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- ありふれた金属でつくる「原子のレール」!-電子デバイスの微細化は新次元へ-
[研究成果のポイント]
●ありふれた金属である鉄とマンガンの組み合わせで、原子が規則正しく並んだ縞模様(原子のレール)が自然に出来上がる現象(自己組織化)を世界で初めて確認。
●この現象が、異なる磁性を持つ物体(強磁性体と反強磁性体(*1))が接する面で引き起こされる「磁気的なせめぎ合い」によって生まれることを、実験と理論計算の両面から解明。
●作製した縞模様は室温でも安定しており、表面の欠陥にも強いことから、将来、機能性分子を並べる精密な鋳型や次世代デバイスの極微細配線など、ナノテクノロジーを原子レベルで加速させる新たな基盤技術となることが期待。
高知工科大学の稲見 栄一教授、千葉大学大学院のピーター・クリューガー教授、同大学院修了の林 宏樹氏、同大学院の山田 豊和准教授らの研究グループは、鉄(強磁性体)の表面上で、マンガン(反強磁性体)原子が自ら整列し、原子レベルで極めて均一な1次元の縞模様を形成することを世界で初めて発見しました。この現象は、鉄とマンガンが持つ磁石としての性質の違いから生じるエネルギー的な「せめぎ合い(磁気フラストレーション(*2))」により、マンガン原子が上下にわずかに変位することで、安定した縞模様を形づくることによると突き止めました。
a 実験の模式図
b STMによる観察像。下地である鉄の部分には縞模様はなく、その上に作成したマンガン膜の部分にだけ、鮮やかな電子の縞模様が形成されているのが確認できます。
本成果は、物質の根源的な性質を活かして原子構造を自在に制御する新たな道を拓くものです。これにより、原子数個の幅しかもたない究極的に微細な電子回路や、処理速度が速く消費電力の低いデバイスなど、従来の技術では作製が困難だった新機能材料の開発が大きく加速すると期待されます。
この研究成果は、国際的な科学雑誌「Small」(Wiley社)に、2025年9月4日付のオンライン速報版(Early View)として掲載されました。
[プレスリリース]ありふれた金属でつくる「原子のレール」!-電子デバイスの微細化は新次元へ-
研究者コメント
「今回発見した原子のレールは、磁性制御によるナノテクノロジーの実用化という可能性だけでなく、原子磁石同士が引き起こす現象そのものにも面白さがあります。今後は、そういった特異な現象を探究する基礎科学と、次世代デバイス創出への応用視点を両輪に、研究を加速させていきたいと考えています」
用語解説
*1)強磁性体・反強磁性体
物質を構成する原子は、一つ一つが磁石(スピン)の性質を持つ。鉄に代表される「強磁性体」は、全ての原子磁石が同じ方向を向いて互いに強め合い、全体として強力な磁石となる物質。一方、マンガンなどにみられる「反強磁性体」は、隣り合う原子磁石が互いに逆方向を向いて打ち消し合うため、全体としては磁石の性質を示さない。
*2)磁気フラストレーション
物質内で原子が持つ磁石の性質(スピン)が、互いに打ち消し合ったり反発し合ったりして、最も安定な配置に落ち着くことができず、エネルギー的に不安定な「せめぎ合い」の状態にあること。
掲載論文
題 名: Emergence of Robust 1D Atomic and Electronic Textures in Mn Ultrathin Films via Antiferromagnet-Ferromagnet Interfaces(和訳:反強磁性体―強磁性体界面を介したマンガン極薄膜における頑健な1次元原子・電子構造の出現)
著 者: Eiichi Inami, Peter Krüger, Hiroki Hayashi, and Toyo Kazu Yamada
掲載誌: Small
掲載日: 2025年9月4日 (オンライン速報版)
D O I : https://doi.org/10.1002/smll.202504791
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