電子講義:入門量子情報

全卓樹

[電子講義集] [全HP]
[Index] [0] [5] [10] [15] [20] [25] [30]
前へ 次へ

猫でもわかる量子情報(10)

量子暗号への道:盗聴者

ここまでは常に量子状態を作る人アリスと見る人ボブの2人だけの世界でした。いま第3の人物がいて、アリスとボブの間の量子状態のやり取りを盗聴しようとしているとします。アリスちゃんの恋敵である嫉妬に燃えるイヴちゃんに他なりません。イヴはスパイですから、アリスの発した矢印の量子状態を観測するとともに、証拠隠滅のため、観測した状態の矢印を何事も無かったかのようにボブに渡す訳です。

アリスが1ビットの情報を量子状態でコーディングして伝えるのに、コーディング法、つまり「上下コーディング」でやったのか、それとも「左右コーディング」でやったのか、これをボブにつたえない限り正しいデコーディングができず、ビット情報は伝わりません。そこで電話やインターネットなどで、アリスがボブにコーディング法を教える必要が生じてきます。

しかしこうやってしまうと、これは通常の「古典的通信」ですから、イヴがこれを盗聴すれば、もちろんアリスの作った状態を正しくデコードして1ビットの情報を盗み、おまけに量子状態を再現してボブに渡せば、ボブとしては正しく1ビットをデコードできますが、ボブから見てイヴの存在は見えないわけです。つまりコーディング法の選択を公開回線で知らせると量子通信は盗聴にあい得るわけです。

ことろが今仮に、アリスがコーディング法の選択を差し当たり発表しないとします。イヴが偶然アリスと同じ方向でデコーディングしない限り、アリスの送ったビットはある確率でイヴに間違って解釈されます。おまけにその時イヴとしてはその間違ったコーディング方向の状態をボブに渡す以外ありません。するとボブが受け取る状態はアリスの送った本来の状態と違うので、仮にボブのデコーディングがアリスのコーディングと偶然一致しても、ある確率でアリスの送ろうとしたビットはボブによっても間違って解釈されます。

つまりコーディング法を通信と観測の後に明かして、結果の照合をやれば間に盗聴者がいる事を見つける事が可能だという訳です。

行先: 研究のページ
copyright 2004
全卓樹ホーム 教育のページ
t.cheon & associates