電子講義:入門量子情報

全卓樹

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猫でもわかる量子情報(6)

状態のべクトル線形代数、内積と確率

この節は少しテクにカルです。ものの役に立つくらい量子情報を知りたいと、これくらいは理解できないと困りますが、数学がからきし駄目なひとは、とりあえず流し読みして結論だけはちゃんと覚えておいて下さい。

ものの量子的な有り様を記述する「状態」と言う概念は、「角度」とか「回転速度」とかいった概念とあまりにも違うので、なかなかピンときません。「状態」は数学的には「ヒルベルト空間のベクトル」で、実際に観測に関係するのはアリスの準備した「始状態」とボブが観測にも散るために用意する「終状態」の間の「内積」です。そんな難しい物の深い意味を考えるよりも、とりあえず操作的に理解してしまう方が有益そうです。手っ取り早いのは状態を高校で習ったような普通のベクトルと思うことです。いま「スピン1/2」の矢印が、上方向をからθだけ傾いたに状態をアリスが準備したとします。これをかりに|θ>とよび、ベクトルを具体的に書くと次のようになります。

    |θ>=(cos[θ/2], sin[θ/2])

本当はアリスの作る状態は縦ベクトルで書きたいのですが、ウェブ上でむづかしいので、これで良しとします。ボブがこの状態を上方向から角度ψだけ傾いた状態<ψ|として観測できないかと待ち構えてるとします。

    <ψ|=(cos[ψ/2], sin[ψ/2])

状態を準備するアリスと観測するボブとの役割を区別するためのに、同じベクトルでもアリスのは|>、ボブのは<|と言う記号を使いました。<|のほうはもとから横ベクトルです。なぜ状態がこんなベクトルで表されるのか、このベクトルが現実の「微少矢印」の何に対応するのか、という質問はとりあえずしないことにします。このベクトルが「現実」と(というのは即ち「測定量」と)関係するのは、ベクトルの内積<ψ|θ>の二乗

     |<ψ|θ>|^2 = | cos[ψ/2]cos[θ/2]+sin[ψ/2]sin[θ/2] |^2

を通じてです。つまりこの量がアリスが準備した状態|θ>をボブが<ψ|として観測する確率P(ψ|θ)を与えているのです。

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