電子講義:入門量子情報

全卓樹

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猫でもわかる量子情報(5)

量子論最小限その2:基底セットの重ねあわせ

(1)アリスは量子矢印(スピン1/2)を「任意の角度の状態」に設置できる。

(2)ボブがこの状態を観測すると「ある方向」と「その反対方向」の2つに1つしか見つからない。しかしこれを「どの方向」にするかはボブが恣意的に決められる。

(3)「ある方向」と「反対方向」のどちらが見つかるかは確率的にきまる。その確率はアリスの設置した方向とボブが測定のために選んだ方向次第でいろいろにかわる。

というのがまとめになります。途方も無い話ですがこれが量子論の現実なのです。

たとえばボブが「上下方向」と思い定めて観測した時、「上向き」または「下向き」がある比率で見つかると言うことは、アリスが最初に準備した状態自体が、上向き状態と下向き状態のある種の混合だったとも考えられます。これを量子論では「状態の重ねあわせ」と表現します。アリスは勝手な状態を準備できるわけですから、これは結局「上向き」状態と「下向き」状態の一組さえあれば、それを重ねあわせて全ての状態を作れる。と言うことを意味します。そこでこの「上向き」「下向き」の組のことを「状態の基底セット」と呼びましょう。ボブが観測する際に上下方向以外の別な方向を思い定めて選んでも、全く同じ議論ができるので、「ある勝手な方向」と「その逆方向」の組、たとえば「右向き」状態と「左向き」状態の一組もやはり「状態の基底セット」になることができます。つまり

(4)2つの状態の違った状態の重ねあわせは、これもまた許される量子状態である。

(5)スピン1/2の全ての状態は「ある向き」状態と「その逆向き」状態からなる基底セットの重ね合わせで表せる。基底セットの選び方(向きの選び方)はボブの勝手なので、無数に異なった選び方がある。

という事になります。

ある方向で向きが確定するとそれと垂直の方向で測定したときには、向きが半々に出るということは、言葉を変えると完全に不確定になるという事です。これはまさに量子論に特徴的な「ハイゼンベルクの不確定性原理」がスピンの方向について発現したものと考えることもできます。

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