電子講義:生態系の進化ゲーム

全卓樹

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進化ゲームと生態系入門(12)

最初から混合ナッシュ平衡があると自由市場

ミクシダップ

ここまで読んできた人は、なんとなく「ゲーム理論って一種の管理主義イデオロギー」って思ったかも知れません。勿論それとは違うのですが、そう感じたとすれば、それはこれまで扱ったゲーム表がそういう性質だっただけです。イデオロギーの類型については次節にして、ここでは次のようなタイプのゲーム表を考えてみましょう。

貴方の得点 相手はハト 相手はタカ
貴方はハト
貴方はタカ
相手の得点 相手はハト 相手はタカ
貴方はハト
貴方はタカ

これだと「囚人のディレンマ」や「協力型ゲーム」の時とは異なって、相手の出方に応じて選ぶべき手がかわります。それで相手の左右の動きと、あなたの上下の動きが交差するナッシュ平衡には、左下の赤の位置と右上の青の位置の二つがあることが解ります。利益をあげるには「相手と反対の手を取れ」ということです。相手がなに出すかはむろん不明なので、じゃあどっち選べばいいのかをいうことに成りますが、このようなときはさいころでもふって両方の手をを適宜まぜてみるのがいいかも知れません。いろいろ試してみると、そのうちどこか最適の混合比が見つかるり、両者ここで満足して落ち着くでしょう。これを「混合ナッシュ平衡」ですよね。一般にこのように最初から複数のナッシュ平衡があると、いつも「混合ナッシュ平衡」があって、大抵そちらの方が最善です。混合ナッシュのあるゲームには

貴方の得点 相手はハト 相手はタカ
貴方はハト
++
貴方はタカ
相手の得点 相手はハト 相手はタカ
貴方はハト
++
貴方はタカ

っていうタイプもあります。これは「相手とそろえると良い」タイプです。どちらにそろえればいいか解らないのでやっぱりまぜてやるのが良いでしょう。いずれにしても、何度か遊んでるうちにあなたも相手も自然にちょうどいい混合比が判ってきてそこに落ち着きます。前にも出てきましたが、この過程を「まねっこ力学」で追っていくと、一種の確率過程方程式や、さらにロトカ=ヴォルテラ非線形方程式で記述できるというシナリオです。

黄金色の見えざる手

 つまりゲームの性質がこのような混合ナッシュ平衡をもつ場合には、それ以上談合、利他主義ロボトミー手術その他の強制なしに、プレーヤーの私利私欲に任せて置けば「ゲームの神の見えざる手」が、個人にも全体にも最善の結果をもたらすというわけです。経済学の始祖として有名なサミュエル・アダムス、じゃなくてアダム・スミスが分析したのは、つきつめれば実はこのようなタイプのゲームだったのです。ちなみに上の型の「反対ゲーム」を多人数でやるゲームに拡張したのが「マイノリティ・ゲーム」というやつで、これは証券市場や外為市場のモデルとしてシミュレーションが行われ詳細な理論ができつつあります。対して下の「お揃いゲーム」は「マジョリティ・ゲーム」に拡張できますが、これはひょっとしたら「選挙」や「政党政治」のダイナミクスの解明に役立つのかも知れません。

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