを実現し、当時の世界記録を打ち立てました」

こういった成果によって、佐久間先生は「超塑性の新しい展開」という研究領域の代表を務めるなど、セラミックス超塑性研究の第一人者として長年にわたり活躍することになった。自身は「研究テーマが何度も変わって苦労した」というが、それぞれの場面で積み上げてきた経験が優れた成果として結実したことは想像に難くない。

「すぐに埋もれてしまう研究テーマもたくさんありましたが、たとえ日の目を見なくても、研究をやっているときは楽しかったですね。研究は知的好奇心を刺激してくれます。科学の研究に限らず、知的好奇心を持って世の中を眺めてみてください。世界がもっと美しく、楽しく見えると思いますよ」