「支援から協働へ」が合言葉。学校現場とともにつくる地域教育

長﨑 政浩NAGASAKI Masahiro

専門分野

英語教育、英語教師の自己成長

詳しくはこちら


 新しい未来を切り拓く力を育むために、学校教育の変革は重要な課題だ。本学・地域教育支援センターでは、地域の学校や教育機関との協働によって高度な教育実践の方法を開発するなど、これからの教育を地域とともにつくる取り組みを続けている。そこには、教育や研究の蓄積を地域に還元することで、「高知県を生涯学び続けることのできる場にしたい」という思いがある。同センター長を務める長﨑 政浩教授に、これまでの取り組みと地域教育支援のあり方について伺った。

一方通行の支援ではなく、学び合うことが大切

 教育に特化した地域貢献において、開学当初から継続して取り組んできたのが、本学の教員が学校に出向き、教育・研究の成果を子どもたちに届ける訪問教育だ。それに対して、2013年に地域教育支援センター長に着任した長﨑教授は、「これからの教育を考えるうえで重要なのは、一方的な支援ではなく、地域の学校などと連携して新しいものをつくることではないか」と問題提起し、「支援から協働へ」を合言葉に、地域とともにつくる教育支援へと舵を切った。
「例えば県内の高校から『高知工科大学の先生に講演してほしい』と依頼がきても、すぐにはお受けしません。『本学と連携したいと思ってくださるなら、一緒に学びながら汗をかきましょう』と、こちらから逆に提案するようにしています」
 こうした思いが最も形になって現れているのが、地域の学校とともに共同開発した新たな教育プログラムだ。その一つ、高知県立高知工業高校の「イノベーションKT」は、同校の先生と長﨑教授らが議論しながらつくり上げた探究型のプログラム。発表や集団活動を重視し、ものづくりによる探究での人材の育成をめざしている。日常生活の中で感じた不満や不便さから、製品の改良や新たなものの開発をテーマに、グループで討論を重ねて構想されたアイデアを元に製作活動を行うという内容だ。従来型の工学教育に限界を感じていた同校の「自由な発想や創意工夫ができる生徒を育てたい」という思いを受けて、実現した。
「最終的には学校が自分の足で歩まないといけません。本学はそこに至るまでのサポートをするというスタンスです。一緒に新しいものをつくる過程で、従来の学校教育では実現できなかった様々なことを提案し、先生方を刺激しています」

地域教育支援を学生の学びにつなげたい

 これ以外にも、学校教育の高度化支援として、小中高校の教育の質を高めるために大学ができることをいくつも提案している。本学が主催する「高知県高等学校数学コンクール」への高難度な問題の提供を始め、「高知県高校英語弁論大会」では、長﨑教授が「『即興部門』を設けてはどうか」と提案したことで実現し、特に優れた英語即興スピーチを披露した生徒に「高知工科大学長賞」を授与している。

43c22e30564d17d6fd9d58792a71901c-thumb-350xauto-22431.jpg
(高知県高校英語弁論大会での発表風景)

「私も長く高校の教員を務めたのでよくわかるのですが、学校の先生というのは保守的になりがちなんです。そこを、我々が"そそのかし"て、普段は挑戦することのないような難題をあえて提示することで、子どもたちの可能性を引き出したい。そんな思いで取り組んでいます」
 また、教員自身の主体的な学びの場を設けるなど、様々な角度から地域の教育を支えている。
 さらに今年度から、地域教育支援を学生の学びにつなげる新たな取り組みとして「コミュニティサービスラーニング( CSL )」をスタートした。ボランティア活動を「地域をフィールドにした実践的な学びの場」と位置づけ、その活動を支援するための窓口を設置。そこに活動を希望する学生や学生団体が登録することで、外部からの依頼に対して専門や得意分野に合わせたスムーズなマッチングにつなげる。「学生が専門性を生かして地域に貢献することで、学びや成長につなげてほしいというのがCSLの発想です」と話す。
現在は、本学からほど近い高知県立山田高等学校にあるグローバル探究科の「探究リテラシー」 という科目に、CSLに登録している学生がサポーターとして参加し、高校生とコミュニケーションをとりながら、助言を行っている。
「人に教えることは、ただ受け身で話を聞くよりもはるかに大きな学びになります。CSLはまだスタートしたばかりですが、非常に可能性のある取り組みです。参加する学生を増やし、発展させていくことが目下の目標です」

笘・・IMG_8011(螻ア逕ー鬮俶。謗「豎ゅΜ繝・Λ繧キ繝シCLS).jpg
(山田高等学校でのサポーター活動の様子)

有志が集まる自由な場が、地域の教育を底上げ

 高知工科大学が位置する香美市は人口約26,000人の小規模な地方都市でありながら、保育園・幼稚園、小中高校、特別支援学校、大学とすべての校種がそろう稀有な町。その特徴を生かして、全校種をつなげた教育づくりを進めようと、2015年、香美市教育委員会、山田高等学校、本学が中心となって「香美教育コラボレーション会議」を立ち上げた。月に一度、有志が集まり、地域の教育について自由に意見を交わしてきたことは、子どもたちが地域でやりたいことを考え、つくり上げる「香美市子ども会議」や、小中高校生と本学の学生が一堂に会し、課外活動や研究内容の成果を発表する「香美教育コラボ・プレゼン・フェア」など、子どもたちの探究心を育む取り組みにつながっている。
 この会に立ち上げから参画し、全体のまとめ役を担ってきた長﨑教授は、香美市がめざす「探究の町」をともにつくってきた立役者の一人。こうした活動を通して、地域で本学の果たす役割の大きさを肌で感じている。
「地域の方々は、本学に大きな期待や愛着を持ってくれています。『難題にぶつかっても、工科大に頼めばなんとかしてくれるかもしれない』という思いに応えるためにも、地域教育支援の意義や価値を学内に広く伝え、前向きに関わってくださる先生方を増やしていきたいですね」
 「支援から協働へ」というビジョンが形になってきた今、一つひとつの取り組みを豊かに育みながら、教育におけるイノベーションを実現していく。

パートナーからのコメント
_X0A2994.jpg
香美市教育委員会 教育長 時久 惠子さん

高知工科大学を核にした文化度の高い町をつくることが、教育長に着任した当初からの願いでした。まずは子どもたちが高知工科大学に足を運ぶ機会をつくろうと、「子ども向けのイベントに講堂をお借りしたい」とお願いしに伺ったところ、「教育で地域をつなげていくことを本格的にやりませんか」と逆提案してくださり、それをきっかけに香美教育コラボレーション会議が始まりました。この会で長﨑先生は統括役として、常に課題をキャッチして解決策を提示してくださっています。大学のある町だからこそできることを考え、地域が一体となった取り組みを続けたことで、子どもたちの学力も上がり、より良い教育の形が実現しています。

_X0A3019.jpg
高知県立山田高等学校 校長 正木 章彦さん

有志が集まる香美教育コラボレーション会議は、気軽に意見交換ができるだけでなく、その意見をもとに各自がスピーディーに行動できるところが、公の会にはないメリットです。様々なアイデアを生み出す貴重な場になっています。今、本校のグローバル探究科の生徒は、環境理工学群の新田 紀子先生とマイクロプラスチックによる環境汚染に関する共同研究に取り組んでいます。これも長﨑先生のご紹介があったからこそ。高知工科大学なくして山田高校は語れないくらい、先生方や学生さんにはお世話になっています。探究心を持った子どもたちが高知工科大学に進学し、研究成果を地元に残してもらうことが我々の願いです。


取材日:2020年10月