電子講義:生態系の進化ゲーム

全卓樹

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進化ゲームと生態系入門(3)

ゲーム理論とナッシュ平衡

人生のトランプゲーム

 っていうアリアがチャイコフスキーの演歌にありましたよね。(マリインスキー劇場で見るのが最高です。)洋物が苦手な方なら「将棋の駒」っていうあの有名なアリアを思い浮かべて下さい。(こちらはサブちゃんでしたか..)いまあなたと友人が2人でお金と名誉を賭けてゲームを繰り返しやります。双方とも2枚のカードをもってて、一方が悪魔、もう一方は天使とします。2人で同時にカードを出してその結果で次のお金がもらえるとします。(単位一万ディナール)

(貴方の得点)
相手は悪魔 相手は天使
貴方は悪魔
貴方は天使
-1
(相手の得点) 相手は悪魔 相手は天使
貴方は悪魔
-1
貴方は天使
4

 両方の表とも、上端が相手の手で、左端が貴方です。左の表の数字は貴方がこれだけ一万ディナールをもらえるということです。これを貴方のゲームテーブルとよびましょう。ゲームは公平で、相手も全く同じゲームテーブルで相手とあなたの立場を変えたものが適用されると考えましょう。つまり右の(相手の得点)の表です。さてこの表だと両方が「天使」の手を出せば両方とも得をするのですが、裏切って「悪魔」の手でもっと利益が上がります。裏切られた方はひどく損をします。しかし相手のお人好しにも限度があるから向こうも「悪魔」できます。結局貴方と友人が「合理的」なら裏切りを恐れて双方じり貧です。

 このように双方が利益最大を追求しようと合理的行動を取った場合に落ち着く状態(赤の状態)のことを「ナッシュ平衡」といいます。あの「ビューティフルマインド」のナッシュです。また今の「天使&悪魔」のゲームは通常「囚人のディレンマ」という名前でも知られています。技術的には「あなたの得点」の表であなたは上下に動いて選択ができ、相手は「相手の得点」の表で左右に動いて選択ができるので、その両者の動きが一致したのがナッシュ平衡です。この場合は相手が「悪魔」のときも「天使」のときも、あなたは上に動いて「悪魔」を選んだ方が得なのでそうします。相手も同じ理由でいつも左に動いて「悪魔」を選びナッシュ平衡にいたると言うわけです。

思いやりと談合

 さていま突然あなたと友人の頭(の利害を計算する部位)が何らかの理由で入れ替わっちゃったとします。こういう打算を度外視した友情は実際たまにおきます。つまりあなたは相手の、相手はあなたの利益を最大化しようとします。結果は双方「天使」の手を出し合って10000ディナールずつ貯金が貯まります。

 ということで、この場合「利他行為」が「利己行為」に勝るのですが、もし双方がこの美しい友情物語に満足しないで、友情は維持しながら利益を極大化する(いやらしい)人たちだったとするとどうでしょか。表を見ると裏切りの利益が裏切られた損失を上回ってるので、双方が時々「悪魔」を出した方がよさそうなのが解ります。試してみると一番いいのは4回に1度ほどランダムに裏切ることで、こうすると平均で一回に双方11250ディナールずつ貯まります。つまり談合により「純粋な友情だけ」より利益が1/8ほど増えます。

これを証明するのは少し手間がかかるので章を替えます。

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