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一流にふれることで、
視界が大きく広がった

数々の先進的な研究を通して、高温・高強度セラミックスや電子セラミックス設計に新しい発展をもたらした佐久間先生だが、教育に関しても多くの功績を残している。母校の東北大学や1986年より教授を務めた東京大学での後進の指導はもちろん、2005年に副学長として迎えられた高知工科大学でも、その辣腕をふるった。

高知工科大学は1997年の開学時から「大学のあるべき姿を常に追求し、世界一流の大学を目指す」という目標を掲げ、時代をリードする取り組みで注目を集めた。1年間を4期に分けるクォーター制や必修科目のない全科目選択制をはじめ、その例は枚挙に暇がない。だが先進的な組織であっても、時間の経過によって、世の中の流れに沿わない部分や、制度上の問題があらわれてくることは避けられない。佐久間先生が副学長として着任した当時は、少子高齢化の進行や首都圏一極集中の影響もあって志望者が減り、多くの地方大学の類にもれず定員割れが起こるなど、難しい舵取りが求められる時期だった。佐久間先生は「組織は常に進化しなければならない」という考えのもと、さまざまな改革に乗り出した。

たとえば初の文系学部となった「マネジメント学部」の設立だ。佐久間先生は当時、「工学をベースとしたものづくり自体が変容しつつあります。良いものをつくれば売れるという時代は終わり、社会の動向を見ながら開発に取り組むことが必須です」と設立の意図を語っている。

マネジメント学部1期生卒業式

2008年に第3代となる学長に就任してからも、改革の手は緩めなかった。佐久間先生は高知工科大学の強みについて、「なんでもやれる大学」と表現する。その言葉の通り、ほかの教員からの意見も、良いと思えば積極的に受け入れた。

若手教員から提案された工学部の再編も、そのひとつだ。5つの学科に分かれていた工学教育を、3学群13専攻に再編した。1、2年次は学群に所属して工学全体を幅広く学び、3年次以降に13の分野から専攻や副専攻を選んでより深く学びを掘り下げていく形だ。

ユニークな取り組みとしては、若手演奏家を招いておこなわれるコンサートも、佐久間先生が学長のときに実現した。

「これは、客員教授として音楽文化論という講義をご担当いただいた東京藝術大学の佐野 靖 教授の発案です。もともと音楽をはじめとする芸術は工学に近い要素があり、視野を広げるためにも良い企画だと思いました」

コンサートは継続的におこなわれ、2018年も新進気鋭の演奏家によって、『ドビュッシーのヴァイオリンソナタ ト短調』『ショパンのバラード第1番 ト短調 op.23』『プーランクの三重奏曲』が披露された。

若手演奏家を招いて行われるコンサート

「ただ音楽を鑑賞するのではなく、やはり一流のものにふれてこそ、視界が変わってくるのです。私が理系の世界に入って幸運だったと思うのは、世界の研究者と議論をしたり、国際学会で発表したりと、インターナショナルな舞台に立てたことです。とくに、若いうちに超一流の研究者と交流を持てたことは、最高に幸せな経験でした。コンサートで素晴らしい演奏を聴いているときも、なにごとも一流のものにふれることが大切だと、つくづく感じました」