電子講義:生態系の進化ゲーム

全卓樹

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進化ゲームと生態系入門(9)

生態系の食物連鎖とピラミッド型の階層構造

見ろ、大きな魚が小さな魚を食べている。こんなことワシは昔から知っておった

 と、フランドル画派の巨匠ピーター・ブリューゲルの有名な絵の解題にかかれていますね。(プランクトンを小魚が食べ、それを大きな魚が食べ、それをイルカ(人間)が食べ、という具合に自然界が構成されてるのは誰でも見知っている通りです。すこし調べると、階層を一つ下がる毎に個体数が膨大に増えていくことが判ります。歴史的には人間社会とて同じで、だいたいどこでも、王様ご一家50人を千人の大貴族が支え、それを5万人の地方貴族が支え、それを100万人の農民が支える、なんて構造になっておりました。

「民主的」な現代の組織でもこの構造は基本的に不変で、100人ほどの小さい組織に「なんとか長」が20人もいる前世紀型の官僚組織など、あまり良く機能しないのが知られてます。最近のマネジメント理論でも「リエンジニアリング」「ディレイヤリング」で階層はできるだけ少なくフラットにすることが薦められてめられています。でも今でも稀に大学なんかで錯綜したダイヤグラムの「研究組織図」とかを会議で見せてくれる人がいますよね。真顔でいるのは無理ですが吹き出すのも失礼なので、うつ向いてやり過ごしましょう。
脱線のついでにいうと、大学というのは国立私立であるとを問わず、国民の血税をインプットにして新発見、新発明、知恵のある学生といったクリエイティヴなアウトプットを社会に還元するものだ、というのは中学生にだってわかる自明な事です。しかし「民営化」というのをなにか誤解したのか、両親の授業料がインプット、学生の「顧客満足」がアウトプット、学内官僚と成果てた我々教員がこの入出力間のプロセッシングを行って差額を吸い取るという構造体を措定し、それらが多数集まって受験生市場で「自由競争」を行っているとする「ビジネスモデル」を最近目にするようになりました。これはビジネスでもモデルでもなく、行き着く先は「悪貨が良貨を駆逐する」というグレシャム的世界であることは火を見るより明らかです。こういう人々には自由競争の元祖アダム・スミス、中興の祖ミルトン・フリードマンの「公共財」についての章をもう一度熟読するように勧める事にしましょう。

 下に行くほどどんどん幅広の(指数的に、というのが専門用語)ピラミッド構造が遍在するのは、なにか神様のデザインなのかとも思えます。

維持可能最大漁獲量とエルトンのピラミッド

 これを説明するのに、最初は食うものと食われるもの2種の魚だけを考え、あなたが食う方の大きい魚だとして、どれだけ小さい魚を食べるのが一番得か考えてみましょう。あまりがめつくするとえさが減り過ぎるので、どこか頃合いの食べ方があるはずです。またロトカ=ウォルテラ方程式を使って計算してみると、小さい魚の自然人口(つまりあなたたち補食魚が消えてしまったときの小さい魚の人口)の半分まで食べるのがちょうど良いという結論がでてきます。実は今さっき知ったのですが、これは海洋学で「環境的に維持可能な最大漁獲量」としてよく知られていることらしいです。海洋学では少し違った方程式を用いるようなので、この結論はモデルや仮定にあまりよらない事実と考えて良いでしょう。
 この計算を3段階の食物連鎖について適用すると、一番上の階層のが次の魚を半分まで食べるとすると、真中のは数が減るので一番下の階層の半分は食べきれず、バランスで一番下の階層の魚は3/4は残るという結果が出てきます。こういう考えをN階層ある場合に繰り返し適用することで、階層を1段さがる毎に 4Bn/Bn-1倍だけ数が増える( Bnは「フィボナッチ数」というものの一種で、B=1、B=1、B=3、B=5、B=11、B=21 ...)という結論が得られます。これが普遍的生態系ピラミッドです。発見者の動物学者にちなんでエルトンのピラミッドとも呼ばれます。

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