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本学発の超微粒子「MARIMO」から始まる 材料科学のイノベーション
- 本学から生まれたMARIMOとは、極小の金属酸化物単結晶一次粒子が無数に集合した球状多孔質ナノ粒子のこと。表面に微細な凹凸があり、表面積が極めて大きいことから、多用途への活用が期待されている。2011年、小廣和哉教授らが、MARIMOを超高速で合成できる手法を開発し、宇治電化学工業株式会社(高知市)との共同研究によって、量産技術を確立。2020年6月には、MARIMOの商品化第一号として、YAMAKIN株式会社(大阪市)から高機能な歯科用接着剤が発売されるなど、多分野で応用研究を進めている。
実用化に不可欠な大量生産技術を確立
「MARIMO」のはじまりは、2011年6月。小廣教授らの研究チームが、光触媒として最もよく利用されている二酸化チタンの多孔質ナノ粒子を、わずか10分足らずで合成できる画期的な手法を見出したことだった。従来の合成方法では複雑な操作が必要で長時間の反応を要していたが、新たな方法は、メタノールに原料のチタンイソプロポキシドと補助剤のカルボン酸を加え、約300~400℃に加熱するだけ。得られたナノ粒子はマリモによく似た形をしていることから「MARIMO(Mesoporously Architected Roundly Integrated Metal Oxide)」と名付け、「MARIMO PROJECT」として応用研究を進めてきた。「私たちがつくったMARIMOと従来の多孔質球状集合体との違いは、表面にある凸凹の細かさ。ナノレベルの粒子が結集した球状の構造体で、表面の凸凹にいろんなものを保持することができるので、幅広い用途に使えるのは明らかです」
しかし、当時実験室で一度に生産できる量はせいぜい20mg程度。実用化には大量生産が不可欠であり、量産化という大きな壁にぶつかっていた。そこに、素材としての可能性に着目した研磨剤メーカーの宇治電化学工業株式会社が名乗りを上げ、2013年、大量合成技術の確立に向けた共同研究がスタート。二酸化チタンのMARIMOであれば、1日あたり約1kgの生産が可能になった。今では、シリカ、チタニア、ジルコニアをはじめとする多くの金属酸化物でMARIMOを量産できるようになり、複数の金属酸化物をナノレベルで組み合わせる合成にも成功。 MARIMOの世界は人々の想像の枠を超えて、大きく広がりつつある。
MARIMOを活用した高機能歯科用接着剤を商品化
化粧品、薬物・遺伝子送達、断熱材料、太陽電池など、広範な分野で応用が期待され、国内外から問い合わせが相次ぐMARIMO。その可能性にいち早く目をつけたのが、歯科材料メーカーのYAMAKIN株式会社だ。高い接着強度を持つ歯科用接着剤のニーズが高まる中、従来品に含まれるシリカ粒子を、表面活性が高いジルコニアのMARIMOに置き換えることで、MARIMOと樹脂材の緊密な複合化に成功。高機能な歯科用接着剤「KZR-CAD マリモセメントLC」として、2020年6月に発売した。MARIMOの技術を利用した初の商品となる。
ジルコニアのMARIMOを配合することで、接着強度と光透過性が向上し、「光重合型でも高い接着強度を実現した」ところがポイントだ。
「MARIMOは一次粒子が極小なので、光の錯乱が抑制でき、一定の光透過性があります。光透過性が増すことで、接着界面まで光が届き、接着剤が光重合でしっかりと硬化するのです」
従来品は、複数の薬剤を混ぜ合わせる化学重合が必要だが、同商品は、光重合のみで短時間で硬化し、一種類で同等以上の接着強度を持つ。そのため、現場での作業工程を短縮できるなど、作業の効率化の面でもメリットは大きい。
さらに、MARIMOの実用展開の一つとして、小廣教授らは酸化チタンのMARIMOにおける表面の凹凸構造を触媒担体に応用。表面の凹凸に金属ナノ粒子触媒を埋め込むことで優れた高温耐性を発揮させることに成功した。これは「物質を挟み込み、強固に保持できる」というMARIMOの表面凹凸の特性を生かしたものだ。
「通常は熱を与えると金属ナノ粒子が熱振動でくっつき、肥大化してしまいますが、MARIMOは金属ナノ粒子を微細な凹凸に埋め込むことができるので、高温でも粒子が動きにくく長持ちするんです」
また、酸化チタンのMARIMOをリチウムイオンバッテリーに応用したところ、従来品よりも大幅な性能向上が確認された。
「電気を蓄えられる容量が大幅にアップしたほか、高速な放充電にも耐えることができ、わずか6分間に20回も放充電できるんです」
そのほか、ごく微量のMARIMOを、性能強化のために添加する架橋材(フィラー)としてポリマーに混ぜるだけで、高分子との絡み合いが生じ、ポリマーの強度が格段に向上することも実証した。
「いろんなポリマーに混ぜ込んでもらうことで、MARIMOが本来持っている高い強度や透明性、多孔質などの性能が、多分野で発揮できると期待しています」
MARIMOを用いることで、化学反応が格段に効率よく進む。これによって、エネルギー効率の飛躍的な向上を実現させることも、夢物語ではなさそうだ。 「多孔質であり、表面積が非常に大きいという特徴を生かせば、多くの物質を蓄え、放出でき、物質を凹凸表面に引っ掛けて固定することもできます。これをナノレベルで制御できるところにMARIMOの可能性があります。最終的には、エネルギーや環境という地球規模の問題に、MARIMOの触媒機能を生かしていきたいですね」
現在、MARIMOの新たな商品化に向けて、さまざまな企業と検討を進めている。「あと数年すれば、みなさんの目に触れるような商品がたくさんできてくると思います」と期待を込めた。
掲載日:2020年10月