電子講義:生態系の進化ゲーム

全卓樹

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進化ゲームと生態系入門(10)

利他主義の社会学上級編:騎士と農民ゲーム

無政府状態では騎士と農民は平等

 さて、当面の仕上げとして次のような表で与えられるゲームを 大人数の人がランダムに2人ずつ組になっては何度か行い、また組み替えをして何度か行い、 というので成り立つ社会を考えましょう。あなたは左側で、上側が対戦相手で、表があなたの報酬ポイントです。 ゲームはあなたと相手と同条件です。つまり前と同じように、相手のポイントは行と列を読み替えると得られます 。a、b、R、f は何か正の数を表してるとします。(後で指定する)ここであなたには3つの行動のパターンが選べます。

(貴方の得点)
相手は引蘢
相手は 農民
相手は 騎士
貴方は引蘢
0
0
0
貴方は 農民
b
b-a
b-R
貴方は 騎士
-d
fR-d
-d

 *「引蘢」は引き蘢り、いわゆるヒッキーのことです。何もしないので、何がおこっても0点です。 いないのと同じです。でもそのうち他の手を選んで参加するかもしれません。 物理ではこのような状態を「真空」と呼びます。この「ヒッキー」は「数字のゼロ」みたいなもので、 これが次の「農民」「騎士」の供給母体なので、なくすわけにはいきません。
 *「農民」は自ら耕して1ゲームプレイあたり b だけ稼ぎます。別な農民と出くわすと農地が込み合ってて少し収入が減って b-a になります。ところが騎士に出くわすと年貢として b より大きい数 R だけ取られちゃいます。鎧兜に剣を持ってるので、抵抗しても無駄です。
 *「騎士」を選ぶと、剣と鎧を維持するのに1ゲームあたり d だけ出費がかかります。もし農民に出くわせば彼の貯えから R だけ取り上げて fR だけ自分のものにできます。(f は0.5とか1より小さい数で略奪品を流用する効率です。)しかしヒッキーに合っても何もとれませんし、別の騎士に出くわしてもだめです。
 このゲームは実は「引きこもり」を取ってしまうと最初の「天使と悪魔」ゲームになってしまうのが判ります。それぞれ損得有りますが、あなたならどの行動を取るでしょうか?

ホッブス状態ではみんなが悪平等

 このゲームを各プレーヤーが自分の利益を最大限にしようと試みるとします。戦略はほかのプレーヤーの反応次第でかわりまが、他の人もバカではないので自分と同じように利益を最大限にすると予想してやってみます。すると全体が落ち着く先の「ナッシュ平衡」は
  0 = x( b- ax - Ry)
  0 = y( -d + fRx)
で与えられます。この時面白いのは、この「ナッシュ平衡」ではあなたがどの手を選んでも、利益は不変だということです。これは実はまさに「ナッシュ平衡」という釣り合いの条件です。もしそうでないとすれば、あなたは得になる手を選び、その利益がなくなってしまうまで他の人もそうするのででしょうから。ヒッキーをやってれば得点は毎回0ですから、つまりは社会が「各人のかってな利益」の追求を許すと、何をやっても得点は0になるような状態に落ち着くということです。つまり「各人がこれ以上戦略を変えても改善が見込めない」のが安定な状態になります

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