2026.10.28学群・大学院 / 研究 / 研究者・企業

「1次元では起きない」常識を覆す相転移を数学的に解明

 遠藤 瞳さん(大学院修士課程2年)と、小林 未知数教授(理工学群)は、主に2次元物質の現象として知られる「BKT転移*1)」(2016年ノーベル物理学賞の受賞につながった重要な理論)と同様のトポロジカルな相関現象が、1次元の数理モデルにおいても現れ得ることを、数理解析と大規模な数値シミュレーションによって明らかにしました。

 一般に、1次元の系では熱の影響が強く、磁化の向きなどが長い距離にわたって揃う相転移*2)は起こりにくいと考えられています(マーミン・ワグナーの定理)。本研究では、通常の微分を一般化した「分数階微分*3)」を導入することで、離れた場所どうしが影響し合う「非局所相互作用*4)」を1次元モデルに組み込みました。その結果、低温領域では相関が距離とともにゆっくりと、べき乗*5)で減衰し、BKT転移に見られるトポロジカルな変化と整合する振る舞いが確認されました。

 一方で、通常の2次元BKT転移を特徴づける「位相ツイスト応答*6)」は、本研究の1次元モデルでは同じ形では現れませんでした。すなわち、今回観測された現象は2次元BKT転移とよく似た相関の性質を持つ一方で、熱力学的な振る舞いには明確な違いがあります。

 本成果は、空間次元だけでなく「微分の階数(相互作用の空間的広がり)」が物質の相転移現象に大きな影響を及ぼすことを示す重要な知見であり、低次元の冷却原子気体や超流動薄膜などの基礎物理を数学的に読み解く、新たな道を拓くものです。
 論文は、数学分野で国際的に高い影響力を持つ学術誌Mathematicsにオープンアクセスで掲載されました。
   

【ポイント】

  • 1次元系における相転移の発見:通常は2次元の超伝導薄膜や超流動などで観測される「BKT転移」に酷似した準長距離秩序が、1次元の数理モデルでも発現することを突き止めました
  • 「分数階微分」によるブレークスルー:分数階ラプラシアンを導入し、遠く離れた場所どうしが影響し合う「非局所相互作用」を定式化しました
  • 2次元BKT転移との決定的な違いを特定:相関関数はBKT転移特有のべき乗減衰を示す一方、2次元BKT転移の代名詞である「位相ツイスト応答の普遍的な跳び」は存在しないという、1次元非局所系ならではの特異な熱力学的性質を明らかにしました
  • 大学院生が筆頭著者:修士課程の大学院生が理論解析から大規模数値シミュレーションまでを主導し、幅広い数学分野を扱う国際学術誌Mathematicsに掲載されました

★図1-3.jpg

[プレスリリース]「1次元では起きない」常識を覆す相転移を数学的に解明 -非局所微分モデルでBKT転移型のトポロジカルな変化を解析-

本研究は、日本学術振興会科学研究費補助金(科研費番号:23K22492, 24K00593, 26K07020)の支援を受けて実施されました。

コメント

遠藤 瞳さん
前回の研究でも用いた分数階微分を使って、BKT転移に関する解析に取り組みました。データの解析や作成を進めるなかで、小林先生と一緒に結果を確認しながら研究を進めてきました。大学院の2年間で、国際学術誌に2本目の論文を掲載することができ、とてもうれしいです。研究を進めるうえでは小林先生に助けていただくことも多く、先生のご指導に心より感謝しています。今回の経験も大切にしながら、今後も研究に取り組んでいきたいです。


小林 未知数教授
遠藤さんが卒研の頃から取り組んでいた分数階微分(整数以外の階数で微分する)という数学的テクニックを新しい物理現象の発見や理解に応用できないかという、何気ない発想から生まれた研究でした。このアイデアを遠藤さんに相談したところ、すぐに自ら計算・解析を実行し始め、研究の始動から論文の受理までわずか6か月で大きな成果へとつなげてくれました。遠藤さんの行動力の高さには脱帽です。

★遠藤さんデスク_web_tri.jpg

用語解説

*1)BKT転移
Berezinskii-Kosterlitz-Thouless転移の略。通常の相転移のように粒子の状態が完全に同じ状態へ揃うのではなく、渦や反渦と呼ばれるトポロジカル欠陥の結合・解離によって起こる相転移。2次元の超流動薄膜、
超伝導薄膜、磁性体などで現れる。

*2) 相転移
温度や圧力などの変化によって、物質の性質が大きく変わる現象。氷が水へ溶ける現象、磁石が磁性を失う現象、金属や絶縁体が超伝導になる現象などが含まれる。

*3)分数階微分
通常の1階微分、2階微分を、1/2階や3/2階など整数でない階数へ一般化した数学的概念。通常の微分が主に近くの場所の変化を表すのに対し、分数階微分は遠く離れた場所の情報も取り込むことができる。本研究では、2次元系における1階微分の役割に対応させて、1次元系で1/2階微分を用いた。

*4)非局所相互作用
ある場所の状態が、そのすぐ近くだけでなく、離れた場所の状態からも直接影響を受ける相互作用。重力や電磁気力のような長距離力も非局所的な性質を持つ。本研究では、分数階微分によって距離とともにべき乗で弱くなる非局所相互作用を表現した。

*5) べき乗(べき乗減衰)
ある量が「距離の2乗(r2)に反比例する」「rηで割られる」というように、変数の何乗かに比例・反比例して変化すること。物理学において、影響が「指数関数的」に急激にゼロへ落ち込む通常の減衰に比べ、べき乗で弱まる現象(べき乗減衰)は「遠く離れた場所まで影響がジワジワと長く届き続ける」という特別な性質を持つ。

*6) 位相ツイスト応答
物質内部の位相と呼ばれる連続的な状態量を少しずつねじったときに、元へ戻ろうとする「硬さ」を表す量。磁石や超伝導の強さなどとも深く関係し、通常の2次元BKT転移では転移点で不連続な変化を示す。

掲載論文

タイトル:BKT-like Correlation Scaling and Twist Responses in a One-Dimensional Fractional U(1) Ginzburg-Landau Model
著者:Hitomi Endo and Michikazu Kobayashi
掲載誌:Mathematics 14(20), 3647 (2026)
公開日:2026年10月9日
DOI:10.3390/math14203647

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