最新の科学技術を駆使して、豊かなコミュニティの構築をめざす里山プロジェクト

高木 方隆TAKAGI Masataka

専門分野

国土情報処理工学

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本学・香美キャンパスのほど近くに位置する、過疎高齢化が進む香美市土佐山田町佐岡地区。自然豊かなこの地域をフィールドに、幅広い分野の研究者が集まり、2014年新たなプロジェクトが始動した。それが、現代の科学技術を中山間地域に実装し、豊かなコミュニティの構築をめざす「里山プロジェクト」だ。地域連携機構、システム工学群、環境理工学群、情報学群などから多くの研究者が参画している同プロジェクトの進捗状況や展望について、発起人である高木 方隆教授に話をうかがった。

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多様な研究者が集まることで、里山の未来が拓ける

 国土情報処理工学を専門とする高木教授は、研究活動を通して多様な分野の研究者たちと中山間地域に通ううちに、「それぞれの研究者が持つ知見が、まとまった形で社会に還元されていないことが気になり始めた」と言う。
「山を歩いていても、見渡す限り管理されていない人工林で覆われ、耕作放棄地も増えている。地域の活性化だけでなく、幅広い知見を持って、"地域の自然を利活用する"ことを本気で考える時期に来ているんじゃないかと感じました」 
 そこで佐岡地区にある古民家を拠点に、歴史、防災、古民家再生、道路整備などのグループに分かれ、研究者と学生たちが各専門性を生かしたテーマで研究活動をスタート。本学の保有する科学技術を駆使して、里山を維持管理する仕組みをつくることが長期的な展望だ。
「あらゆる分野の研究者が同じフィールドで大きな課題に取り組むことで、さまざまな知見がその地域に集積します。それこそ、新しい価値の創出につながると思うんです」
 この活動に参加できる学生は、4年生以上という条件がある。それは「しっかりと専門性を身につけた状態で関わってほしい」という高木教授の思いからだ。「学生たちにとっては、自分が学んだことをフィールドで生かすというのが大きなテーマになります。それが他の地域活動との違いです」

新しい学問「里山工学」を構築し、知識や技術をあらゆる地域で生かしたい

 「里山プロジェクト」における高木教授自身の研究テーマは、佐岡地区の自然環境情報や歴史民俗情報のデータベースを整備し、地域環境の特徴を浮き彫りにすることで、"究極の土地利用計画"を作成すること。
「災害を防ぐことよりも、ありのままの自然を受け入れることを大切にしたいんです。防災のためにお金をかけて土木施設をつくるのではなく、災害によって更地になったとしても、そこからまた新たな地盤を築いていけばいい。究極の防災は里山再生にあるのではないかと考えています」
 このプロジェクトが進展すれば、佐岡地区は優れた防災力を獲得し、より安心して住み続けられる場所となるはずだ。
「日射量や降水量が多く、農作物の栽培に適した地域だからこそ、災害時でも最低限の備蓄をしておけば自給自足でしのげるという環境をつくりたい。ゆくゆくは高知を『里山先進県』として広めていきたいですね」 
 そして、将来的には「里山工学という学問を構築したい」と夢は広がっている。「里山のすばらしさがまとめられた『里山学』という学問はすでにありますが、里山をどう維持管理して、つくっていくのかという視点で書かれている教科書はまだありません。『里山工学』という学問を立ち上げて、里山をつくる知識や技術を一般化し、さまざまな地域で生かせるようにしていきたいと思っています」
「このフィールドで活動したいという研究者は大歓迎」と言う高木教授。今後も里山を生かす研究テーマはどんどん増えていきそうだ。

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「里山プロジェクト」で進行中の主な取り組み

・香美市の過疎村落にある金峯神社の再建プロジェクト(渡辺 菊眞准教授)
・「里山プロジェクト」で進行中の主な取り組み
・金峯神社周辺地盤の安定性評価(大内 雅博教授ほか)
・地域交流をめざした古民家の改修計画(吉田 晋教授ほか)
・香美市中山間地域にある古民家周辺の山林の現況と変遷(渡辺 菊眞准教授ほか)
・古民家の省エネルギー改修(田島 昌樹准教授)
・小水力発電サブプロジェクト(菊池 豊特任教授)など

取材日:2017年12月