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高知工科大学理工学群の松尾 匠助教(現・学習院大学理学部化学科)、林 正太郎教授、大阪公立大学大学院工学研究科の大垣 拓也特任助教、池田 浩教授らの研究グループは、有機単結晶レーザー媒質*1に求められる加工性、結晶性、高い発光量子収率*2を同時に併せ持つ材料の設計手法を提案しました。
本研究成果は、9月28日、米国化学会の学術誌「Chemistry of Materials」に掲載され、同誌のSupplementary Cover*3(副表紙)にも選出されました。
【ポイント】
- トレードオフの解消:有機単結晶レーザー媒質において従来課題とされていた「加工性の向上」と「高い結晶性の維持」という相反する関係(トレードオフ)を克服する分子設計手法を開発しました。
- 性能の飛躍的向上:分子間CH-π相互作用*4を阻害する位置にメトキシ基*5を導入した結果、元の分子に比べて溶解度が約19倍に向上し、単結晶の発光量子収率も53%から81%へと大幅に上昇しました。
- 熱で溶かすことで「光る文字」や「薄い膜」を作成可能に:熱で溶かすことで「光る文字」や「薄い膜」を作成可能に:溶融加工(熱で溶かして固める手法)により、ガラス上への発光文字の作成や結晶膜の形成に成功し、加工後の膜においても光増幅現象(増幅自然放出:ASE*6)を確認しました。

▲研究の概要。メトキシ基の導入位置によって分子間相互作用を制御し、加工性、結晶性、高い発光量子収率を両立。ASEは増幅自然放出を表します。
[プレスリリース]「溶けやすく、固まりやすく、よく光る」加工性と結晶性を両立する高い発光性の有機レーザー媒質を開発
本研究は、JST創発的研究支援事業(JPMJFR211W)、日本学術振興会科学研究費助成事業(基盤研究(B):24K01574、26K01585、若手研究:22K14671)、高橋産業経済研究財団およびマツダ財団の研究助成を受けて行われました。
用語解説
*1)有機単結晶レーザー媒質
分子が全体として規則正しく整列した有機化合物の結晶で、レーザー光を生み出す材料のこと。有機物ならではの多様な発光特性を持ち、分子が整然と並んでいるため光のロスが少なく、少ないエネルギーで効率よくレーザー発振できる次世代の高輝度・高性能な光機能材料として期待されている。
*2)発光量子収率
吸収した光子数に対する、放出した光子数の割合。発光効率の指標。
*3)Supplementary Cover(副表紙)
学術誌の各号において、掲載論文の中から特に優れた成果や革新的な研究として編集部に選出された論文に与えられるグラフィック表紙。
*4)分子間CH-π相互作用
ある分子の炭素と水素の結合(CH)と、別の分子の芳香環に広がるπ電子との間に働く引力。結晶中の分子配列に影響する。
*5)メトキシ基
酸素原子とメチル基からなる官能基(−OCH₃)。導入する位置によって、分子間相互作用や分子の並び方を変えることができる。
*6)増幅自然放出(ASE)
励起された分子が発した光が、他の励起分子からの光の放出を促す「誘導放出」によって増幅される現象。
コメント
「有機分子からレーザーが出る」それだけでワクワクしてきませんか?
私たちは「分子骨格から結晶構造まで」スケールの異なるシステムを階層的に設計し、レーザー媒体を実現してきました。今回、松尾助教(現、学習院大学)が取り組んだ分子骨格は「絵や文字が書けるプロセス性とよく光る性質を併せ持った分子」です。本来、プロセス性と結晶性はトレードオフです。しかし、今回の成果ではそれを覆していることにインパクトがあります。次世代照明へ、その展開が期待できますね。
(林 正太郎教授)
掲載論文
タイトル:Crystal Engineering by Tuning Intermolecular CH-π Interactions Enables Processable and Highly Emissive Organic Crystals as Laser Media (和訳:分子間CH-π相互作用の制御に基づく結晶工学により、加工性と高発光性を備えた有機結晶レーザー媒質を実現)
著者:Takumi Matsuo, Takuya Ogaki, Yuto Hino, Keigo Yano, Hiroshi Ikeda,Shotaro Hayashi
掲載誌:Chemistry of Materials
公開日:2026年9月28日
DOI:10.1021/acs.chemmater.6c01004
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