電子講義:入門量子情報

全卓樹

[電子講義集] [全HP]
[Index] [0] [5] [10] [15] [20] [25] [30]
前へ 次へ

猫でもわかる量子情報(14)

2つの量子矢印ともつれ状態

量子論の「観測」の奇妙さは実はこれまでの例に止まりません。場合によっては貴方の前にある量子状態が、今まで会ったことも無いどこか遠くの別人の観測の影響で瞬時にかわってしまうことだってあるのです。とても変ですね。でもひょっとしたら、ここまで読んできた貴方は、そんな事くらい予想してましたかね。

いま量子矢印が2つあったとします。隣り合わせて一方を上向きの状態、他方を下向きの状態に設置しましょう。一番目の状態を |>1 、二番目の状態を |>2 と書くことにすると、どちらが上向きかによってこれはベクトル

    |A> = |↑>1|↓>2  |B> = |↓>1|↑>2

で表現されます。この二つは異なった状態で、あきらかに <A|B>=0 で、また当然ながら <A|A> = <B|B> = 1 です。ところが前にでてきましたが、2つの状態の重ねあわせもまた量子状態なはずですから

    |S> = 1/√2 |↑>1|↓>2 + 1/√2 |↓>1|↑>2

というものだって状態と考えられます。係数の1/√2は <S|S> = 1を保証するために必要です。さてこんな質問をしてみます。二つの矢印が |S> の状態にあるとしたら、1番目の矢印はどの向きを向いてるでしょう?|A>だと上、|B>だと下で、それぞれを得る確率は

    | <A|S> |^2 = 1/2、 | <B|S> |^2 = 1/2

ですから半々の確率、と思えるかもしれませんが、よく考えると、そう簡単には言えません。正しい答えを得るには、一番目の矢印の状態 2<↑| 、2<↓| だけで内積をとってみます。

    2<↑|S> = 1/√2 |↓>1、 2<↓|S> = 1/√2 |↑>1

これは「2番目の矢印が上(下)向きに見つかったとすれば」という条件の下では「一番目はいつも下(上)向きである」という意味です。つまり1番目の状態の上向きになる確率というのは、2番目の状態が上の場合と下の場合で異なってきちゃうのです。ちなみに係数1/√2は、そもそも「2番目の矢印が上(下)」という前提条件が実現する確率1/2の平方根です。

行先: 研究のページ
copyright 2004
全卓樹ホーム 教育のページ
t.cheon & associates