電子講義:入門量子情報

全卓樹

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猫でもわかる量子情報(7)

「状態空間」の「上下基底」

抽象的になってきたので、例を挙げてみます。アリスが角度θの状態を準備して、ボブが同じ角度θで観測して、その方向θに見つかる確率、その逆方向θ+πに見つかる確率はそれぞれ

   |<θ|θ>|^2 = | cos2[θ/2] + sin2[θ/2] |2 = 1
   |<θ+π|θ>|2 = | sin[θ/2]cos[θ/2] - cos[θ/2]sin[θ/2] |2 = 0

です。当然ですね。いま次のような式の変形を考えます

  |θ> = (cos[θ/2], 0) + (0, sin[θ/2]) = cos[θ/2] |↑> + sin[θ/2] |↓>

ここで |↑> = (1, 0)、|↓> = (0, 1)はそれぞれ上向き状態(θ=0)、下向き状態(θ=π)を分かりやすく書いたものです。この式を絵にしてみました。
これはまさに |↑> 、|↓> の組の「重ねあわせ」(つまり定数倍したものの和)で任意の状態 |θ> を書き表わせること、すなわち|↑> 、|↓> の組が基底セットをなすことを言っているわけです。簡単な計算で確かめられますが、

      <↑|↑> = 1、<↓|↓> = 1
      <↑|↓> = 0、<↓|↑> = 0

と言う関係があります。勿論この意味は、繰り返しになりますが、アリスが矢印を上向きに置いて、ボブが「上下方向」を念頭に観測すると100%上向き、アリスが下向きに置いたらボブにも100%下向き、ということです。これを使うと

      <↑|θ> = cos[θ/2]、<↓|θ> = sin[θ/2]

ですから、つまりアリスがθだけ傾いた状態 を準備してボブが「上下基底」で測定をやると、「上向き」の状態で発見される確率がcos[θ/2]^2、下向きがsin[θ/2]^2、ということです。

上と下の二つを足して確率1ということは、それ以外に見つかりようがない、ということにもなりますから、結局状態が2つの要素のベクトルでかけた時点で、この状態は観測したとき2通りの結果しかない、ということが決まってしまいます。むしろ逆に、「2通りの状態しか見つからないような量子的なもの」だから2要素のベクトルで記述できたともいえます。
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