~人も資源も枯れない地域づくり~「枯れない油田プロジェクト」とは?

永野 正展NAGANO, Masanobu

専門分野

プロジェクトマネジメント(企業・建設・環境)


高知県の西に位置する宿毛市平田町に、2014年10月「宿毛バイオマス事業所」が完成した。高知工科大学 永野 正展特任教授の研究チームを中心に設立された、大学発のベンチャー企業「株式会社グリーン・エネルギー研究所」が率いる産学連携事業がいま、少子高齢化の進む高知の未来に光を照らし始めている。


再生可能なバイオマス資源を活用した持続可能な産業を

 始まりは2006年、県内の若手農業者から寄せられた相談だった。高騰し続ける燃料費、環境問題などの解決に向け、永野特任教授はバイオマスエネルギーに関する調査・研究を開始。「当時の調査で、高知県の暮らしを支える第一次産業ウエイトが全体の4%に満たない規模だと分かったんです。地方にとって少子高齢化の影響は予想以上に大きなインパクトを与えている」と話す。
 今こそ、大学として地域に研究成果を還元して行く時だと考えたが、全国で行われている事業のコピーや、一時的でいずれ終わる事業計画では意味がない。 「20年、30年先を見据え、地域で生きてきた機能をどう維持して行くかが重要だった」と力を込める。
 その中で見つけたのは、約60万haに及ぶ高知県の山林にある"眠れるお宝" だ。「蓄積量でいうと1億8000万m³あり、木材生産量からすれば300年分以上の資源が存在している。また、この山林での年間成長量は重油換算で150万klに相当するんですよ」
「雑木林は昔から里山として伐採―萌芽―成長―伐採の自然サイクルで、ひと社会の大事なパートナーだったし、人工林から切り出された用材以外の枝葉などの未利用材量は膨大なエネルギー資源に見えた-」 "枯れない油田"プロジェクトが動き出した瞬間だった。

再生可能エネルギー先進国に学ぶ地産地消グリーン・エネルギー化への挑戦

 海外視察で訪れたオーストリアのギュッシング村は、めざすべき理想のモデルとなった。1990年代から再生可能エネルギーの地産地消政策に転換して、新しい企業誘致や雇用創出に成功。エネルギーコストとして外に支払っていた構図が逆転して、外部への売電収入が村を大きく進展させた。その結果として地方税収入は15年間で3倍に上がった。同時にCO₂の削減も95%カットに至ったという。「税収は地方の持続と発展に不可欠」との認識を新たに、高知での挑戦が始まった。
 このプロジェクトは構想段階から3年で加温ハウス農業用の木質バイオマス燃焼機の開発、実用化など順調な滑り出しだったが、宿毛でのバイオマス発電・燃料製造プロジェクトは試練の連続であった。大きなハードルが二つあって、一つは資金調達での金融機関との交渉、もう一つは原料調達だった。資金調達では想定可能なすべてのリスクを洗い出し、そのリスク解決を具体的に示さなければならなかった。そのリスク認識の重要性を、永野特任教授は自らの病気で知ることとなる。
「脳手術前の検査で、医師たちがあらゆるリスクに備えた何重にも及ぶ安全確保への手順とそれに取り組む姿はまさに工学だった」と笑う。病すら糧にしてひたすら前に進むその原動力は、「今こそ自分たちでできることを」という想い一つだったと語る。

心臓がコトコト動く、命あるプロジェクトを高知から全国へ

 2015年1月、宿毛バイオマスエネルギー発電所は運転を開始した。「原料の木材がなかなか集まらず、職員は近隣だけでなく隣の県まで調達に駆けずり回ったり、新聞に折り込みチラシをいれたりして・・・。本来未利用材はお金にならない部位ですから、前例を構築するのが大変でした。新しい道筋ができるには信用が絶対で、ひとが動いている姿や、つながりができた人々の口コミなどで広がって行く地域の流れには感動と感謝で胸が詰まりましたし、発電炉に初めて火が入った時は私だけなく職員みんな涙があふれて止まらなかったですよ」とほほ笑む。
 宿毛バイオマス発電所は当初の計画発電量までほぼ達して、宿毛市全戸の使用エネルギーをまかなうまでの電力供給を生み出すようになった。現在は、新たな山師の育成にも力を注いでいるという。永野特任教授の目は、常に現場と未来を見つめているのだ。
 アカデミックな視点で、地域に命を吹き込む、本気の産学連携に取り組んだこのプロジェクトは全国から注目を集め、静かな波及効果を生み出している。「例えば数十年後、高知みたいな地方にどれだけ人口が残っているのか。今から、世界で一番住みたくなるような地域づくりをデザインすればいいと思うんです。心臓がコトコト動く、生きたプロジェクトを通じて地域の役に立ちたい」
 そう展望を語ってくれた永野特任教授は「先日、地元の人に"仕事場ができたきに孫が帰ってくるようになったよ。ありがとう! "って言われたんですよ」とにっこり笑った。

Green Energy Laboratory 株式会社 グリーン・エネルギー研究所

株式会社グリーン・エネルギー研究所は、「枯渇しないエネルギー」である森林資源を活用することにより、再生可能エネルギーの普及と地域経済の再生を通じて、地域の皆様とともに地域社会の持続的発展に向けて歩んでいきたいと考えています。

森林資源を柱とした持続可能な地域社会モデル

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■木質ペレット製造事業所

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木質ペレット製造設備

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木材を細かくした「おが粉」を接着剤などを一切使用せず乾燥と圧縮で固めた固形燃料。熱量が高く、燃焼効率にも優れています。同じ熱量であれば体積が小さくなるので、輸送や保管の面でも優れており、輸送等で消費されるエネルギーの削減にも有効なエコ燃料として注目されています。

■木質バイオマス発電事業
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業者のみならず一般の方々からも未利用材や一般木材の持ち込みがあり、重量ベースで購入しています。

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(1枚目:められた木材を破砕機に)(2枚目:貯蔵ヤード)

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(1枚目:コンベアで運ばれ分配されボイラー)(2枚目:1日280~300tほど燃やす)

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(1枚目:蒸気タービン(右)と発電機(左))(2枚目:発電棟中央管理室)

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(1枚目:排ガス対策も万全)

安全なエネルギーの供給を軸に地域貢献をめざす。

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 森林などの再生可能な資源をもとに、エネルギー供給の事業を展開する中で、例えば、燃料となる木材の収集を新しい事業として起こした企業が出てきたり、地元からの雇用者が30名を超えたりと、地元の活性化や発展に力添えできるようになってきました。これからも永続的に事業を継続することで、次世代以降の地域の発展に貢献していきたいと思います。(宿毛事業本部 専務取締役 事業本部長 永野正朗 さん)



取材日:2018年4月