住環境・まち研究室

 人は古来より、より住みやすい場所を求めて移動してきました。世界中に、今は廃れたゴーストタウンが点在していることが、その歴史を物語っています。このような人の習性を鑑みると、日本の少子高齢化と人口減少が避けがたい現実である中で、これにどう向き合い、どのように今ある「住環境とまち」の未来を捉えれば良いのかは、とても深淵なテーマです。

 人々の生活を豊かに成り立たせるためには、個人の住宅にとどまらず、まちの人みなが利用する公共施設や公共福祉の機能が大切です。しかし、少子高齢化が進行し人口減少が加速する中で、従来型のいわゆる公共施設の類型に基づいて建物を計画するだけでは、現実の課題を理解しニーズを的確に捉え、何より未来に向けた豊かな住環境を維持するのは難しい状況です。したがって今後は、機能のための建築を整備すること、から、利用する・されるを優先した計画に転換し、建築と複数事業の組み合わせによる再編が急がれます。このような課題に対して、「住環境・まち研究室」では、多角的に工学と社会学の両面から取り組んでおります。

 具体的には、住環境やまちを、現在の高知県のように若年者が少なく高齢者が多い人口構成で上手に未来に向けて機能させ続けるには、時間と距離という物理的な制約を超える多様でインクルーシブな仕組みと、ICT技術の活用などによる「施設」からの脱却が、必要な視点となります。また、ライフラインの合理的な維持管理に貢献するエネルギー・水の地産地消、地域特性に応じた相互ケアとウェルネス向上技術の開発、さらに、近年多発する自然災害に備えた災害時のスフィア基準向上技術の提案などが検討されます。 

 とりわけ高知県の特長である豊かに恵まれた自然環境を活かした健康と、人口減少に屈しない保健・医療の安定性を、住環境・まちづくりの目標に据えることは、県内の若年層の人口流出を防ぐだけでなく、都市圏居住者の本格的なUターン、Jターン、Iターン移住を促進するためには必須で、大きな誘因になりうると考えます。なぜならば、人は本能的に健康や保健・医療に不安な場所に、命の危うさを想起する場所に、わざわざ住みたくはないからです。それは歴史が、世界中のゴーストタウンが証明しています。

研究室長からのメッセージ
「住環境・まち研究室」の現在の構成員は、ご縁があって高知県にやってきた都市圏からの移住者です。研究室長の個人的な経験になりますが、都市圏での生活は、ことに近年は、ヒートアイランド現象により夏の猛暑が加速し長期化しやり過ごすのが一苦労で、また、頻発する豪雨のたびに都市インフラの過密利用と経年劣化による脆弱性が露呈して、年々、人が住みやすい場所とは言い難くなってきていると感じます。
 一方で、現在の高知県の自然と人間が良いバランスで共存する姿は、人間らしく暮らす基盤が維持できていることを実感でき、ホッと安心感を覚えます。もちろん、若年層の人口流出は深刻ですし喫緊の課題と認識していますので、地域の皆さまと一緒に、この自然と人間の良いバランスを未来に向けて維持できる仕組みを探求し、そしてそれを、Uターン、Jターン、Iターン移住者の定着に繋げていきたいと考えています。
 現在は、香美市佐岡地区の古民家や、幡多郡黒潮町の医療拠点、県内の保健所を対象として研究を進めております。今後は、さらに幅広く柔軟に展開していく予定です。地域の皆さまにも、さまざまな視点から情報を共有していただけると大変ありがたいです。