電子講義:生態系の進化ゲーム

全卓樹

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進化ゲームと生態系入門(4)

進化するゲームプレイ

対外競争のある系での法の支配の自発的発展

 いま仮に、先ほどのゲームだけでこの世ができていて、社会を運営していかないといけないとしてみます。いま見も知らぬ人が10000人誘拐されて「高知工科大ゲーム理論研究所」の恐怖の秘密施設である「収容所」集められちゃったとします。100人づのグループに分けられて「天使と悪魔」を一日中やって、その収入の多寡に応じて食料を与えられるとします。

 最初のうち各グループとも「万人の万人に対する戦い」状態で裏切りが横行し「天使」型はみんな飢え死にしてしまうでしょう。しかしそこここのグループで「時々天使やってみんなで生き残りのチャンス増やそうぜ」とかいう運動がいずれ現れます。そんな中で早く最適な比率「3/4天使1/4悪魔の法則」を発見して、みんなでそれに従っていく仕組みを作ったグループが結局どんどんリッチになって食料を独占してしまいます。
 ところがこの状態は「ただ乗りやさん」が出てきてグループ内に広まるとすぐに崩壊するので、約束を守らない人のお仕置きの仕組みを整えないと実際機能しません。つまりこの収容所のなかでは、そのうちに法と警察機構を発展させた「天使3悪魔1」のグループが、「各人のかってな自由」を放置したグループを淘汰していく「社会制度の進化」が観測されるはずです。

 示唆に富むのは個々のグループがその中だけで閉じた考えをすると、結局グループごと淘汰されてしまうことです。狭い視野で環境に過剰適応して目線を下げるのは破滅への道なのです。

最も効率的な配置、でも厚かましい人がより得をする

 さてこの競争に勝って生き残ったグループを少し詳細に見てみましょう。人間はだれしも一つのことに秀でてることが多く、毎日違ったことをやるより何かに特化して繰り返しやる方が楽です。いま成功したグループを運営していくとして、毎回計算して「君は天使、天使、悪魔」「君は悪魔、天使、天使」とか振り分けるのは大変です。物覚えの悪いひとが混じってると間違えも多いかもしれません。いっそのこと、ある期間を設定して、気の強そうな1/4に「ずっと悪魔」残りに「ずっと天使」とかしてしまった方が効率的かもしれません。つまり職能分化です。試しに「悪魔組」と「天使組」の予想される収入計算してみると、ゲームの性質上必然的に悪魔のほうが高収入になります。グループの最適な状態では、天使組は5千ディナールに対して悪魔組3万ディナールです。

つまり職能分化を前提にすると、これが最適社会を維持するために、天使が我慢をしいられる階級差なのです。ほおっておくと天使が減ることを防ぐために先ほどの警察力が使われるはずです。また「左の悪魔に取られたら右の悪魔にも差し出しなさい。この秩序はみんなが収入0で死なぬよう天の命じたものです」という説教がたえず聞かれるでしょう。

 この仮想的な研究所の収容所、ばかばかしいようですが、よく考えると単純すぎるはしても、なかなか世の中のいろんな側面を表してる気がしてきませんか? すこし後でゲームのルールを「ヒッキー」「農民」「騎士」の3つの手のあるのにかえると、これがいよいよ実社会ににてきてしまうことを説明します。どうやら「不合理なゲーム」の下でなんとか全体の状況を改善しようとする人々の意図を基盤に、階級というものが発生してくるのでは、というシナリオがぼんやりと見えてくる訳です。

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