電子講義:生態系の進化ゲーム

全卓樹

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進化ゲームと生態系入門(6)

ゲーム理論とロトカ=ウォルテラ方程式

シマウマとライオン、シマウマとカバ

 先に進む前に、生態学や進化論でよく出てくる「ロトカ=ウォルテラ系」というのを知って置くしつようが有るので、これについて数式を用いないで解説しておきます。
 いまシマウマとライオンが住んでいるタンザニアの緑のサバンナを想像して下さい。抜けるような青い空、疾駆する黒と白の斑、黒と黄の斑。岩に腰掛けて水筒から悠然と水を飲むマサイ属の戦士は、風の香りの予兆から今夕の雷雨を確信する...
 えーと、マサイはとりあえず忘れて下さい。
 シマウマは草を食べて生きていますので、サバンナだけ有れば生きていきますが、ライオンは草が嫌いなのでほおっておくと死んでしまいます。そこでシマウマの人口が少し減らされてその生命の一部がライオンになるわけです。これをシマウマの人口(X)とライオンの人口(Y)の満たすべき非線形の微分方程式で書いたのがのがロトカ=ウォルテラ方程式というものです。これには唯一安定な答えが有ります。プラトン的な視点にたてばこの方程式に安定解がある事が、シマウマとライオンが主従の関係を保ちつつサバンナで共存することを保証しているのです。

 さてタンザニアから別の国の湖沿いのサバンナに移動しましょう。ここにはライオンが見つかりません。地元の人に聞いてみると、ここはかつて有名な征服王シャカに率いられたズールー族の王国の一部だったそうで、ズールーはカバを連れてきて広めようとしたらしいのです。ところがいまはシマウマがいるだけです。どうもズールーはライオンを絶滅させたようですし、カバの方はシマウマとの生存競争に負けたようです。

 実はここに限らず、同じ草を食べる2種類の草食獣はたいてい共存せずどちらかが絶滅します。これは肉食獣2種でも同じです。この原因はやはり数学的なもので、違いに相手の存在に邪魔になる二種の生物(X、Y)の発展を規定するロトカ=ウォルテラ方程式には互いの攻撃性が非常に弱い場合ののぞくと、XとYの両方が0でない安定解がないのです。「両雄並び立たず」って諺はご存じでしょう。老カトーが「ローマもし立たんと欲すれば、カルタゴ滅ぼさざるべからず」と繰り返し元老院で演説したのも数学的発言だった訳です。

 あの、要点は「シマウマとライオン」および「シマウマとカバ」です。ほかの登場者はシャカもカトーもプラトンも孫子もみんな忘れて結構です。

ゲーム理論を微分方程式で表す

 ゲーム理論でのの戦略の選択というのは「レプリケイター力学」というおまじないを用いると、ロトカ=ウォルテラ方程式に書き直せます。そしてナッシュ平衡というのはロトカ=ウォルテラ方程式の安定な解にほかならないのです。まえの「天使悪魔のトランプゲーム」での最適解なんかも、これで計算するのが楽です。
 でも色彩的の描写をし過ぎたのか、これ以上説明するスペースがないので、章を改めます。

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