VOL. 02 / 04

「防護・環境・利用」が調和した
美しく安全な海岸づくり

前述の「海岸法」は、1956年の制定時には津波や高潮、波浪などによる被害から海岸を「防護」することを目的に制定されていた。しかし高度経済成長期を経て人々の生活実態や価値観が変化してくると、法律改正を求める意見が出はじめる。磯部学長は全国の海岸を知り尽くした海岸工学の専門家として、今後の海岸のあり方を議論する国の懇話会に参加。そこでの提言により、1999年改正の「海岸法」の目的には、「環境」と「利用」が加えられた。

磯部学長が今まで訪れた海岸を点で繋げた図

磯部学長は「防護・環境・利用の3つがうまく調和していること」を良い海岸の条件に上げる。その理由として「砂浜」を例に磯部学長は次のように語る。

「砂浜は海岸に打ち寄せる波のエネルギーを吸収することで、津波や高潮などから海岸を防護します。またウミガメの産卵に代表されるように、砂浜特有の生態系もあり、豊かな自然環境の一部になっています。さらに海水浴や釣りなどのマリンレジャーも砂浜を利用することで成り立っています。このように「防護・環境・利用」の調和が取れた海岸が美しく、安全で、いきいきした海岸です」。

多少大げさかもしれないが、この「防護・環境・利用」の発想は、子どものころ鎌倉の海で遊んでいた磯部少年からのメッセージといえよう。当時の鎌倉の海岸は磯部学長にとって理想的な海岸であり、「あの海岸をずっと残したい」という熱い思いが、学長の提言に説得力を持たせたのだ。

砂浜の保全について、磯部学長はこれまでにも静岡や千葉などの海岸線で研究を行い、現在は高知の砂浜の保全に向けた検討を行っている。

素人目には分かりにくいが、海岸の砂は川の水と同じで常に移動しており、砂浜はいろいろな要因で消失の危険性を孕んでいるのだ。

磯部学長は「近年はダムの建設などにより上流から来る砂の量が減少したりして、このままのペースで行くと180年後には日本から砂浜が無くなります」と警鐘を鳴らす。一方で海岸から流れ出る砂の量を減らすなどの土砂管理により、砂浜を維持できるそうで、実際に磯部学長が2013年から保全技術検討委員を務めている高知海岸では、ヘッドランドと呼ばれる人工岬を設置し、沖に出ていく砂の量を減らしている。今後はさらに長期的な視点で砂浜の保全に努めることで、防護と環境と利用が調和した海岸を維持していくという。

2004年に高知海岸を視察した際の写真。海岸侵食が進みつつあり、砂浜を消波ブロックで固めてあるのが見える。砂浜の保全のためのヘッドランドは、突堤の部分の建設が進んでいるが、今後長期的な砂浜の維持・回復のためにヘッド部が建設されることになる。