本学発の超微粒子「MARIMO」の大量合成法を確立。ニーズが高まる「高機能歯科用接着剤」として初の商品化を実現

小廣 和哉KOBIRO Kazuya

専門分野

有機合成化学 、超分子化学、ナノ粒子化学

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 国内外の企業から応用への問い合わせが相次いでいる、本学発の超極小粒子「MARIMO」。ナノレベルの粒子が凝集した球状多孔体で、表面に微細な凹凸が無数にあることが特徴だ。極めて大きな表面積をもつことから幅広い用途への活用が期待されている。
 2012年、小廣 和哉教授の研究チームが「MARIMO」を超高速で合成できる画期的な手法を開発。その後、研磨剤メーカーの宇治電化学工業株式会社(高知市)と共同研究をスタートし、量産技術を確立した。
 MARIMOの可能性に目をつけたのが、高知県香南市に開発・製造拠点を置く歯科材料メーカーのYAMAKIN株式会社(大阪市)だ。MARIMOを活用して高機能な歯科用接着剤を開発し、MARIMOの商品化第一号として2020年6月に発売予定である。県内の産学官連携が実を結んだ同プロジェクトについてMARIMOの生みの親である小廣教授に話を聞いた。

MARIMOによって接着強度が飛躍的に向上

 私たちの口内環境が過酷を極めていることは意外と知られていない。熱々のおでんやみそ汁は約70℃の高温、かき氷やアイスは0℃近くの低温と日常的に急激な温度変化にさらされ、咀嚼や歯ぎしりは歯をすりつぶす力がかかり、口内には細菌数も非常に多い。こうした厳しい口内環境でも、人工歯を強固に接着できる材料が求められている。また技術の進展によって虫歯治療に用いる樹脂製の被せものの強度が上がった分、接着が難しくなり、従来以上に高い接着力をもつ歯科用接着剤のニーズが高まっていた。
 YAMAKIN株式会社は従来の接着剤に含まれるシリカ粒子を、金属酸化物の一種であるジルコニアMARIMOに置き換えることで、MARIMOと樹脂材の緊密な複合化に成功。接着強度を65%向上させた新たな接着剤を開発した。従来品は複数のペーストを混ぜ合わせる作業が必要だが、新接着剤は一種類で同等以上の接着力をもつことから歯科医療の現場での手間を減らすことにもつながる。これは「KZR - CADマリモセメントLC」として商品化され、2020年6月に発売予定である。「本学発の研究シーズを生かして、県内で量産化、商品化を実現できたのは非常に大きいことだと思っています。こうして世の中の役に立つ商品が誕生したのも、両社の力があってこそです」

【YAMAKIN提供】Flying fish掲載写真.jpg
(新接着剤を使用している様子)

実用化に不可欠な大量生産技術を確立

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 化粧品、薬物・遺伝子輸送、太陽電池など、多岐にわたる分野で応用が期待されている金属酸化物ナノ粒子の球状多孔質構造体であるMARIMO。そもそもどのようにして開発・量産に至ったのだろうか。はじまりは2011年6月、小廣教授らの研究チームが多孔質の二酸化チタンナノ粒子をわずか10分足らずで合成できる簡単な手法を発見したことだった。従来の合成方法では複雑な操作と長時間の反応を必要としていたが、新たな方法はメタノールに原料のチタンイソプロポキシドと補助剤のカルボン酸を加え、約300~400℃に加熱するだけ。得られたナノ粒子はマリモによく似た形をしていることから「MARIMO( Mesoporously Architected Roundly Integrated Metal Oxide)」と名付け、「MARIMO PROJECT」として応用研究を進めてきた。しかし、当時実験室で一度に生産できる量はせいぜい20mgと耳かき一杯にも満たない程度。実用化には大量生産が不可欠であり、小廣教授らは量産化という大きな壁にぶつかっていた。
 転機が訪れたのは2012年6月。高知の産学官民コミュニティ「土佐まるごと社中」の会合の場で、本学職員が宇治電化学工業株式会社 社長の西山 彰一氏にMARIMOを紹介したことをきっかけにマッチングが実現。2013年、高知県産学官連携産業創出研究推進事業の支援を受け大量合成技術の確立に向けた共同研究をスタートした。その後、大谷 政孝助手(現 准教授)がチームに加わり研究が一気に加速した。現在では多孔質二酸化チタンナノ粒子であれば、1日あたり約1kgの生産が可能になり、安定的な生産が現実のものとなった。
 さらには、二酸化チタンだけでなく、様々な金属でMARIMOを量産できるようになり、複数の金属をナノレベルで組み合わせる合成にも成功した。
「宇治電化学さんは、距離が近いのでコミュニケーションが取りやすい。そのことが成果につながりました。本当に頼りにしてます」

連携を強化し、高知から新たなイノベーションを創出

 この成果を受けて、本学は宇治電化学工業株式会社との連携をさらに強め、新たな機能性材料を生み出すことで新規事業や雇用の創出、研究者や学生の人材育成につなげようと、2019年3月に包括連携協定を締結。本学にとって金融機関を除く県内企業と協定を結ぶのは初の事例となった。
 現在、MARIMOの応用は着実に進んでおり、商品化に向けて県内外の企業とともに検討を進めているところだという。「あと数年すれば、皆さんの目に触れるような商品がたくさんできてくると思います」と期待を込める。 
 MARIMOの高いポテンシャルは、有機化学ひと筋だった小廣教授の人生をも変化させてしまったようだ。
「まさか自分が商品をつくったり売ったりするような世界に足を踏み入れるとは思ってもみませんでした。わからんもんですね、人生。たまたま見つけてしまったんですが、開発した者の責任としてどうにかせんとしかたないでしょう」
 小廣教授はそう言って笑いながらも、「残りの研究人生をMARIMOにかける」という強い決意をのぞかせた。

パートナー企業からのコメント 宇治電化学工業株式会社 高知市桟橋通5-7-34

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取締役 製造部部長 開発部部長 久武 由典さん

当初は、社長に「MARIMOの詳しい話を聞いてきてほしい」と言われ、まずは話だけでも聞いてみようかという受け身のスタンスでした。しかし先生方にお話を伺うと、大きなポテンシャルを秘めたナノ粒子であることがわかり、なんとか形にしたいという思いが強くなりました。無事に大量生産技術を確立できた後も、小廣教授を筆頭に高知工科大学の先生方は非常に協力的で、応用に向けた企業との交渉においてもトップセールスマン的な役割を果たしてくださっています。今後も末長く連携を続けていきたいです。

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開発部 機能性粒子Gr. 主任研究員 岡添 智宏さん

MARIMOを紹介いただいた当時、弊社ではマイクロメートルよりさらに細かいナノレベルの微粒子の製造技術を確立し、新分野に進出することを模索していた時期でした。タイミングよく共同研究が実現できたことをありがたく思っています。小廣教授は提案先の企業との打ち合わせにも快く同行してくださるなどフットワークが軽く、そのことがスピーディーな成果につながっていると感じます。計り知れないMARIMOの可能性を、我が社の発展はもとより、高知の活性化につなげていきたいです。

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取材日:2020年2月