電子講義:入門量子情報

全卓樹

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猫でもわかる量子情報(15)

ボブの観測結果のイヴの観測次第

結局「1番目の矢印の向きは?」と言う質問には、2番目の状態に関する指定を行ってから始めて次のように答えられます。

 * 2番目の矢印を気にかけないと、1番目の矢印が上向きの確率は50%
 * 2番目の矢印が上向きと観測されれば、1番目の矢印は100%下向き
 * 2番目の矢印が下向きと観測されれば、1番目の矢印は100%上向き

つまり仮にボブが1番目の矢印だけを観測するとしてその結果は、2番目の矢印をイヴが観測したかしなかったか、したとして結果がどうだったか、に依存すると言うことです。この |S>のような状態のことを1と2の状態が単独で指定できないと言う意味で「もつれ状態」または「からみ状態」といいます。もっとも業界ではこんなヘンテコな日本語は使われず、誰もがEntangled State(エンタングルドステイト)って呼んでますが。

EPRパラドクス

こういう結果が |S> も量子状態として許されるという事実から出てくるのを、最初に指摘したのはアインシュタインでした。そこでこれを論文の共著者名を並べて「アインシュタイン=ポドルスキ=ローゼンのパラドクス」っていいます。アインシュタインはこれを量子論が不完全な証拠、ないしは量子論の状態を確率的に解釈するのが間違っている証拠と考えたのです。

ところがその後、これを直接調べる実験ができるようになりました。最近の実験では |S>の状態を作った後、矢印1と2を空間的に数十キロ引き離して別々に観測します。結果は、1番目の矢印の状態が、数十キロ先の2番目の矢印を観測した結果に依存するというのが全くの事実であるこというものです。どうもこの件に関してはアインシュタイン先生の旗色が悪いようです。

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