電子講義:生態系の進化ゲーム

全卓樹

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進化ゲームと生態系入門(1)

はじめに

生態系ってなに?

 生物学の概念で、例えば草とシマウマとライオンからなる系などをさします。最初は床屋談義のようなものでしたが、最近ではロトカ=ウォルテラ方程式のような発展方程式で表される多元非線形力学系である程度定量的に表されることが解ってきました。

進化ゲーム理論ってなに?

 Evolutionary Game Theoryという言葉の訳で、文字どおり進化論+ゲーム理論と思って大過ないです。進化的ゲーム理論、進化論的ゲーム理論、進化型ゲーム論等と訳してるのもあるみたいです。進化論をゲーム理論を用いて数学的に基礎付けようとするもの、とみなせます。あるいは逆に、ゲーム理論にダイナミクス(自律的法則に従う時間変化のこと)の概念を加えて拡張したら「進化」の概念が自然に出てくると考えるのもいいです。ゲームプレイがどう進化するかといえば、利己的個体を集めたのに利他的行為が発生するのです。私の耳に入った限りではMaynard-Smith、 Axelrod、 NowakとSigmund、 Gueth、 ChalletとZhang諸先生がこの分野のビッグネームみたいです。みなさんご存命なのでまだ新しい分野だと判りますね。

進化ゲーム理論が目指すもの--理論物理からの視点

 人間社会も一種の生態系なので、社会の構造、経済現象なども対象になり、たとえばなぜ社会に階層構造や所得差があるのか、なぜある組織は「自然に」発展し別の組織は必死の努力も虚しく内部に滞留する才能を生かせぬままに衰退するのか、なんていう生々しい問題も研究対象にはいります。こういった広義の生態系の性質や発展の様子を、理論物理のような考え方で(つまり「風で桶屋まるもうけ」型のルースな議論ではなく、明確な仮定と制御された近似とだけを素材に、ひらめきを論理的な型に封じて)限界と精度をはっきりさせた予言可能な形で理解していこうとするものです。従来数学者が主体に研究がなされてきましたが、結果の厳密さと予言の具体性有用性のバランスをすこし後者に傾けようというのが物理の視点です。「支配と安定」「ボスの必要性」なんて言う話も出てくるので、良きリーダーでありたい人にも役に立つかもしれません。

傾きかけた組織のリーダーに朗報?

 残念ながら50年早く生まれ過ぎました。今のところは基本の枠組みができつつあるだけで、実際の役には立たないことを保証できます。朗報は多分アカデミックなキャリアを目指す人に、でしょう。こういう分野の急速な発展が予想されますから。困難に直面した指導者はとりあえずは古今東西の哲人賢者の書物を今一度繰ってみるのがいいでしょう。奇妙なことに「進化ゲーム理論」のいくつかの予言はこれらの知恵の言葉を傍証するものが多いのです。

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