研究者のための 総合的な空間情報データベースで 科学の発展を支えたい

高木 方隆TAKAGI Masataka

専門分野

国土情報処理工学

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人工衛星と現場の二本柱でデータの信頼性を高める

人工衛星などから遠隔操作で地表面のさまざまな情報を取得する「リモートセンシング」と、そうして得られた位置情報を含んだデータを処理し、分析を行う「地理情報システム(GIS)」。高木教授はこの二つの基盤技術を軸に、地理データの活用や斜面災害の解析、社会基盤への応用などを行っている。

「人工衛星で高精度に観測できることを示すには、地上での計測が何より大切です」という高木教授。その言葉の通り、研究活動の比重は人工衛星から取得したデータを解析することより、現場で自然と向き合いながら計測を行うことの方が格段に大きい。

「衛星が撮影したデータを地上の人間の目で検証することに、大きな意味があります。最先端の計測・解析技術を駆使しながらも、実際に現場で測ることで得られた事実をしっかりと伝えていきたいと思っています」

衛星リモートセンシングの高精度化をテーマに掲げ、これまで四国を対象に植生・地形・地質を主としたあらゆる衛星画像や地理情報を集積してきた。現在はこれらの膨大なデータに、植物資源の情報や社会・文化的な情報までも重ね合わせることで、産業政策や防災施策に応用できる社会基盤情報の構築をめざしている。ところが、社会・文化的な事象や、自然事象でも地道な実地調査が必要な課題については、地図表現が難しく、これらを社会基盤情報として活用する段階には至っていない。こうした問題の解決には、取得したデータをわかりやすく表現し、活用につなげられる解析手法の構築が必須となる。

「リモートセンシングや地理情報システムは年々進化していますが、衛星による観測データはそのままでは活用できないようなものがほとんど。そんなデータを補正しながら、より多くのデータをわかりやすく表現できる解析の仕組みを構築したいと思っています。そして、ここを見れば必ず有益な情報が得られるというような研究者のための万能なデータベースを作り上げることが目標です。すべての研究者にとって使いやすいものに仕上げて、科学的な研究につなげてもらいたいですね」

自然情報を網羅的にストックできる三次元ボクセルモデル

高木教授はそんな目標実現への足掛かりとなる新たな手法を確立した。それが地上のあらゆるデータを整備し、ストックできる三次元ボクセルモデルだ。ボクセルとは、三次元空間を微小立方体で区切り、それぞれの立方体に属性データを付与したデータモデルのこと。物体の表面だけでなく、内部の形状も忠実に表現できることがメリットだ。

「ボクセルモデルを使うと、地表だけでなく、空中や地下の情報までもデータとしてストックできます。つまりこの世に存在する自然情報を網羅的に蓄積できるんです」

どのようにしてこの手法を形にしてきたのだろうか。そのきっかけは、反射光から対象物の距離や方向などを測定する「LiDAR」と、動画や静止画からカメラ撮影位置を推定し、三次元形状を復元する要素技術の一つ「SfM」、空撮が可能な無人航空機「UAV」という3つの測定技術。高木教授はこうした技術を用いて、高知県内の森林で衛星画像のシミュレーション、バイオマス量の算出、林床部での日射量の推定などを行ってきた。これらの成果を得るためには、高精度の三次元モデルが必要となるが、「LiDAR」や「SfM」の点群データは膨大。点群密度は空間的に不均質であることから、少ないデータ量で均質なデータに変換できる手法としてボクセル化に目を付けた。そして、「LiDAR」「SfM」「UAV」を用いた森林の三次元ボクセルモデルの作成手法の構築に成功した。広範囲の自然環境の状況をモデル化することを想定し、用途に応じてさまざまな属性データを付与できるよう10cmと大きめのボクセルとしたところが特徴だ。

ボクセルモデルを使ったデータストックの手法としては、植物専用のミクロなモデルは先行研究としてすでに存在していたが、一つのボクセルのサイズがこれほど大きく、多くの人の利用を想定した汎用性の高いものはこれまでなかった。

「例えば、土質の研究者なら土、植物の研究者なら植物が生えている場所と、研究者は各分野に特化したデータしか持っていないのが当たり前。分野の枠を越えたあらゆるデータを利用できる仕組みは現在のところ皆無です。今回この手法を確立したことで、総合的な空間情報データベースの実現にぐっと近づきました。これによって、研究者が他分野のデータも手軽に活用し、さまざまな解析が行えるようになれば、分野横断的な研究が加速し、科学の発展のスピードも勢いを増すでしょう。そんなきっかけをつくっていきたいと思っています」

現代の科学技術を実装し、工学的視点から里山再生をめざす

子どもの頃から自然が大好きだったという高木教授。大学時代は農地災害を扱う研究室に所属し、崖崩れや地すべりが起こっている現場の土質調査に没頭。そんな中、地すべりという現象に興味を惹かれていった。

「地すべりはそれぞれ原因も形も大きさも違い、どれ一つとして同じ現象がありません。非常におもしろくて、とことん突き詰めたいなと思いました」

地球の形状を定量的に解析することから始めようと、大学院修了後は東京大学生産技術研究所の研究員として、人工衛星の研究をスタート。そのことが今につながっている。

そして今、高木教授は本学内の幅広い分野の研究者を巻き込み、新たな取り組みを始動しようとしている。それが現代の科学技術を高知県の中山間地域に実装し、豊かなコミュニティの構築をめざす里山再生プロジェクトだ。

「研究を通して四国の中山間地域に足繁く通ううちに、災害を防ぐことに躍起になるだけでなく、ありのままの自然を受け入れることの大切さを思うようになりました。これまで地理データの防災への活用なども行ってきましたが、究極の防災は里山再生にあるのではないか。そんな思いに至ったんです」

動植物の保全・活用やバイオマス・マイクロ水力といった自然エネルギーの活用、道路・河川・水路などの多自然型インフラ整備、そして古民家や廃校を活用した里山拠点整備に、里山暮らしのアプリ開発などICTによる里山生活支援......。こうした本学の保有する科学技術を駆使して、里山を維持管理する仕組みをつくることが長期的な展望だ。このプロジェクトが進展すれば、対象地域は優れた防災力を獲得し、住民にとってはより安心して住み続けられる心豊かな生活の場となる。

「いろいろな分野の研究者と一緒に同じフィールドで大きな課題に取り組む。それこそがおもしろいと思うんですよ」

これまで集積してきた四国広域の膨大な地理情報データを土台に、分野の垣根を悠々と越えて、社会が抱える難題に挑んでいく。

掲載日:2016年4月1日

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