電子講義:生態系の進化ゲーム

全卓樹

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不良中年のための進化ゲームと生態系入門(11)

利他主義の社会学上級編:騎士と農民ゲーム(承前)

所得差を許容した方がさしあたり双方得をする

さてここで前と同じように「利他主義」的な文化が社会に導入されたとします。そのような行動を社会が強制するといってもいいです。「利他的法律」です。これは計算をしてみないと出てこないのですが、そうすると実はやっぱり各人が得点0になる状態に落ち着いてしまいます

では二つの動機の中間を取るとどうでしょうか。いま利己的動機κ割、利他的動機 (1-κ) 割で各人がプレイする社会を考えます。結果は次の図にまとめられます。横軸はkです。ですから左端が利己的極限で右端が利他的極限です。「1」と書いた青線が「農民」で「2」と書いた赤線が「騎士」です。

上の方最善の戦術での「農民」「騎士」の比率で、真ん中のは各々の戦略を取ったときの報酬です。そして最下段のグラフは社会全体の利益の総計を一人当たりにしたものです。

利他的法律が導入されると「農民」の戦略を取る人の比率が増えます。利他的モラルのプレッシャーのもと、この選択の方が「楽だから」です。一方利益からいうと「騎士」のほうがより得になります。

そして政体変更

 κがある程度以上大きくなると、グラフの性質が突然変化します。これは社会のルールが「騎士」型の生存にいよいよ不利になって来て、騎士の利益は増えてもだんだんなれなくなる(あるいはなり手がなくなる)ので、しまいに騎士の人口が0になってしまうためです。そして全人口が「農民型」の生き方を選択するようになります。社会全体の「総利益」は増えます。κが  1/2 のときにこれは最大になりますが、面白いのは、このときの「農民型」の数は b/(2a) になっていることで、これは「騎士型」がそもそもいないゲームの場合の b/a の半分である事です。少し設定が違うので直接比べられませんが、捕食者が攻撃性を最適化したとき餌の自然人口は半分だ、という前の話と見比べると、偶然にしては不思議な一致ですよね。

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