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高知工科大学の郎 翠さん(大学院博士後期課程3年)と竹田 真己教授(総合研究所 脳コミュニケーション研究センター/情報学群)らの研究グループは、「手持ちサイズ」の日用品などを見たときの脳活動(fMRI*1データ)から、その物体の「実世界サイズ*2」(遠近感などに左右されない、実際の大きさ:Real-world size)」をAIによって高精度に解読することに成功しました。
私たちは、遠くにある自動車も、手元にあるコップも、見かけの大きさに惑わされず、「実際はどれほどのサイズか」、瞬時に判断できます。こうした脳が「実世界サイズ」を瞬時に認識できるメカニズムについては、従来も研究されてきましたが、比較されていたのは、「ビル」と「スプーン」のように極端にサイズの異なるもので、用途も異なることから(ビル:歩き回る空間、スプーン:手で持つ道具等)、脳が反応したのは「大きさ」そのものなのか、「用途」なのか区別がつきませんでした。
そこで研究グループは、手で持てる範囲(hand-scale)のものの微細なサイズの違いに注目。50名の健常成人から取得した全脳fMRIデータを対象に、最新のAI(3次元深層ニューラルネットワーク:3D DNN*3)と、AIの判断根拠を可視化する技術「Guided Grad-CAM*4」を組み合わせて解析しました。その結果、脳活動のパターンから、物体の実際のサイズ(実世界サイズ)を高精度に判別できることに加え、その情報が視覚野(後頭側頭皮質)にとどまらず、手などの精緻な運動制御に関わる「頭頂葉」や、注意・意思決定・記憶などを司る「前頭葉」および「皮質下構造」(島皮質、線条体、視床、海馬など)を含む「全脳に分散したネットワーク」に保持されていることが明らかとなりました。
本研究は、10月7日、国際学術誌「Scientific Reports」オンライン版に掲載されました。
【ポイント】
- 「手持ちサイズ」の微細な大きさの違いをAIが脳活動から解読 :手で持てる範囲の日用品(パプリカや帽子、ホイッスル、カリフラワーなど)を見たときの全脳fMRIデータに対し、最新のAI(3D DNN)を適用し、脳活動パターンから「実世界サイズ」を高精度に解読することに成功しました
- 「視覚野」にとどまらない「全脳ネットワーク」の関与を発見:AIの判断根拠を可視化する技術により、物体のサイズ情報は、目からの入力を受け取る「視覚野」だけでなく「頭頂葉」や「前頭葉」「皮質下構造」を含む、広く分散した脳内ネットワークで処理されていることを明らかにしました
- サイズを意識せずとも脳は「自動的・自発的」にサイズを把握:実験参加者は、物体の大きさを意識せず、単に「カテゴリーを分類」する課題を行っただけにも関わらず、脳活動パターンからサイズ情報が高精度に解読されました。このことから、脳は物体を見た瞬間、自発的かつ自動的に、その「実際の大きさ」を解析していることが裏付けられました
- 神経疾患の理解やロボティクスへの応用に期待 :今回特定された脳領域は、物の大きさが歪んで見える神経疾患「不思議の国のアリス症候群(AIWS)*5」の責任病巣と類似しており、臨床への応用が期待されます。またロボットが、カメラ画像から直感的に物体のサイズや掴み方を認識できる「次世代のロボット技術」の開発にも重要なヒントになると考えられます

▲実験課題(A)小型物体と大型物体の例。(B)実験の流れ。実験参加者は呈示された視覚画像のカテゴリを判断することが求められた。
▲物体の「実際の大きさ」を符号化する脳領域の可視化結果。(左)小型物体。(右)大型物体。
脳領域(ボクセル)の寄与度を統計的に算出し、寄与度の大きさでカラーコードしている。
LH:左半球、RH:右半球、Lateral:脳を側面から見た図、Medial:脳の正中図、Ventral:脳を背側から見た図、Dorsal:脳を背側から見た図、Posterior:脳を後ろ側から見た図、Anterior:脳を前側から見た図。
[プレスリリース]脳は「実際の大きさ」をどう識別するのか?AIによる脳画像解析でサイズを識別する「全脳ネットワーク」を解明
本研究は、日本学術振興会 科学研究費助成事業 (KAKENHI)、科学技術振興機構、公益財団法人の支援により実施されました。
・基盤研究A (JP20H00521)
・挑戦的研究(開拓) (JP21K18267)
・基盤研究B 26K03285
・研究成果最適展開支援プログラム(A-STEP)(JPMJTR25UE)
・公益財団法人 武田科学振興財団
・公益財団法人 上原記念生命科学財団
用語解説
*1)fMRI(機能的磁気共鳴画像法)
脳の血流動態変化を計測し、脳の活性化部位を3次元画像として可視化する非侵襲的な脳機能計測技術。
*2)実世界サイズ(Real-world size)
見る距離や角度によって「網膜に映る像のサイズ」がどれだけ変わっても、脳が記憶や知識と結びつけて正しく認識している物体の本来のサイズを、認知科学では「実世界サイズ」と呼ぶ。その物体が現実世界で持っている「本来の物理的な大きさ」のこと。
*3)3D DNN(3次元深層ニューラルネットワーク)
画像処理で用いられる深層学習技術を3次元の脳立体画像データに拡張したAIモデル。
*4)Guided Grad-CAM
AI(DNN)の判断根拠となった入力画像の領域を高解像度で可視化する説明可能AI(XAI)技術。脳活動データのどのボクセルがAIの分類決定に寄与したかを提示する。
*5)不思議の国のアリス症候群(AIWS)
自分の体や周囲の物体が、実際とはかけ離れて極端に小さく見えたり(小視症)、大きく見えたり(大視症)、歪んで見えたりする知覚変容(変形視や身体スキーマの異常)を特徴とする神経疾患。従来の研究では、視覚・空間・記憶を統合する脳領域(側頭・頭頂・後頭接合部や上頭頂小葉)の障害が原因と示唆されている。
掲載論文
タイトル:Deep-learning-based fMRI decoding of real-world size for hand-held objects
著者:Cui Lang, Kosuke Miyoshi, Masaki Takeda
掲載誌:Scientific Reports
公開日:2026年10月7日
DOI:10.1038/s41598-026-74629-7
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