電子講義:交通流の離散モデル

全卓樹

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交通流の離散モデル(6-1)

確率加速型複数区間モデルの相構造1

西村モデルが標準モデルさえ凌ぐその究極的な単純さにもかかわらず、その中に標準モデルにない「ノロノロ渋滞」を内包していることが理解されたと思うが、結果として交通流図にでてくる第三の相は、これまでのところでは道路を表す総セル数 L に依存する有限効果で、流量に与える寄与は1/L 字数であるので、真に「相」と名乗るにはまだ不足である。

L →無限大の極限で残るような効果を得るためにはもう一工夫が必要である。此処からは、その鍵を握るのが環境の空間的一様性の打破であることを示していく。そこでがらりと話を変えて、西村型のモデルで道路が一様でなく複数区間に分かれた物を考える。すなわち道路をそれぞれ長さが L1、L2、... 、LS の S 個の区間(セクション) に分ける。勿論道路全体の長さ L とは

L = L1 + L2 + ... + LS
(6.1)

の関係がある。長さ Lk の k 番目の区間での制限速度を Uk 非加速確率を Rk としてみる。つまり道路の特徴を示す二つのパラメタが区間ごとに違った値を取れるとする訳である。

現実の交通を考えれば、例え信号の一本も無い高速道路であっても、カーブでは運転者は減速し易いだろうし、下り坂は速度を上げやすく、上り坂は自然に速度が低くなる。つまり一様な道路というほうが現実離れしており、このようなパラメタの異なる複数区間からなる道路での交通流の方こそが現実的だと言えるわけである。

もっとも簡単な2つの区間 L1 と L2 からなる道路から始めるのが順当であろう。それぞれでの制限速度は U1 、U2 、非加速確率は R1 、R2 である。

まず非加速確率が共通に R1 = R2 = 0 の場合を見てみる。右にその基本図を示した。この例では L = 200 の道路全体を L1 = 160 と L2 = 40 の二つに割っている。制限速度が U1 = U2 = 8 の場合、 U1 = 8、 U2 = 3 の場合、 U1 = 8、U2 = 1 の場合の3つを重ねてある。自由相と渋滞相の間に流速 F=(U2+1) のフラットな第三相がはっきり見られる。これは低速区間に渋滞が起きて、それが高速区間に段々延びてきているのに対応している。
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