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建設現場の資機材搬送を完全自動化へ「無人搬送ロボット」を企業と共同開発中
- 王碩玉教授は、前田建設工業株式会社、有限会社サット・システムズと共同で、建設現場における資機材搬送を自動化するロボットを開発し、形になりつつある。
完成すれば、日々環境が変わる煩雑な建設現場で、さまざまな障害物を回避しながら複雑な経路を自動で走るなど、すべてをロボット自身が判断して資機材を搬送できるようになるという。「建設業界の自動搬送のスタンダードをめざしていきたい」と言う王教授に、開発の背景やロボットの仕組みについて話を聞いた。
日々変化する建設現場での自動搬送という難題に挑む
建設現場では、就業者の減少による人手不足を受け、生産性の向上が課題となっている。中でも、重労働かつ単純作業である資機材搬送作業の自動化は、ニーズが高く、各社で開発が進められている。建設現場で資機材を運ぶ時間は、内装工事全体の15~20%を占めるうえ、現場の技術者の多くは、体力を要する資機材搬送作業を苦痛に感じているという。
「自動搬送ロボットは、工場や物流倉庫などではすでに実用化されています。一方、建設現場では、工事の進捗に合わせて作業環境が日々変化することに加え、資機材の荷姿が多様であるなど、特有の課題があり、実用化が遅れています。今回開発を行うにあたって初めて建設現場に足を運びましたが、屋内環境が整っていない状況でロボットに資機材を運ばせることは、相当な難題であると実感しました」
王教授らが開発中の自動搬送ロボットは、建設現場の屋内搬送が対象。2019年2月15日、前田建設工業が新たに開設した技術研究所「ICI総合センター ICIラボ」(茨城県取手市)の開所式で試作品が公開され、搬送作業のデモンストレーションを行った。
その一連の流れはこうだ。まず、1階で資機材を荷取りし、障害物を避けながらエレベーターの前まで走行。ドアの幅を測って旋回し、エレベーターに乗り込み、目的階に到着すると指定の場所に資機材を荷置きした。さらに元の経路を通って、1階の資機材置き場に戻り、次の搬送作業開始に向けて待機した。
日々変わる建設現場のフロアを自己認識し、新たな障害物も避けて搬送することが最大の特徴で、ロボットとエレベーターは互いに通信しながら連携して動作する。そのパワーも相当なもので、1トンの石膏ボードを安全に運ぶには3人が必要だが、開発中のロボットは、1人によるリモコン操作で軽く運ぶことができる。
建設現場での「完全自動化」に、世界で初めて成功したい
資機材の搬送方法としては、従来のリフト式や牽引式などではなく、新たに「掴んで抱き込む形」を考案。従来の方法に比べて、安定的な移動が可能なだけでなく、制御しやすいことも特徴だ。
「例えば、重心が中央にない不安定なものでも、掴んで抱き込めば安定して搬送できます。この方法を使えば、一見弱々しいロボットが、1トンの石膏ボードを軽々運べるのです。これまで世の中にはなかった発想で、ゆくゆくはこれがスタンダードになるかもしれません」
現段階では、1トン平台車と資機材などを積載するキャスター付きメッシュパレットの搬送を対象としているが、今後は長尺物や重量物の搬送も実現できるよう改良を重ねていく。また、現場の作業員ができるだけロボットを感覚的に操作できるような、ユーザインターフェイスの開発も今後の課題だ。
「現状では8割方完成と言えますが、我々がさらにめざしているのは今年度中に完全自動化することをめざしています」
完全自動化の実現によって、内装工事における作業効率を約20%向上できるという。
共同開発をスタートしたのは2018年6月。それから約8カ月という短期間で開発の道筋が見え、一つの形になった。「スピーディーに開発が進められたのは、三者それぞれの強みを効率よく生かせたからこそ」と言う。「まず、建設現場のニーズを熟知した前田建設工業さんが、現場の課題を素早く整理してくれたおかげで、本当に現場で役立つロボットの開発につながりました。また、ロボット機構の設計を担うサット・システムズさんと知能化アルゴリズムを担当する本学は、20年来の付き合いで、これまで数々のロボットを共同開発してきました。ロボットに関する技術と知識を蓄積していただけでなく、すでに信頼関係があったことも大きかったですね」
現在開発中の自動搬送ロボットは、すべて高知県内で製造しているが、「実用化できれば、ロボットの量産も県内で実現したい」と夢は広がっている。
今年の6月からは都内の建設現場に自動搬送ロボットを試験的に導入し、実証実験を行っているところだ。
「すでに多くの課題が見えてきたので、日々改良を繰り返しながら、今年度の目標である完全自動化をクリアしたい。そして、"建設現場での自動搬送の完全自動化に初めて成功しました"と、高らかに宣言したいですね」
デモンストレーション
2019年2月15日、前田建設工業の技術研究所「ICI総合センター ICIラボ」(茨城県取手市)で、開発中の自動搬送ロボットの試作品が公開され、搬送作業のデモンストレーションが行われた。作業の流れは下記の通り。
①1階で資機材を荷取りし、障害物を避けながらエレベーターの前まで走行
②ドアの幅を測って旋回し、エレベーターに乗り込み、目的階に到着する
③指定の場所に資機材を荷置き
④元の経路を通って、1階資機材置き場に戻り、次の搬送作業に向けて待機
(1枚目:籠台車を掴み、エレベーターの手前まで走行)(2枚目:ドアの幅を測り旋回、"乗った"を判断し上昇)
(1枚目:所定の場所に籠台車を降ろし、エレベーターに乗る)(2枚目:一階でエレベーターを出て、資機材サイズ等の身体性を配慮し、障害物を回避しながら、元の場所に戻る)
<包括的連携協定について>革新的アイデアや技術のスピーディーな社会実装へ、前田建設工業と「包括的連携協定」を締結
2019年1月30日、本学では初となる企業との「包括的連携協定」を前田建設工業と締結した。本協定は、共同研究開発はもとより、教育・人材育成や組織間の交流を通じて、建築・インフラ産業分野における新たな知見や新産業の創出、科学技術の振興・発展に寄与することを目的としたもの。両者が保有するアイデアや技術を迅速に社会実装することをめざして互いにサポートする体制を構築する。
本協定に基づき、同社が2019年2月に茨城県取手市に開設した「ICI総合センター」と本学香美キャンパスを専用テレビ会議システムで結び、24時間いつでも学術指導や情報交換、会議ができる仕組みを整えた。
また、本学の学生を対象に、社会課題の解決に向けた革新的なアイデア提案を募集し、優秀なアイデアについては同社が実現を支援する「ICI Innovation Awards@KUT」を実施する。今年度は応募した22チームのうち10チームが選定された。各チームには研究開発費や、同社の専門的な技術支援が受けられる。 「イノベーションアワードが始まることは、本学にとって大きな動きだと思います。やる気のある学生たちが、学内のあちこちでディスカッションをしていたり、実験をしていたり̶。本学全体に、さらなる活気が生まれることを期待しています」(王教授)
取材日:2019年7月