新エネルギー革命

持続可能なエネルギーを求めて

20世紀は石油文明の時代でした。地球が何億年もかかって地下に閉じ込めた石油資源を活用することで、私たちは瞬く間に繁栄を手にしたいっぽう、その対価としてかつてない環境変動の脅威に直面しています。

21世紀は、石油文明に代わって、新しいエネルギー革命にもとづく持続可能な文明を構築していかなければなりません。そこで再生可能なエネルギー源として様々なものが考えられていますが、太陽光・熱、風力、小水力、地熱、波力などとならんでバイオマスにも期待が寄せられています。2009年9月にバイオマス活用推進基本法が施行され、エネルギー供給源の多様化を担うものとしてバイオマスが位置づけられました。

しかし、グリーン・イノベーションと銘打った様々な政府資料などを見ると、バイオマスのエネルギー利用研究の中心は、ガス化やエタノールの抽出などであり、薪のように直接燃料として使うということは、じつはあまり考えられていません。

高知県は森林資源が豊富な割にその活用は十分とはいえませんが、これまでの用材利用という考え方に囚われずに、燃料利用という考え方を取り入れると、そこから新しい森林活用の可能性を見出すことができるのです。そのカギとなるのが木質ペレット燃料です。

木質ペレット燃料

重油に代わる木質ペレット

高知県の主要産業のひとつはハウス栽培による野菜の生産です。みょうがのハウス栽培は全国シェアで6割を占めています。他にも高知県の野菜で全国シェア1位というものは、しょうが、ししとう、にら、なすなどがありますが、その多くでハウス栽培がおこなわれています。

このハウス栽培の多くで重油ボイラーによる暖房が行われています。作物の種類によっても異なりますが、その燃料費だけで農業経営費の2割から、ときには3割以上も占めることがあります。しかも、A重油と呼ばれるこの燃料は2004年1月には1リットルあたり45円であったものが、2008年7月には120円まで急騰してきました。4年半で実に2.7倍です。もともと農業経営費の2-3割も占める費用が2.7倍ともなれば農家には大きな打撃となります。

そこで、この重油に代わるボイラー燃料として注目されるのが木材から作られた木質ペレットです。地中から取り出された石油を燃やせばその分大気中のCO2は増加しますが、樹木はもともと大気中のCO2を固定しているので、それを燃やしても地表でのCO2の総量は増加しません。

これは「カーボンニュートラル」といわれ、木質ペレットが地球温暖化対策という観点から評価されるようになってきた理由です。とくにヨーロッパでは21世紀に入るころから急速に利用が拡大しています。

さらにハウス暖房に木質ペレットボイラーを使う場合のメリットが予想されます。重油ボイラーでは燃焼ガスに硫黄酸化物などが含まれるため、排気はハウス外に行う仕組みになっています。しかし、木質ペレットの場合燃焼ガスはCO2がほとんどなのでハウス内に排気することも可能で、そのCO2が野菜の生育を促すという副次効果も期待されます。

ピーマン栽培ハウスに設置されたペレットボイラー

木質ペレット普及のカギ

木質ペレット燃料が普及するためには、重油バーナーと比較しての燃費効率の向上、原料供給の安定性、輸送コストの削減、環境メリットの評価等々、それらをすべて総合した経済合理性が課題となります。

第一に、燃費効率の向上については、ペレット自体とボイラーの性能向上が考えられます。木質ペレットには、木の皮まで含めて粉砕して成型加工した全木ペレットと、樹皮をはがして木部のみを成型加工したホワイトペレットがあり、ホワイトの方が燃費が良いことが知られています。ところが、わが国の従来のバイオマス利用の考えの中でペレットは、製材屑、林地残材、建築廃材などのいわば廃物利用の一環として位置付けられていたため、ホワイトペレットの発想はなかったのです。これに対し、ヨーロッパでは一般流通する燃料としてホワイトペレットが主流で、燃料加工のためだけの植林まで行われているのです。はじめから燃料生産を目的にすれば樹種の選択も含めてペレットの性能はまだまだ向上します。

また、ボイラー性能もホワイトを前提に改良の余地はまだありますし、機器価格も、普及によって量産化が可能となれば当然まだ下がるものと予想されます。普及と価格低下の関係は鶏と卵ですが、そのような関係は政策誘導によって変えられるものです。

切捨て間伐が行われている森林の現状

第二に、原料供給についてはわが国の森林の再生能力を考慮すれば、計画造林によって十分安定的な供給は可能です。むしろ現在の森林経営は、輸入材の圧力に押されてほぼ破綻しており、お金にならない間伐に補助金を投じ、しかも伐採放置して枯れるにまかせている状況ですから、燃料利用の拡大は森林経営を活性化させるメリットがあります。

さらに、森林によるCO2の削減はじつは成長過程にある森林でなければ起こらないのです。成熟した森林では昼間の炭酸同化作用と、夜間の呼吸作用とが相殺されてしまうからです。したがってCO2削減のためにも森林の活用・再生産はメリットが大きいのです。

第三に、森林からのバイオマス利用が進まない大きな理由のひとつに輸送コストの問題が上げられます。これがペレットの価格の限定要因にもなります。この点、高知県は、山から海までの距離が短いという地形的な有利さがあり、山間部の樹から造った木質ペレットを平野部のハウス栽培の燃料源とするモデルは、海外からの輸入重油に頼るモデルよりははるかに経済合理性が高いといえます。

高知の革命モデル

地域連携機構・地域活性化研究室の永野正展教授は、このような山間部の森林資源を平野部のハウス野菜の生産につなげるという一石数鳥のモデルを提案し、いくつかのプロジェクトとして実施しています。 (社会マネジメント・システム学の話の芸西村の事例参照)

アイディアの根幹は、森林資源の用材利用に囚われずに、燃料利用の観点から見ることにあります。
まず、立木の状態から燃料として見るなら、丸太で山から搬出する必要はなくなり、現場でチップ化処理をして輸送経費を削減することができます。たとえば、よくミカン畑の収穫に使われるモノレールを応用すれば、環境破壊の要因ともなる林道を設置するコストも削減できるでしょう。樹皮はその場で剥いで、一部は山の養分として残し、一部はホワイトペレットの乾燥用の燃料に使えば合理的です。もちろん切捨て間伐の放置材も同様に処理できます。

次に、廃物利用に囚われないことで、はじめから大規模なペレット工場を構想しています。日本で最大といわれる大分や宮崎のペレット工場は火力発電用に建設されたもので、その生産規模は年間2.5万トン程度で、岡山にある一般燃料用ペレット工場では1.5万トンの生産能力ですが、欧米では5〜10万トン程度の工場はごく当り前です。つまり、スケールメリットを出して価格を一気に下げて普及を図るには、廃物利用という中途半端な発想ではなく、燃料自給のための投資と見る発想が必要なのです。

さらに、この投資に見合う大きなマーケットが地元高知県には確実にあります。先にご紹介した主要産業ともいうべき農業ハウス群です。これらのハウスで使用されているA重油をペレット量に換算すると14万トン程度です。高知県の山林で成長している樹木の生長量は年間で600万立方メートルを上回る状況です。

成長量をA重油に換算すると150万klに達します。現場農家からは石油価格の変動に左右されない安定経営がなにより求められていますから、木質ペレットボイラーのシステムは、安価な原料供給さえ担保されれば確実に普及し、それがさらなる価格低下ももたらすことになります。加えて、ペレット加温で育成された作物には「低炭素野菜」というブランド価値を付加することも可能となります。現実に、都会の大手スーパーとの間でこのブランド野菜の販売の交渉も進められています。

下図は、農業用ハウスでの燃料を木質燃料に切り替えた場合の新価値創造を金額換算したもので、年間で100億円程度が地元産業の手で構築でき、それまで県外に支払ってきた巨額な流失を止めることが可能になります。

今後、このアイディアを実現していけば高知県の農林業の形は大きく変わっていくでしょう。ただし、そのためには既成概念と、そこから生まれた補助金漬けの既存体制からの脱皮を図る必要もあり、なによりも県民一人ひとりの意識の高さが求められるのです。